第72話 あ~ん

 

「わ~美味しそう! しかもとっても大きい~! これよこれ! 望んでた奴だわ~」


 完成したスコッチエッグ風ハンバーグにお手製ソースを掛け、ふかし芋、ブロッコリー、コーンのバター炒め、そして俺が食べたかったベビーキャロットのバター煮! を皿に盛り付けて皆の前に並べた。

 一応涼子さんは一番大きいハンバーグを渡す。

 お姉さんと野江先生は少し不服そうだったんだけど昨日のタコ型ウィンナーを当てた景品と言う説明をすると渋々と納得してくれた。

 事情を知らない野江先生も『まぁ郷に入れば郷に従えよね』と微妙にずれているような納得し方だったけど。

 と言っても二人のハンバーグもいつも俺が作ってるのより大きいんだけどね。


「何か並べ方がレストランチックで良いわね」


「皿は普通の丸皿で大きさバラバラだけどね」


 一人暮らしの筈だったので正直食器類に関してはあまり揃っていないんだよな。

 特に大きめの丸皿なんてこんな時以外使わないからね。


「それは仕方無いわよ。でもなんでこんなに丸いのに転がらないの? あっ下に何か白いので固めてる」


「マッシュポテトの上に置いて転がらない様にしてるんですよ。昔運ぶ時に転がって落としてしまった悲しい思い出が有るんで保険の為ですね」


「あたしそんな事になったら泣いちゃうわ」




「「「「いっただっきまーーす!」」」」


 やっと晩御飯を食べられる、 本当にお腹ペコペコだよ~。

 俺が一生懸命晩飯を作っている後ろで、皆が楽しそうに酒盛りをしているのを理不尽に感じながらも、ハンバーグを作り上げ、何とか無事に『いただきます』まで漕ぎ着けた。


 今日は疲れた~!


 昼休みにいきなり乙女先輩と桃やん先輩から歓迎写真失敗計画を聞いて、そして学園長の想いも知った。

 そしてギャプ娘先輩と学園長は長い時を経て普通の親子としての絆を取り戻したんだ。

 その後乙女先輩の幼い頃の過ちによって縛り付けられていた苦悩を学園長の助けを借り解放する事も出来たんだよな。

 解放しすぎて常時乙女モードになっちゃったのはご愛嬌だ。


 明日には元に戻っていますように……。


 お笑い芸人はとてもとても疲れたけれど、語るのも疲れるから置いておこう。

 部活巡りの最後にまさか宗兄と再開するとは思わなかったな。

 しかも俺に因縁を付けて来たアホ継先輩が宗兄だったとは。

 でも俺達はお互い過去のすれ違った思いを知り、また仲良くなる事が出来た。

 俺が封印していた心の傷、それが癒されていくのを感じたんだ。

 萱島先パイのオッパイやドキ先輩のホッペにチューにはとても癒された。

 正直あれが無かったら、途中で倒れていたかもしれないよ。

 そして愛している人を語る事さえ奪われた学園長悲しみ、ギャプ娘先輩が心を閉ざした理由、今日だけで本当に色々有った。

 まさか、昨日より大変な一日になるとは夢にも……いやもうフラグ回収のプロを前にして死亡フラグを立てるような発言をした自分が迂闊過ぎたんだ。

 とは言え最後に皆からのハグと言うご褒美もちゃんと有ったからよしとするか。


 そんな事は置いておいて、取りあえず、メシメシ!


 あぁ~ベビーキャロットのバター煮グラッセうめぇ~!

 口の中に広がる砂糖による甘さの奥に、確かに感じるベビーキャロット本来の甘さ! そしてそれを際立たせるバターの香り!

 マジでうめぇ~! あぁ作ってよかった~!


