第71話 Win-Loseな関係

 

「うん、ハンバーグのタネは良い感じだな」


 俺が寝かせておいたタネの具合を確かめながらゆで卵を作っていると、先程の恐縮合戦も一息つき、すっかり仲良くなった涼子さんと野江先生が、俺にとっての漫画ネタバレを含む熱いトークを繰り広げていた。


 三巻表紙の禿マッチョって実は一話目から出てたのか~。

 その次の作品はファンタジーな世界でシェフを目指す女の子の話なんだな~。

 途中から恋愛とかシェフとか設定のそっちのけで食べ歩き漫遊記になったとか言ってるけど、よく編集部が許可したよな~。

 まぁ涼子さんらしいけど。


 等々のネタバレ避けるために台所に向かった俺の耳にもしっかりと聞こえる大きな声で喋る二人。


 あれ? お姉さんは?


「あ~お姉さん! 俺の部屋を家探ししないで! やましい物なんて無いから!」


「え? 牧野くん? それは年頃の男の子として先生どうかと思うな。 牧野くんの歳ならエロ本の一冊や二冊隠し持ってるものでしょう? 私の弟とかも隠していたわよ?」


「先生! それ逆に教師としてどうかしてますよ! エロ本ってはっきり言わないでください!」


 姉に家探しされる弟さんに激しく同情するよ!


「あっ! 今気づいた! これ販売終了した日本の害獣シリーズじゃない!」


 そんなやり取りをしている最中さなか、涼子さんは先程自分が食べたチョコ玉子のパッケージに気付いたようだ。

 パッケージを良く見ていなかったけど、害獣って……。

 この製菓会社の企画部は攻めるよな~。


「これには隠れシークレットって有るんですか?」


 過去の二つは何故か運良く俺が引き当てたんだけど、これはどうなんだろうか?


「う~ん、残念だけどネットにも情報無いから多分無いわね。一般にこの後に出た世界の珍獣の新シリーズからの実装と言われているわ。そう、牧野くんが当ててくれたムカシハナアルキが初と言われているの。でもメーカーは明確に否定していないから、愛好家の間では今でも存在する派としない派で時折バトルになっているわ。だけど、ここまで表に出て来ないとなるとやっぱり無いと言う事かしらね~」


 苦笑しながら涼子さんはそう言った。

 そっか~、残念だな~。

 って何当てる気になってるんだよ。前のはたまたまだろうに。


「そうですか。そう言えば涼子さんはそのシリーズも買ってたんですか?」


「そりゃ、勿論よ~。私から食玩を取ったら何が残ると思うの?」


 あなたプロの漫画家さんですよね?

 食玩取っただけで消えるような人間構成じゃない筈ですよね?


「じゃあ、何が一個小隊になったんですか?」


 確か、今のはドードーで前回のがセンジュナマコだっけ? 他にも過去の絶滅種シリーズのは聞いたけど、それ以外は知らないな。


「牧野くん! 失礼よ! 私毎回そんな事ないんですからね?」


 と涼子さんは反論してるけど……?


「で、何が一個小隊になったんです?」


「……ジャンボタニシ……」


 ほらね。

 でもジャンボタニシか~、それ害獣じゃ無くて害虫にならないのかな?

 相変わらず範囲がアバウトだよなぁ~。


「そうですか。それ、持ってない奴だと言いですね」


 涼子さんの一個小隊シリーズを聞けて満足した俺はハンバーグ作りに戻る。


「さてゆで卵はっと。おっあと2分か」


 今居る4人分とあと二つ、計六個の玉子を茹でている。

 一個は俺の朝食で、もう一個は多分明日は追い込みで今日以上に遅くなるだろうから、涼子さんの明日の晩飯分だな。

 結局今日は全く編集作業が出来なかったし、明日鬼の追い込みになるだろうな。

 皆にしても俺が出たのと入れ違いで、お姉さん達が乱入して結局俺が戻るまで駄弁っていたようだし、その後はアレだったしね。



「うぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!」


 うわっ! いきなりなんだ?

