第20話 マサオ、スキルに目覚める

「……ギルド内で……剣振っちゃ、ダメじゃないですかぁ……」

「ってお前生きてるのかよ! 不死身か!」


 ボロボロに崩れた壁の破片の中から顔を出すバルトロメウス。

 こいつ腐っても勇者の子孫なんだな、防御力に全振りしてそう。


「うむむ、今の光……まさかとは思うが……」

「な? な? 俺が言った通りだろ? それ見たことか、ほれ見たことか」

『マサオ少しは申し訳なさそうにしろよな』


 なんだよ、実際に光波撃ったのはプリンじゃないか。

 それもわざわざバルトロメウスの方に撃ったように見えたぞ。


 そんなことを考えながらプリンの頭をわしゃわしゃしてると、アンナのつぶやきが耳に入ってきた。


「伝説の奥義ニルヴァーナ・ブレイド……」

「伝説の奥義……ニルヴァーナ・ブレイド……だと……!?」

「マサオさん、ご存知なのですか?」

「……知らねえ……けど、何か俺の厨二心がくすぐられるぜ……!」

「奥義については私から話そう」


 いつの間にか復活したバルトロメウスが口を出してきた。

 こいつ説明するときいっつも出てくるよな。

 アニメでメガネをクイッとしながら説明する系キャラかよ。


「――時はユグドラ歴二百五十五年。我が祖父ウォルフガングが魔王クーゲルシュライバーの城へと行軍していたときのことだ」

「ひとりなのに行軍って」

「ウォルフガングは総勢三百の軍勢を率いていたんだよ」

「マジかよ」

「しかも全員女性だよ」

「マジ……かよ……!」


 三百人のハーレム軍団だと?

 俺も今すぐウォルフガングになりたい。


「対抗するべく魔王が出撃させた軍勢は五千、ウォルフガングはあっという間に包囲されてしまった」

「俺だったら逆に包囲して殲滅してやるけどな」

「マサオくん、三百人で五千人を囲んだらそれは包囲じゃなくて点在してるだけだよ」


 俺はそれで勝った先例を知ってるんだが。

 それを知らないとは筆頭軍師と言っても大したことないな。


「絶体絶命かと思われたそのとき、聖剣に導かれて繰り出した奥義こそがニルヴァーナ・ブレイド……敵軍はそのひと振りで壊滅したと言われている」

「ほーん、五千の軍勢をひと振りねぇ」

「それに比べたら大分威力は小さいけど、確かに今のはニルヴァーナ・ブレイドだね」

「聞いたかプリン、お前は勇者の奥義を使ってるらしいぞ」

『えへへ』


 照れくさそうに体をくねらせるプリン。

 そんなプリンをいやらしい目で見ていると、誰かが俺の背中をつんつんとつついた。


 振り返るとそこにいたのはなんとラスだった。

 どことなくその赤い瞳が嫉妬に燃えている気がする。


「ち、ちがう。俺はプリンだけをそんな目で見ているんじゃない。ラスのことも常にそういう目で」

「ラスも使える」

「え?」

「ラスもニルヴァーナ使える」


 そういえばラスは負けず嫌いだったよな。

 プリンだけ注目されて悔しいんだろうか。


「ラスくん、残念だけどニルヴァーナ・ブレイドは勇者にしか使えないんだよ」

「いいえ、ラスのはニルヴァーナ・ブレイドではありません」

「ねえ、ラスはなんで俺以外とは普通にしゃべるの?」

「黙ってて」

「はい」


 深い悲しみに包まれた俺はプリンの背中の毛を逆立てて遊ぶことにした。

 やめろーやめろーと言っているが、聞こえないふりをする。


「我が家に代々伝わる魔法にニルヴァーナを冠するものがあります」

「ほう、それは興味深いね。どんな魔法なんだい」

「ニルヴァーナ・パンチと言うものです」


 絶対それ魔法じゃないと思う。

 どうせ敵を地面に叩きつけてから馬乗りになってパンチ叩きこむだけだろ。


「ニルヴァーナ・パンチだって……!? あの失われし古代魔法のことかい!?」


 実在した魔法なのかよ。

 この世界の魔術師は脳筋しかいないのかよ。


「バルトロメウスさま!」

「どうしたアンナ、そんなに息を切らせて」

「これ、ラスさまのギルド証なんですけど見てください!」

「どれどれ……クロスファイヤーにアイシクルトルネードにウィンドスラッシャー……どれもこれも伝説級の魔法じゃないか!」


 ウソだろ、あれ本当に魔法なのかよ。

 ラスが勝手に伝説の魔法の名前をつけてる体術なだけじゃないのか?


「なあ、バルトロメウスよ」

「なんだいマサオくん」

「俺もなんかかっこいい必殺技が欲しいんだが」

「ふむ」

「とりあえず、デスシックル ~闇の執行者~ って名前はどうだろう」

「マサオくん」


 バルトロメウスは苦笑しつつ俺の肩をポンポンと叩いた。

 何がおかしいのか。


「必殺技や魔法というのは自分で名前をつけられるものじゃないんだよ」

「え?」

「習得した際に女神さまから名前を授かり、それがギルド証に刻まれるんだよ」

「……女神ってあのおしゃべりクソ女神のことか?」

「複数の女神さまに命名権があるとしか聞いたことがないな。あの女神さまは違うんじゃないかな」


 この世界の女神はひとりじゃないのか。

 これは重要な情報な気がするな。


「そういえばマサオくんのギルド証はできあがったのかな?」

「えぇっとおぉ……はい、コレがそうですぅ!」

「これを見れば現時点でマサオくんが習得してるスキルがわかるよ、どれどれ……」


 こい! かっこいいスキルこい!

 贅沢は言わないからひと振りで王国を吹き飛ばせて可愛い女の子が空から降ってくるスキルこい!


「……?」


 おい、なんで眉をひそめる。

 なんで不安そうな顔をしてアンナに見せる。


 アンナ、お前何笑ってやがる。

 腹を抱えて笑う人間って初めて見たわ。


「俺はどんなスキルの使い手なんだ……?」

「うーーん、今までに聞いたことのないスキルなんだよね」

「なんていうスキルなんだ?」

「これは多分何かの間違いなんじゃないかな」

「良いから見せろぉぉおおい!」

「ああっ!」


 バルトロメウスの手から強引に奪い取ったギルド証。

 そこには名前マサオ、職業マサオと書かれている。


 ここまでは別におかしくない。

 いや、冷静に考えたらおかしいけどな。

 俺は職業については受け入れたからもう何も言わん。


 問題はスキル欄だ。

 そこに書かれていた俺の唯一無二のスキル……それは。


「マサオソード」


 ふむ、これ絶対あの女神が名前つけたわ。

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