 それにふかし芋も最高だ! 勿論十字に入れた切れ目の上にはバターを一欠片乗せてある。

 それが熱によって形を失いふかし芋の十字に流れ込む。

 ふかす事によってホクホクとなったジャガイモとバターの風味のベストマッチ! やはりジャガイモはこうでなくちゃいけないな。


 と、ここで抑えておかないといけないのがブロッコリーの存在だ。

 ブロッコリーは敢えて只の塩茹でにしてあるんだ。

 口の中に広がったバターの風味。

 それ自体は良いんだけど、どうしても後味としての心地良さとは別に口の中にぬめぬめとした不快な舌触りは残ってしまう。

 そこでブロッコリーなんだなぁ~。

 湯切りはしたとは言え、それでも茹でてすぐの熱々のブロッコリーのぼわぼわした部分には温かい湯が大量に含まれている。

 そこを噛むとじゅわっと口の中にお湯が広がりブロッコリーの少々青臭い匂いと共に油分を拭い去ってくれるんだ。


 あぁ~うまい!


「コーくん、ちゃんと野菜から食べるのね。えらいわ~。ママが小さい時に教えた事を守ってるのね」


 そんな事を言ってくるお姉さんだが、そう言えば小さい頃お姉さんからそう教わったな。

 なんとなく野菜から食べる習慣はその頃に植え付けられたのか……。

 あっ、ママじゃないですけどね。


「いや、まぁそうなんだけど、実は俺元々このベビーキャロットのグラッセが食べたくて、それに合う料理と考えてのハンバーグだったんで、だからまずそれからガッツリいこうと思ってね。昨日涼子さんがハンバーグを指定してくれたのは願っても無い事だったんだよ」


 まぁ、正直何を指定してきても付け合わせで出すつもりだったけど。

 例えそれが肉じゃがやカレーでもね。


「でも凄い勢いで野菜が無くなっていっちゃうわよ? もしかして牧野くんハンバーグ嫌いなの? じゃあ、あたしが貰って良い?」


「ダメですよ! 何言ってるんですか涼子さん! あっ! あれだけ大きいハンバーグあげたのにもう殆ど残ってないじゃないですか! 食べるの早すぎですよ!」


 涼子さんの皿の上には野菜だけが残り、あれだけ大きかったハンバーグは無残にも既に数個の欠片を遺すのみだ。


「だって美味しいんだもの~。このソースも最高ね。これは牧野くんが作ったの?」


「ええ、ハンバーグを蒸した後に残った肉汁と焼いた後に染み出てきた肉汁を合わせて、それをベースにケチャップ、醤油、ソースに砂糖。それとお酒を入れて味を調えたやつなんです。本当はワインを使いたかったんですが、誰かさん達が飲んじゃうから……」


 俺は部屋の隅に転がっている料理用に買っておいた赤ワインの瓶見る。

 本当にこの人達は目を離すと勝手に飲むんだから。

 今回は仕方無く料理酒で代用した。

 それでも十分だけどね。


「てへへ~ごめんなさ~い」


 ……本当に反省してるのかな?


「はい、あ~ん」


 急な横からの声に、つい無意識に反応して差し出された物を口にした。

 もぐもぐもぐ……。

 あぁハンバーグも上手く焼けてるなぁ~。

 ソースも丁度良い感じだ。


「もう一度、はい、あ~ん」


 うん、あ~ん……?

 あれ? なんで俺、あ~んされて食べてるんだ?

 声のした方を向くと野江先生がフォークに刺したハンバーグを俺の口に差し出していた。


 …………。


「先生、何してるんですか?」


「え? いや彼氏が居たらこんな感じなのかなぁ~? って、フフッ」


 そう言って怪しげな笑顔で俺を見つめてくる。


「ブホッ!」


 何言ってんだよ! この人!

 さっき根は真面目とか言うのに納得したけど認識を改めないとな!