 急に背後で上がった雄叫びにびっくりして振り返る。

 そこにはガッツポーズをしている涼子さん。

 あぁ、なんか良いのが当たったんだな。それは良かったですね。

 理由が分かり安心した俺はまた台所に向き直る。


 ピピピッピピピッ


 おっ丁度キッチンタイマーが鳴ったな。さてゆで卵を冷まそうか。

 俺はコンロの火を止めて、流水に晒す為、鍋をシンクまで持っていこうと手をかけ……。


「牧野くぅ~~ん! やったよ~~!」


 その声と共に涼子さんがタックル……、いや凄いスピードで抱き付いて来た。

 あぶねっ! むっちゃあぶねっ!

 鍋持ってたらマジで大火傷する所だった!


「涼子さんマジ危ないですよ! 俺が台所立ってる時は勘弁してください!」


 俺がそう怒るのだが、涼子さんの興奮は冷めやらずぎゅうぎゅう抱き締めてくる。

 それ程良いのが出たのか?


「まっ、牧野くん? やっぱり二人はそんな関係だったのね?」


「ちょ、先生誤解ですって! それにさっき先生も同じ事して来たじゃないですかっ! 『ビックウェーブ』とか言って!」


「いや、あれは~その~、あの場で私だけが隅っこでポツンと立ってるのって寂しいじゃない? それに抱き締めたって減るもんじゃないし。いや、むしろ増えたわね」


 何がっ!?


「これも似たようなもんですよ。この人お菓子のおまけが大好きで、良いのが出たら大はしゃぎするんです。で、涼子さん、何が出たんですか?」


 この喜びようはシークレットでも出たのかな?


「凄いわよ! 牧野くん! ほらこの豪華な説明書を見て!」


 え? 豪華な説明書って、それって。

 いや、近い! 近いって!

 見てって言って、目に当たらんばかりに説明書を見せつけてくるんだけど近すぎて見えないよ!

 しかし、豪華な説明書って言うと隠れシークレットじゃないのか? さっき無いと言っていたのに……。


「この紙は確か隠れシークレット奴と同じですね。中身はシークレットとは違う奴だったんですか?」


 隠れシークレットが登場するまでシークレットが豪華な紙だった可能性が有るからね。

 と言っても、この人がそんな情報知らない訳無いか。


「違うわよ! このシリーズのシークレットはニホンオオカミだったの。でも、これも狼っぽいけど全然違うの!」


 ニホンオオカミって絶滅種シリーズで良かったんじゃないのか?

 相変わらずカテゴリ分けが曖昧だなぁ~。


「どんなのなんですか?」


 狼みたいなのに狼と違う? なんだそれ?


「なんか顔が怖いし手足がロボットみたいなのよ!」


 ロボット? 生き物じゃないのか? ア○ボとか?

 いやあれは害獣じゃないから違うか。

 俺は不思議に思いカプセルの中を見た。


「どれどれ……。……ああ、なるほど。そう来たか~。まぁムカシナハアルキや絶滅種のアレとかよりは、まだシリーズの意図に則ってて良いんじゃないですか?」


 何かちょっと前ニュースでやっていたなぁ~。


「なになに? どんなのが当たったの?」


 涼子さんの余りの喜びように、お姉さんまでやって来た。


「あぁ~、これね~。まぁ害獣と言えば一時話題になったわよね」


「え? これなんなの? とっても怖いんだけど? こんな生物居るの?」


「いやそれ生物じゃないですよ」


 どうも涼子さんは、それがなんなのか知らないみたいだ。


「これ、害獣対策用ロボットのスーパー怪物狼じゃない?」


 野江先生は知っていたようだ。

 少し前にテレビで話題になった害獣避けのオオカミ型ロボットで、何よりその顔は子供が見ただけで泣きそう、と言うか大人でも夜道で見たら腰抜かす事間違いないレベルの怖さだ。

 それが目が光ったり首振りながら大音量で吠え出したりするもんだから、もうこいつが害獣じゃないか? と噂になったりしてるとか、してないとか。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あはははははっ! そんなの有るんだ~。笑いすぎて腹筋が痛いわ」


