第22話 森って最初に攻略する場所感あるよな

「市場のカボチャ売り場を左に曲がったところにあるのが俺の叔父さんの家って書いてある」

『またかよ、これでギュンターの叔父さん八人目だぞ』


 書置きの道順に従ってすでに一時間。

 俺たちはギュンターの叔父さんの家を八軒、叔母さんの家を六軒まわる羽目になっている。


 ギュンターの叔父さん叔母さんの家の場所を知ってどうしろと言うのか。

 俺なんて実の叔父さんが何県に住んでるかも知らないと言うのに。


「マサオ、お腹すいた」

「そこのカボチャでも買ってこい」

「うん」


 そんな旅の唯一の癒しはラスとの会話だ。

 ギルドを出てからここまで七回もコミュニケーションをとっている。


 具体的には「食べていいぞ」「また食べるのか」「この世界に焼きそばあるのか……」「わ、わざと触った訳じゃない!」「はい」「ピーマンは人類の敵」「そこのカボチャでも買ってこい」だ。


「買ってきた」

「良かったな、それじゃ先に……ってカボチャ多い!」

「一個って言われてない」

「ラスって自由だよな」

『あんたが言うな』


 俺はラスが抱えてるカボチャを、そっとひとつ手に取った。

 こういうさり気ない優しさがモテる秘訣なんだぜ。


 ――そう、あれは俺が中学三年生の時の話だ。

 隣の席の女子が授業中に消しゴムを落としたんだよ。

 俺はその消しゴムが床に接触する前にすくい上げると、こう言ってやったんだ。


「危ないところだったな、君の美しい消しゴムに傷がつくところだった」


 彼女はこう言ってくれたよ。


「あ、うん。その消しゴムあげる……」


 その消しゴムは今でも俺の宝物だ。

 モテない奴は真似しても良いからな。


「マサオがラスのカボチャ取った……」


 まれにこういう風に優しさが通じない奴がいるから気をつけてな。

 何かあっても俺は一切責任を持たない、ノークレームノーリターンだ。


『そろそろ王国を抜けるな。アジトはまだ先か?』

「あの遠くに見える森の中らしい」


 ここから先はどう考えても食べ物は売ってないだろう。

 あそこまでラスのお腹がもつのか気になって俺は振り返ってみた。


 そこにはカボチャの皮を素手で剥いている彼女がいた。

 俺は何も見なかったことにした。


『あそこにギュンターとエミーがいるんだな』

「ギュンターねぇ」

『マサオ本当にあいつのこと覚えてないのか?』

「記憶にないな、温泉でラスに頭をぶん殴られたせいかもしれない」

『まあ……あれは完全にあんたが悪いから仕方ないな』


 完全と断言できるほど俺が悪いか?

 十人中二人くらいは俺の味方してくれる内容だったと思うけどな。


「そのギュンターって奴は強かったんだっけか?」

『強いっちゃ強いけど、あくまで常識的な強さだな。俺の指示でマサオが倒せたくらいだし』

「んじゃラスがいる今なら楽勝だよな」

「らくしょーだよ」


 カボチャを食べながら得意げに言うラス。

 ああ、可愛いなぁ。女の子が美味しそうに物を食べてるところって良いよな。


 そんな彼女を眺める作業をしているとプリンがふと立ち止まった。

 小さな額にシワを寄せて何か考え事をしているようだ。


『うーん』

「どうしたんだよ」

『そう、あくまでドワーフとして常識的な強さ……だったんだよな』


 プリンはそう言うと首をかしげた。

 そして俺の顔を見つめると、ゆっくりとかみしめる様に話し出した。


『マサオは、あの時ギュンターの脇を剣で貫いた』

「ふむ」

『普通に考えれば致命傷だ』

「あ、はーん」

『だが、奴は生きていた』

「なるほど、続けて?」

『しかもあれから三日で対決できるほど回復してると思われる』

「よくそこに気が付いた、褒めてつかわす」

『なんかムカつくな』


 なるほど、プリンの言いたいことは大体わかった。

 要するにギュンターの回復力・生命力が異常だということだな。

 異世界の人間は宿屋で一晩寝るだけで全回復すると思ってたが、別にそんなことはないんだな。


「オンセーン村の従業員が使ってた全回復する魔法を習得してるんじゃないの」

『オールヒーリングのことか?』

「そう、それそれ」

『あれは三賢者クラスにしか使えない伝説級のスキルだからあり得ないな』

「逆にあの従業員の素性が気になるんだが」


 興味の矛先がギュンターから従業員に移りかけたまさにその時。

 俺たちはアジトがあると思われる森の入り口にたどり着いた。


「ラス、魔法使いの気配とかするか?」


 もし三賢者クラスの魔法使いがいたら困るから一応確かめてもらおう。

 っていうか三賢者って何だよ。俺の知らない固有名詞をばんばん出すなよな。


「……魔力は感じない」


 真剣な横顔をしているラス、好き。

 その赤い瞳で俺のことも見てほしい。


 そんなことを考えながら、俺たちはギュンターの縄張りへと足を踏み入れたのだった。

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