 それに暴走が解けた後にも俺におっぱいプニプニしてきたりと結構とんでもない事をしでかしてるし。


「お姉さん? この人本当に根が真面目なの?」


 小声でお姉さんに聞いてみた。

 お姉さんも少しおかしいと思っているようで、俺達は小さく固まり緊急対策会議を開く。


「う~ん、おかしいわねぇ。確かに学生時代には浮いた話とか聞かなかったのよ。 でも男嫌いって訳でも無かったし、どっちかと言うと自分より誰かを応援するって感じだったかな? だけどいいじゃない。あ~んぐらい。ママもやってあげようか? ほらあ~ん」


 ママじゃないですが、そりゃあ、あ~ん自体は別に良いんだけど。

 ……あ~ん。もぐもぐ。 うんうまい。

 お姉さんの認識自体は根が真面目と言う所で止まっているようだ。


「牧野くん! あたしも、ほらあ~ん」


「いや涼子さん。それ自分の野菜と俺のハンバーグを物々交換する気でしょ」


「ちぇ~、バレたか~」


 本当に腹ペコモンスターは油断も隙も無いな。


「でも、生徒会室の時から、なんか俺の事を大人な事を言いながらからかったりしてくるんですが」


 ビッグウェーブの時も最初は事務的だったけど、どんどんエスカレートしていって、最後の方は異常に興奮して俺の体まさぐりだして来たりして、なんかちょっと色々と怖いなぁ~と思い始めていたんだよね。

 それにおっぱいぷにぷに事件は今思い出してもドキドキするよ。


「もしかして、あたしが会ってなかった間に遊び人になったのかしら? そうだとしたらちょっとショックね」


 遊び人かぁ~。お姉さんじゃなくても、担任が遊び人ってのはちょっとショックだな。


「あたしが、美都乃ちゃんの問題を全部水流ちゃんに丸投げにして、卒業しちゃったから、それでグレちゃったんだとしたら責任感じるわね」


 しかもその後、わざわざ学園に戻って来て、学生時代に成し得なかったその問題の解決の機会をずっと一人で伺っていたんだよな。

 それに最近ではギャプ娘先輩への言葉に出来ない罪悪感に苛まれて、そのストレスは想像を絶するものだったのかもしれない。

 それが原因で遊び人に……? でもさっき遊ぶ時間が無いとかも言ってたけどどうなんだろう。


「いや、二人ともそれは違うんじゃ?」


「「え?」」


  「だって、野江さんは『』って言ってたじゃない? あの言葉って遊び人の発言ってよりも、あ~ん自体初めての体験ぽい感じだったんだけど?」


「「確かに」」


 俺達は野江先生の様子を伺った。


「なになに皆して私を仲間外れにするの? そんな事すると泣いちゃうからね?」


 絡み酒はいまだ健在のようだ。

 今後この人がお酒飲む時は、出来るだけ一緒に居るのは避けたいな。


「ち、違うのよ水流ちゃん! ちょっとコーくんに対する態度が手慣れてるなぁ~って話してたの。水流ちゃんって学生時代結構堅物で通ってたじゃない? そのギャップにちょっとびっくりしちゃって」


 お姉さんが何とかフォローをしようと慌てている。


「フッフッフ~! そりゃあ恋愛マスターの私にかかれば思春期の男の子を手玉に取るなんて朝飯前ですよ!」


 野江先生は一転ハイテンションになり得意げに言い切った。

 俺は手玉に取られていたのか。

 それにしても恋愛マスターと言われると、なんだかちょっとがっかりした様な?

 お姉さんも同じ気持ちなのかちょっと複雑な表情をしている。


「水流ちゃん……いつの間にそんな事に?」


 お姉さんが震えながら野江先生に尋ねる。

 自分の知っている人がそんな事になっていると言うのが信じられないようだ。


「何言ってるんですか、大和田先輩! 先輩の在学中にも私って恋のキューピッドとして大活躍してたじゃないですか! 何人のカップルを作ったと思ってるんです?」


 またもや得意げにそう言う野江先生だが、俺達が想像している言葉と乖離していたので3人ともキョトンとした顔で野江先生を見つめる。


「いや、それは知っているけど……、じゃあ恋愛マスターって、そう言う?」


 お姉さんが恐る恐る尋ねるが、俺と同じ事を思っているようだ。

 うん、恋愛マスターって、そう言う?