 涼子さんなら飛びつくネタと思ったのだ全く知らないらしくて、スマホで動画を見せたら腹を抱えて笑い出した。

 まぁ俺もニュースで見た時、腹筋が崩壊したなぁ~。


「なんかどんどん進化していってるみたい。名前もそれに合わせて長くなっていってるみたい。その内自立歩行して害獣を狩ったりするようになるかもね」


 それは怖いなぁ~。


「―20xx年、進化の果てに自我に目覚めたウルトラスーパービッグマキシムグレートストロング怪物狼によって人類は絶滅の危機に瀕する事を、今はまだ誰も知らない……」


「変なフラグ立てるの止めて下さい涼子さん!」


 ただでさえ人類絶滅のフラグは芸人先輩が立ててしまっているのに、これ以上フラグを増やさないでください。



 さて、気を取り直して料理の再開しようか。

 ゆで卵を冷やしてと、その間に大鍋でも出しておこうかな。

 いつもなら3個だけど今日は6個だからね。


「コーくん? 今日はハンバーグじゃなかったの? その鍋どうするの?」


「牧野くん! あたしの舌はもうハンバーグ舌になってるんだけど~」


 俺がシンクの下の収納から大鍋を出してると、その音に気付いてお姉さんと涼子さんが鍋の使い道を聞いてきた。

 野江先生に至っては涙目で手を口に当てて信じられないと言った雰囲気で俺を見てくる。

 そんなにハンバーグ食べたいですか、そうですか。


「安心してくださいよ。ちゃんとハンバーグですから」


 俺はシンクの中に鍋を置き中身を軽くすすぐ。

 そりゃ洗って仕舞ってるけど引っ越してからは一回も使ってないから一応ね。

 三人は俺の言葉を信じられないのか、ジト目で俺を見つめてくる。

 野江先生の瞳からは一筋の涙が……。

 って、あんたもなかなか残念な大人だよな。


「いや、だからちゃんとハンバーグですって。ただ今回はスコッチエッグ風にするんで最初に蒸しておくんですよ。今回数が多いですから大鍋で蒸んです」


 俺がそう説明すると、察しの良いお姉さんは気付いたようだ。

 なるほど~と頷いている。


「どう言う事なの? 私焦げ目の有るハンバーグが好きよ?」


 察しの悪い涼子さんは自分が理想とするハンバーグ像を押し付けてくる。

 と言うか、俺が『スコッチエッグ風』って昨日説明した時に分かってる様な返事してたと思うのだが?

 まぁこの人は食べるの専門だから調理法とか気にしないんだろうな。


「後でちゃんと焼きますって。スコッチエッグって揚げますよね? でも俺のはあくまで『風』なんで揚げないんですよ。なので玉子をタネで包んでそのまま焼いてしまうと、焼きムラが出て型崩れしちゃうんです。だから最初に蒸してタネを固めてから焼くんですよ。そうすると型崩れが防げて中まで火が通るんです」


 普通のハンバーグでも蒸すけど、それ以上にゆで玉子のつるつる具合も合わさって、そのまま直置きで加熱を開始するとフライパン接地面は肉が早く収縮されるので、それ以外の箇所との収縮の違いの所為でボロボロと崩壊しやすくなってしまうんだよね。

 俺はそれに気付くまで、肉そぼろの山に鎮座するゆで玉子の姿、そんな悪夢を何度か見ると言う苦い経験の記憶が有る。


 その説明でようやく涼子さんも納得したようだ。

 野江先生も『良かった……』と涙をハンカチでそっと拭っていた。

 お姉さんや涼子さんと言う感情の権化を前にしてさえ、一際目立つ存在感。

 この感情豊かでダメな大人は自分で料理を作ったりしないのだろうか?


