第18話 そういえば王国の名前なんなんだろうな

 真っ暗だ。

 俺は真っ暗な空間の中で漂っている。

 なぜか裸で。


 ここは何だ?

 俺は何をしている?


「マサオ……貴様がここにくるとはな」


 誰の声だ。

 どこかで聞いたことのあるようなないような。


「ふん、でも勇者ではない貴様が俺のところにまでは来れまい」


 お前は誰だ。

 なぜ俺のことを知っている?


「俺のことを知らないのか? 俺は魔王だ」


 魔王だと。


「そうだ。魔王ヒンメル――」


 魔王……。


 ヒン……メル……。


 ……。


『マサオ! 大丈夫か、生きてるか!』

「マサオ、目を開けて」


 プリンとラスの声が聞こえる。


「ここはどこだ……」

『マサオ! 気がついたか!』

「マサオ……」


 俺が目を覚ましたのは温泉の一室だった。

 プリンとラスが上から覗き込むようにして俺を見てる。


 そうだ、確か俺は温泉の中にいて……。


「ラスの双丘はどこに……」

『おい、また意識を失いたくないならそれくらいにしろ』


 ラスが聖剣を振りかざしているのが見える。

 お願い、それを振り下ろさないでちょうだい。


『今日も目を覚まさなかったらどうしようかと思った』

「今日も?」

『三日間寝たままだったからな』

「思ったより重い症状でビビる」


 思い出した、俺はラスのあの剛腕から振り下ろされたオケでノックアウトしていたんだ。

 冷静に考えて良く生きてたよな。


 むしろ異世界転移して死んだらどうなるんだ。

 異世界転生してさらなら人生を歩むんだろうか。


『ずいぶんうなされていたがどうしたんだ』

「魔王がいた……」

『魔王が?』

「ヒンメルとかって名乗ってたな……」


 あれはただの夢だったのか。

 それとも本当にあった出来事なのか。


『ヒンメル……ヒンメルか』

「プリン知ってるのか?」

『なんか聞き覚えがあるんだよな……』

「ラスはヒンメルの名を聞いたことは?」

「ないと思う」


 なんで犬の方が聞き覚えあるんだろうな。

 もしかして魔王って犬なんだろうか。


「マサオ、そろそろ行こ」

「マジかよ、俺全然温泉を堪能してないんだが」

『魔王を倒してから堪能しろ』


 ひとりと一匹にせかされて温泉宿を出る俺。

 この感覚、あのときのことを思い出すな……。


 そう、あれは俺が小学四年生のときのことだ。

 近所にミヨちゃんって名前の女の子がいてな。

 ミヨちゃんは朝になるといつも俺の家に来ていたんだ。

 でも二学期の始業式の日、彼女はなんと俺の家に来なかったんだ。

 もちろん、聞いたさ! なんで来なかったんだよって。

 そしたらミヨちゃんはこう言ったんだ――。


 おっと、この話は今関係ないな……。

 話をもとに戻そう。


「それで……これからどうすんだっけか」

『ゴブリンの件をギルドに報告する。聖剣をバルトロメウスに見せる』

「あぁ、これをか」


 プリンが背負う訳にはいかないので、聖剣は俺が帯剣している。

 正直腰に帯びてる感じはふつうの剣となんら変わらないな。


「これラスが使ったら良いんじゃないの」

「ラスはそれ装備できない」


 でたよ。ゲームとかに特有の「装備できない」という概念。

 握って振り回せるのに装備できないってどういうことなんだ。


「そういや光と闇の魔法がかかってるって言ったよな」

「うん」

「振り回したら出ないのかな」

「どうだろう」


 俺は聖剣を抜き放ち振り回したり念じたりしてみた。

 しかし何も起こらなかった。


「プリンやってみろよ」

『どーやって持つんだよ』

「そりゃお前こうやって……」

『あ、やめろ、そんなもの口にいれるな……んぐぐ』


 プリンに無理やりくわえさせる俺。

 当然剣の柄をだぞ、なんだと思ってるんだ。


「なんか念じたりしてみろよ」

『やってはみるけどさぁ……』


 しぶしぶといった感じで剣を一度引き、前方に振り回すプリン。


 すると剣の軌跡にあわせて鋭い光の刃が放たれた。

 衝撃波のようなそれは高速で地を這うと、進路上にあった木をなぎ倒した。


 予想外のことに驚くプリン。

 マジで何か出たことに驚く俺。

 野菜スティックを食べてるラス。


「お前……やっぱ勇者なんじゃね?」

『そうなのかな……?』


 複雑な気持ちになりながら王国へ帰還する俺たちなのであった。

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