「ええ、ありとあらゆる恋愛漫画を読み漁って、常日頃からシミュレーションしている私の知識にかかれば恋愛事の一つや二つ簡単に解決してみせますよ! 童貞君をその気にさせるのも簡単です! ね? 牧野くん」


 なんか得意げにウィンクとかして来ちゃってるんだけど、俺達はその言葉に開いた口が塞がらない。

 あ、いや一つだけ訂正させてもらおう!


「その気になってませんから!」


 野江先生は『またまた~意地張っちゃって~。可愛いわね。プププ』みたいな、したり顔しているけど、いやマジでその気になってねぇから。

 と言うか、童貞ってはっきり言い切るな! 違ったらどうするんだよ!


 …………いや違わないけども、名誉棄損だ!


「あ、あの? 水流ちゃん? それって要するに自分の体験から来るものじゃなくて、漫画の聞きかじりって事?」


 あっ、お姉さんはっきり言った。

 図星を突かれた野江先生はショックな顔をしてプルプルと体を震わせている。


「そーですよ! 現実には男の人と付き合った事も無いですし、手を繋いだ事さえフォークダンス位しか無いですよ! 仕方無いじゃないですか! 今まで誰か男の人を良いなって思ったら、いつもどこからともなくその人との仲を取り持ってって女の子が私に相談してくるんだもん!」


 なんか、どんどんヒートアップしてくる野江先生。

 本当にストレス堪ってたんだな。


「先生? ちょっと落ち着いて……」


「それに面倒事とかも皆私に押し付けてくるし、今も仕事が忙しくて誰かと付き合うなんて暇ないし! 私は堅物なんかじゃないです! ずっと恋に夢見る乙女なんですよ! 恋愛漫画で妄想したっていいじゃないですか~。ヒック、ヒック、う、うえ~ん、うえ~ん」


 俺が宥めるのにも止まらず更にヒートアップしていき、色々とぶっちゃけまくった野江先生は、とうとう最後には泣き出してしまった。


「ちょ、泣かないで水流ちゃん! あたしだって同じだし。ね? ね?」


「あたしも、色気より食い気だったし~。そんな相手は居なかったもの~」


 お姉さんと涼子さんが必死に慰めている。

 野江先生はかなりストレスを溜めていたようだ。

 しかし、このぶっちゃけ……、そしてお姉さんと涼子さんのフォロー内容も、一応年頃の男の俺としては知りたかった様な知りたくなかった様な……。


 その後、お姉さんと涼子さんの慰めのお陰で何とか機嫌を取り戻した野江先生は、お酒の所為も有りそのまま眠ってしまった。


「水流ちゃん可哀想に、今まで相当ストレスを溜めていたみたい。しかも今まで周りに愚痴を吐き出せる場所が無かったのね。私が傍に居てあげれたらここまで拗らせなかったでしょうに……」


 寝入った野江先生を見守りながら、お姉さんはしみじみと言った。

 当の本人である野江先生は時折良く分からない寝言を言いながらニヤニヤしている。

 もしかしたら夢の中で大恋愛劇でも繰り広げているんだろうか?

 少し微笑ましいな。


「ムニャムニャ……。ダメよ牧野くん……。いや、そんな、フフフ……ムニャムニャ」


「ブフォ!」


 勝手に俺を変な夢に出演させないでくれ!


「う~ん、これ刷り込みかもね~」


 涼子さんがとんでもない寝言を言いながら幸せそうな寝顔の野江先生を見てポツリとそう言った。


「刷り込みって何ですか?」


「羽化したばかりの雛が最初に目にした物を親と思い込むってやつよ~」


 あぁ、それテレビの実験番組とかで見たな。

 親鳥以外と言うか生物でもない物でも後ろにちょこちょこ付いて行ったりするのも見た事が有る。


「それとこれと何の関係が?」


 野江先生のこの状態と刷り込みがどう結びつくんだろうか?