「じゃあ、大人しく楽しみに待っていてください」


 俺はゆで玉子の殻を剥きながら皆にそう言った。

 あっ、一応聞いておこうか。

 お姉さんと涼子さんは今更と思うけど、野江先生は初めてだからね。


「あの、ちゃんと手を洗いますけど素手で料理していですか? ハンバーグ丸めたりとかするんですが?」


 お姉さんと涼子さんは思った通り、何を今更と言う少し呆れた様な顔をしているが、野江先生は『気にしていないわよ~』明るい顔で言ってくれた。

 ただその後の『若い男の子のエキスは望むところ!』とか言うちょっと聞きたくなかった言葉が聞こえて来たのは多分俺の気のせいだろう。

 だって、他の二人も『そうよね~』とか相槌してるし、そんなちょっとアレな思想を共感なんて普通しないもんね。


 じゃ~玉子をタネで包んでと。

 鍋に皿を2つ重ねてそれを超えない位に水を入れ、皿の上にボール上のハンバーグを並べて火をかける。


 よしと、これで暫くは放っておいて大丈夫だろう。

 その間に付けあわせの準備をしようかな。

 ブロッコリーは……寸前にチンででいいか。

 後はジャガイモのふかし芋とベビーキャロットのバター煮かな?

 コーンは水煮缶をバターで炒めるから最後でも構わない。

 ふかし芋も電子レンジで直ぐだし、バター煮が最優先事項だな。


 今日たまたま涼子さんが食べたい物と被ったんだけど、元々ハンバーグを作るつもりだったんだよね。

 切っ掛けは八百屋で売ってたベビーキャロット。

 よくレストランのハンバーグで付け合わせとして定番なベビーキャロットのバター煮グラッセが無性に食べたくなったからなんだよな。

 甘いのが好きだから砂糖を大目に煮込んでおこうか。

 これで取りあえずは蒸し上がるまで休憩だな。




「……そんな苦労があるんですか~。高校教師って大変ですね~」


「いやいや~。漫画家も大変でしょ~」


 涼子さんが取材を兼ねてなのか野江先生に色々と質問しているようだった。


「あら、コーくんご苦労様。一段落?」


「うん。 蒸し上がるまでは少し時間が有るからね」


 俺はそう言って部屋に座り込んだ。

 そこで思い出したけど今日の放課後部活巡りで殆ど歩きっぱなしだったし、生徒会室に戻ってからはアレだったんでちゃんと座ったのは何時間振りだろうか?

 何か足が棒のようだよ。


「牧野く~ん。本当にありがとうね~。ネットでも情報が出て来ない程の超レア物ゲット出来て、本当にうれしいわ~」


 先程の隠れシークレットのお礼を言ってくる涼子さん。

 やっぱり俺の運ってチョコ玉子のレアを当てる事に全振りしているようだ。


「本当に良かったですよ。涼子さんの喜ぶ姿を見れて俺も嬉しいです」


 涼子さんが喜ぶ姿って、なんかテレビとかでやってる小動物の面白映像で心がホッコリする感じと似ていてちょっと癒されるんだよな~。


「牧野くん? やっぱり深草先生と出来てるんじゃぁ~?」


 何やら野江先生がネチっこく聞いてくる。


「違いますって。しかし、今日一日で何か先生に対する印象が180°変わりましたよ」


 元生徒会長の肩書き、そして創始者の歓迎写真に対する本質を見抜いていた洞察力、それを知ってとても頼りがいのあるしっかりした大人かな? と期待してたけど、やっぱり残念さんだったのには、がっかりしたような? 安心したような?

 ただ、その片鱗は『生き物係』のポロッと本音を言って立候補者が居なくなったと言うのを聞いて感じてはいたけどね。


「もう、そんなに褒めないでよ!」


 いや~本当に残念さんだな~。

 なんか否定するのも面倒臭いや。


「……ははっ。まぁいいです。それより先生は一人暮らしなんですか?」


 苗字が当時の生徒会写真に書かれていたのと変っていないので結婚はして無さそうなのは分かっていたけど、この晩飯に対しての喜び様はどうなんだ?

 明らかに『一食浮いた~』とか『まともな晩ご飯が食べられる~』的なニュアンスを感じたんだけど。


「そうだけど? ……あら~先生の事に興味持った~? もしかして今度は私を落とそうとか思ってるの? でも残念。私はそんなに軽い女じゃないわよ?」


 あれれ? この人なんか本当に面倒臭いぞ~?


