第93話 もう一人の助っ人
「こーちゃん頑張って!」
野江先生騒動の後、宮之阪が俺に近付いて来て俺にそう声を掛けてくれた。
そうだ、君がくれた光によって俺は立ち直られたんだ。
「あぁ、
俺はありったけの感謝の想いを笑顔に込めて宮之阪……、みゃーちゃんにそう返した。
「こーちゃん……。うん」
顔を真っ赤にしたみゃーちゃんは目を伏せて頷く。
俺はその顔に暫し見惚れてしまう。
「あ~良い雰囲気のところ大変申し訳ないんだが、ちょっといいかね?」
芸人先輩が低い声で割って入って来た。
凄いジト目で俺を見ていた。
いや周り全員同じ目だ。
「あっ、す、すみません」
俺は慌ててみゃーちゃんから距離を取った。
その行動にみゃーちゃんは『あっ』と言って少し残念そうな顔をしている。
「まぁいいだろう。時間が無いので話を進めようか。実はもう一人の助っ人、いや違うな。もう一匹助っ人が居るんだよ。出て来たまえ我が助手よ!」
芸人先輩がそう言って、自分が出て来たロッカーに向かって声を掛けた。
「はぁ~博士~。やっとですか~。もっと早く呼んで欲しかったですよ~。この中暑くて死にそうでした~」
それを合図にロッカーの扉が開き、中から人が出て来た。
誰だっ! と思ったけどよく見るとそれは
のぼせ上がって少しやつれた顔をしている。
そんなに広いロッカーじゃないと思うのだが、もしかして長時間この中に隠れていたのだろうか? しかも俺達が来る前は芸人先輩と二人で?
なんかすっごい汗だくだ。
「もっと早く呼んでやれよ!」
と言うか一緒に出て来たら良かっただろ!
可愛そうにお飾り部長フラフラじゃないか!
俺は思いっ切り芸人先輩にツッコんだ。
「ふっふ~」プルプル。
俺のツッコミにプルプルしている芸人先輩。
この人は……。
「で? 樟葉先輩が助っ人なんですか? でも匹ってなんですか。人でしょ」
匹は酷いだろ、匹は。
「いえ、私じゃなくてこの子です」
そう言ってロッカーの中から小さい飼育箱を取り出した。
そこには……。
え? 涼子さん……?
いや、それは既にやった。
そう、そこに居たのは目を回したジャンボリアンハムスター。
ロッカーに入るように、その体躯に似合わない小さめの飼育箱に入れられている。
って、目を回してる? そりゃダメでしょ!
「モッ! モグーーーー! 大丈夫か!!」
「チュ、チュ~」
モグは何とか起き上がり、か細いながらも返事をしてくれた。
「光善寺先輩! 酷いですよ! あんな狭くて暑苦しい所にモグを押し込めておくなんて!」
「チュ、チュチュッチューー」
モグも一生懸命訴えている。
「いやその暑苦しい中に私も居たんだけどね」
「私も居ました~」
「やかましい!!」
「「ふっふ~」」プルプル。
お飾り部長、あんたもかい!
やっぱり生物部ってお笑い研究会なんだろ?
「で、モグがどうしたんです?」
俺はお飾り部長からモグの飼育箱を受け取り、隙間から頭を撫でてやる。
モグは気持ち良さそうに目を瞑ってされるがままだ。
「彼女がもう一匹の助っ人だよ」
「へ?」
そういわれて俺はモグを見た。
そんな訳は無いのだが、何故かモグはドヤ顔しているように見える。
「そうね。この子は頼りになりそうだわ」
「モグが一緒なら百人力だ」
お姉さんとドキ先輩はモグを見て満足げだ。
え? 分かるの? 強者は強者を知る的なアレ?
なんかモグへの評価の言葉が水流ちゃんと同じレベルなんだけど?
「こーちゃん! その子はなんなの? 凄くかわいい!」
みゃーちゃんがモグを見て駆け寄ってきた。
皆も釣られてハムスターにしたら冗談と思う程にでかいモグの周りに集まってくる。
「いっちゃん? ちょっとでかすぎへん? あたしキンクマ飼ってるけどそれより大きいんだけど……?」
「うわ~うわ~可愛いね~」
「これが千花が言っていたハムスター? いいなぁ~欲しいなぁ~」
口々にモグの事を可愛いと褒めてくれる。
まだ飼ってはいないんだけど、なんか飼い主(仮)としてとっても嬉しい。
みゃーちゃんも生き物係なんだから同じく飼い主になるんだよな。
紹介しておかなきゃ。
「この子が俺達が飼う事になるハムスターのモグだよ」
飼育箱を持ち上げてみゃ―ちゃんに見せる。
みゃーちゃんはそれを聞いて嬉しそうに手を飼育箱に伸ばしてくる。
「「「あっ」」」
俺と芸人先輩とお飾り部長は同時に声を上げた。
そうだ、危ない!
