7-2休息
とまあ、そんなこんなで気がつくと十時になっていた。
「あ、もうこんな時間だ。順番にお風呂入ってきなよ。この山で湧いてる天然温泉だから、疲れも取れるんじゃないかな。タオルとか寝間着とかは脱衣所のタンスに入ってるから、それを使ってね」
て、天然温泉……。もう金持ちが止まらねぇな。
だが、ありがたい。もう筋肉痛が始まってて全身がだるくなってるからな。
「は~い。ありがとうございま~す」
宗麟さんのありがたい気遣いに歩美は
「ふふっ、どなたから入りますか?」
狭山さんのその問いに、歩美は目を輝かせて元気よく答えた。
「はいは~い。あたしと香子ちゃんと麗華ちゃん!」
「え、三人で入るの……?」
香子も呆れている。
「広さ的には大丈夫だと思いますよ」
「やった~、じゃあ行こ~」
歩美が半ば強引に狭山さんと香子の腕をとり連れ去る。
あいつ、場所わかるのか……?
「歩美、そっちじゃないわよ……」
やっぱりな……。
結局狭山さんが先導し、キッチン脇のスライドドアの向こうへと消えていった。
「ははっ、彼女、元気だよねぇ」
「なんと言うか、すみません。水野は悪い奴ではないんですが……」
「大丈夫、大丈夫。わかってるよ。むしろいい子じゃない」
宗麟さんは全く怒っていないようだ。歩美がいい子がどうかは
「麗華はね、昔から引っ込み思案で自己主張するようなタイプじゃなかったんだよ。でも大学に入ってから変わってね。今回だって事業提案してきたし。全部歩美ちゃんのおかげなんだろうね。いい友達を持ったんだなって嬉しくなったよ」
「水野には人の調子をあげる才能のようなものがありますからね。学生相談所でもいいムードメーカーとして機能してくれています」
宗麟さんも銀もベタ褒めだ。歩美が聞いたら喜ぶだろうな。でも喜びすぎて調子に乗るだろうから、絶対教えてやらないようにしよう。
そうやって男三人でしばらく談笑していると、浴衣姿の風呂上がり三人娘が仲良く帰ってきた。濡れた髪に上気した顔。あの歩美からも色気を感じるその姿になんとも言えない感動を覚える。
しかし、歩美だけがなぜか浮かない顔をしていた。
「歩美、どうしたんだ……?」
俺は気になって歩美に尋ねたが、それに答えたのは香子だった。
「歩美、洞窟の中で転んだでしょう。それでお尻のところにあざができちゃってたのよ」
「えぇっ⁉︎ 大丈夫じゃなかったのかよ」
「いや〜、大丈夫だと思ってたんだけどね〜。座ってるときとかは別に痛くない位置だし、全然気づかなかったんだよね……」
歩美はしょんぼりしている。
「はぁ……。あたしのプリティーなお尻にあざが……」
「ははっ、ちょっと見せてみろよ、歩美」
俺はふざけて歩美に歩み寄る。
スパァンッ‼︎
香子が俺の頭を、サイクロトロンで速度を上げた電子の速さに匹敵するんじゃなかろうか、という速さでひっぱたいた。
「いっってぇ!」
さすがに強く叩きすぎだ。俺の貴重な脳細胞が死滅したらどうする。
「ったく、冗談に決まってるだろうが……」
「冗談に見えないほど邪悪な顔をしていたわ」
ぐぬぬ……。まあ、しょうがない。
「はいはい。お二人ともそこまでにしてくださいね」
狭山さんがグラスに注いだ冷たい麦茶を持ってきて、風呂上がり三人娘はそれを一気に飲み干した。
「フッ、土橋の邪悪な考えはおいておくとして、風呂はどうだった?」
邪悪とか言うな、銀。
「いいお湯だったわ」
「旅館みたいなすっごいお風呂だったよ~。不知火くんたちも入ってきなよ」
香子と歩美は手で顔をパタパタと仰いでいる。
「あのドアの向こうが脱衣所になっています。洗濯機も二台ありますが、一台は私たちが使ってますので動いてない方を使ってください」
洗濯機が二台……? まあ、部屋数を考えると足りないくらいか。俺たちはもう庶民の常識なんてものが通用する場所にはいないのだから、深く考えるのはやめよう……。
「ふむ。ではお言葉に甘えて。土橋、行こう。宗麟さんはどうしますか?」
「あ、僕は後でいいよ。今回の報告書とかまとめる仕事もあるしね。二人で行ってきなよ」
こんな時間まで仕事か。大変だな。まあ、さすがに今日会ったばかりの男二人と一緒じゃ気が休まらないってのもあるか。
「わかりました。洗濯機、回しちゃっても大丈夫ですか……?」
洗濯機は二台らしいからな。一応確認しておかなくては。
「うん、いいよ。僕は着替えあるしね」
「あぁ、そうですよね。じゃあお先に失礼します」
「はいよ、いってらっしゃい」
宗麟さんに送り出され、俺と銀は脱衣所へ向かった。
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