「あっ、いや、そんな事は微塵も思ってないですよ。ただあの浮かれよう。どうもちゃんとした晩飯を食べられていないのかなぁ~? って思ったんですよ」


 俺がそう言うと野江先生は泣き出した。

 本日二回目の……、いや先程ハンバーグじゃないと思って勝手に泣いてたな。

 本日三回目の野江先生の涙だ。

 一瞬酷い事を言いすぎたか? とドキリとしたが、どうもそんな雰囲気でもないようだ。


「分かってくれるの? 牧野くん。そうなのよ! 学校の先生って大変なのよ! 毎日毎日次の日の準備とか課題の添削とか放課後もたくさん仕事が有るのよ! 土日だって部活の顧問とかで休みじゃなかったりするし、生徒達の相手でストレス溜まりまくりで、帰ってから料理なんてする気力も湧かないくらいなの!」


 日ごろの鬱憤が溜まっていたのかな?

 次から次へと野江先生の口から愚痴が飛び出してくる。

 俺は『はぁそうですか~』と適当に相槌するが、正直アラサー女子の愚痴は俺には荷が思いし、何より興味が無い。


「一人でレストランなんて寂しすぎるじゃない? だからいっつもコンビニ弁当とかカップラーメンばっかりだったの!」


 俺に顔をぐっと近付けて来る野江先生だが……。


 酒臭くせェ!


 周りをよく見ると、床に缶チューハイを数本転がっている。

 いつの間にか既に酒盛りは始まっていたようだ。

 この面倒臭さは、所謂絡み酒って奴なのか。


「出会いも無いし、そもそも誰かと付き合うなんて、そんな暇も無い。お金だけは使い道無いから貯まっていくけど意味が無い! はぁ~私このまま枯れていくんだわ~。ねぇ? 牧野くんもそう思うわよね?」


 これもDead or Deadな質問じゃないか!

 肯定も否定も絡まれる未来しか想像出来ない。


「水流ちゃんは、表面はひょうきんに見えて根は凄く真面目だったからね~。どうせ先生の仕事も根詰めて一生懸命全力投球なんでしょう? 少しは手を抜く事を覚えなきゃ」


 俺が真剣に答え困っているとお姉さんが助け舟を出してくれた。

 なるほど根は真面目か。

 一瞬否定したくなったけど、俺が歓迎写真の話をした時の態度や自分の不甲斐無さでギャプ娘先輩に合わす顔が無いと言う言葉から、お姉さんの言った野江先生を評した言葉が説得力を持っている気がした。

 今日これだけ浮かれているのは学生時代からのわだかまりが解消したからなのだろうか?

 まぁ仕方無いな。絡み酒くらいは付きやってやるか。

 正気に戻れば恥ずかしくて別の心のわだかまりが出来そうだけどね。


「じゃあ、たまに牧野くんにご飯作ってもらったら~? 私も学校の話を生で聞けてネタ集めは捗るし~。Win-Winな関係よね~」


 いや、それあなた達側はWinでも俺にはLose過ぎるんで、WinーLoseな関係ですよ?


「涼子さん! なにを勝手に……」


「そうね~。あたしも色々と積もる話も有るし、なにより離れてしまっていた間の時間を取り戻したいしね。そうだ! 美都乃ちゃんも誘いましょうか」


「いや、マジで勘弁して、それ」


「あぁ良いですね~。そう言えば私が成人したら三人で一緒にお酒飲もうって約束してましたよね。この約束が果たされる時がやっと来るんですね」


「あたしもご一緒していい? 学園長の話を聞けるなんて滅多に無いもの~」


「「勿論OKよ」」


「だからなんで勝手に……」


 俺の悲痛な叫びは、三人の盛り上がりにかき消され、その耳には届いていないようだった。

 くそ~酔っ払い共め~!



「それ、普通に居酒屋にでも行って下さいよ!」


 ダメだ、誰も俺の話を聞きやがらねぇ!


 とは言え、創始者の説得も含めて全てが終わった後なら、皆で楽しく昔話をするのも悪くないかもな。

 野江先生とお姉さんの本当に楽しそうに話をしている顔を見て、願わくばそんな未来が来る事を俺は心の中でそっと願った。



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