モグって俺が怒らない様に言い聞かせておかないと、人の指を噛み千切る恐れが有るんだった。
「みゃーちゃん! 危な……、あれ?」
俺がみゃーちゃんに指を引っ込めるように言おうとしたんだけど、その必要は無かった。
何故かと言うと、みゃーちゃんが差し出した指に、まるで握手をするかのようにモグが片手でその指を掴んでいたからだ。
「チュッチュチュ~」
その様子はまるで『これからよろしく』とでも言っているようだった。
あれ? モグってマジで知性が有ったりするのか?
「ふむふむ。モグは彼女を飼い主と認めたようだ。もしかすると先程彼女が絶望の淵に居た牧野くんを優しく励ました事を、ロッカーの中から聞いていたのかもしれないね。さすが私の創造したクリーチャ……ゲフンゲフン。私が育てたハムスターだ!」
「本当ですね博士! ゲノムレベルで脳みそを弄って知性を底上……ゲフンゲフン。ゲームによる学習効果で賢くしただけ有りますよ」
「言い直さなくていいっつうの!」
「「ふっふ~」」プルプル。
もうなんか色々アレだよ、この人達!
「まぁ、冗談は置いといて、その子は役に立つよ。私の最高傑作なんだ。私設警備員の一人や二人、赤子の手を捻るようなもんさ」
うわっ! 既に人より強い生物造ってたよこの人!
冗談にしといてくださいよ、そんな大変な事。
とは言え、今はとても心強い!
「よろしくな! モグ!」
「チュー!」
俺の言葉にサムズアップをするモグ。
あぁこの前、手を振っていたのは見間違いじゃなかったんだな~。
「牧野くん! 美都乃さん、美佐都ちゃん、橙子ちゃん、……そして創始者をお願いね! 私達はちょっと今から行かなければならない所が有るの。後で御陵家で合流しましょう」
千歳さんが俺に声を掛けて来た。
後ろにポックル先輩とウニ先輩が大きく頷いている。
行かなければいけない所? なんか用事が有るのかな? それに後で合流ってどう言う事だろう?
「何処行くんですか? それに後で合流って、御陵家でって事ですか?」
「そう御陵家。詳しくはまだ内緒。 秘密兵器を持っていくから期待してて」
俺の問いに少し左肩を上げてウインクで返してくる千歳さん。
何か凄くかわいい。
俺の母さんと同い年とは信じられないや。
しかし、秘密兵器ってなにかな?
けど千歳さんが自信満々で言うって事は良い物なんだろう。
良く分からないけど期待させて貰うとするか。
「あ~牧野くん。ちょっと待ちたまえ」
さぁ行こう! としたところ、何度目かの芸人先輩の呼び止めだ。
しかし、今度はとても優しい笑顔で俺を見詰めている。
「旅立つ君に曾爺さんからのメッセージを伝えるとしよう」
「光善寺く……さんのメッセージ? なんですそれ?」
芸人先輩はそれには答えず、目を瞑り少し俯く。
暫く後に、目を開けて顔を上げ俺を見詰めてきた。
「……やぁ、私の親友。元気にしてたかい?」
芸人先輩が言ったその言葉……。
不意に光善寺君の顔が芸人先輩の顔に被ったように見えた。
その顔を見た途端、心の奥から言葉が浮かび、思わず口から零れ落ちた。
「フフッ、相変わらずだね光善寺君は。
「「はは……、はははは、あはははは」」
俺達は二人して心から笑い合った。
周りはそんな俺と芸人先輩のやり取りにポカーンと口を開けている。
まぁ仕方が無いよね。
「あはははは、は。うん、これなら大丈夫だ。父さんや爺さんは悔しがるだろうな。我が家の悲願が一番やる気の無かった私の代でやっと果たされるんだ。これで曾爺さんも安心して成仏出来るだろう。そして幸一さんもね」
芸人先輩はとても嬉しそうに笑っている。
うん、そうだ。
自分の言葉によって愛する人がずっと苦しんでいる様を、幸一さんは悲しんでいただろう。
けど……。
「光善寺先輩? 一つ良いですか?」
「ん? なんだい牧野くん」
「さっき、幸一さんの名前を皮肉って言いましたが、それは違いますよ。幸一さんは、それはそれはとても幸せな人生を送りましたよ」
「フフフッ。知っているよ。彼は幸せ者さ。なんたって私の曾爺さんと親友だったからね」
……それは、どうだろう?
いや、そうだな、光善寺君が親友で本当に幸せだったと思うよ。
それに大切な皆に看取られて、大好きな
これ以上の幸せがあるだろうか?
幸一さんの不幸は、自分が残した言葉が、残った人達を苦しめているという事だ。
大丈夫! 俺が皆を救ってみせる!
そう心に誓い、俺はお姉さん達と共に生徒会室を飛び出した。
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