「さっき三人で飲んでる時に今日の出来事を聞いたのよ~。学生時代からずっと心の重荷だった事が牧野くんのお陰で解放されて生まれ変わった気分って言ってたわ」


 俺のお陰かは兎も角、確かに今日一日で野江先生の学生時代から続く学園長に対する罪悪感は、本人達の証言によって全て消え去ったと思う。

 野江先生的には創始者と学園長、そしてギャプ娘先輩が仲良しなら、写真の件自体はただの方便で本当の問題じゃないんだろう。

 言われると俺がHR後に真相を話した時、憑き物が取れたようにお姉さんと共に活き活きとしていた。

 生まれ変わったと言うのも、あながち大袈裟じゃないのかもな。


「それが、どうして刷り込みでこんな事になるんですか?」


 今の内容がどうやって刷り込みに結びつくんだ?


「聞いた話だと、生徒会室で大乱交が有ったそうじゃない?」


 ちょっと不満そうに涼子さんは飛んでもない事を言った。


「なななな! 何言ってるんですか! 人聞き悪いですよ! ただ単に皆がからかって俺に抱き付いて来ただけですって! それにこの人はその場のノリに流されただけですし」


 なんで不満そうなんですか。


「そんな楽しそうな事、あたしの居ない所でやるなんて~。黄檗さんに言い付けてやるんだから~」


「それマジで勘弁して下さい」


 黄檗さんに嫌われるのはかなりきついです。


「まぁ良いわ~。次は混ぜてもらうんだからね? で、その抱き付いた事なんだけど、男の人とまともに手も握った事が無かった様な人よ? そんな人が生まれ変わった気分で初めて男の人に好意を持って抱き付いたんだから、ある意味初体験と言えるわ。 そんな体験したんですもん。そりゃ強力に刷り込まれると思うわ」


 なにそれ怖い。

 もしかして最初事務的な感じがしてたのは、ただ単に緊張してたからなんだろうか?

 その内、俺に馴れてきて、身体をまさぐる様になるモンスターにまで成長したと?


「あの、それ、むっちゃ重いんですが……」


 まさか責任取れーー! とか言われないよね?


「そんなに深刻に取らなくてもいいでしょ。大丈夫よ、水流ちゃん結構サバサバしてるし、今日はテンションが上がっておかしかっただけで明日にはケロッと忘れてるわよ」


「だと良いんですけどね」


 お酒と共にそこら辺の煩悩も抜けてくれたら良いのにな。


「あたしとしても後輩とコーくんが、ってのはちょっと複雑だしね」


 俺的にはちょっとどころじゃないんですけどね。


「あたしは高校教師と生徒の禁断の愛! ってシュチュエーションちょっと見てみたいかも~」


「「やめなさいって!」」



「そんな事より、先生寝ちゃったんだけど、どうしよう?」


 相変わらず幸せそうに寝ている野江先生。


「う~ん、色々疲れてるみたいだから、このまま寝せてあげたいんだけど」


 まぁこんな幸せそうに寝てる人を起こすのは気が引けるなぁ~。


「でも明日学校だから、皺だらけな前日と同じ服で登校とかさすがにちょっとまずいよね」


「そうねぇ。この子の明日の服は私のを貸すんでちょっと取ってくるわね。コーくんが手を出すとは思えないけど一応保護者だから、私も泊まるわ」


「いや、それ逆に俺がお願いするよ! だってこの人夜目が覚めた時に俺の部屋に二人きりとかになってたら、それを既成事実とか言って来そうだもの!」


 それどころか逆に襲われそうだ。


「私も泊まるわ~」


「涼子さん漫画の方はいいの?」


「大丈夫! 大丈夫! 締め切りまでまだまだ有るし~」


 それ絶対締め切り前に泣く奴じゃん。


 ふぅ~本当に毎日毎日次から次に面倒毎のオンパレードだよな。

 毎日平穏無事だった、ここに越してくる前の生活が懐かしくもあり、今の生活の方がいいと思う俺が居たりする。

 無い物ねだり? いや、ただのわがままだな。

 少しづつだが今の生活はかけがえの無い物なのだと思い始めているのに気付く。


「ふへへ~。もう牧野くんってば大胆なんだから~。ムニャムニャ」


 相変わらず俺を変な夢の登場人物にしている野江先生の寝顔を見てそう思った。


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