第三章

3-1第二の謎

 散々苦労して開けたドアをくぐり抜けた先にあったこの道は、照明があるのはこれまで通りだが、先ほどまでいたところよりもひんやりとしていて湿気を強く感じる。下りがちだった道も若干上り気味になっているようで、進行方向からチョロチョロと水が流れてきている。今までよりかなり滑りやすくなっていて気をつかわされる。

 ドアのところから五分程歩いた頃だろうか、道のど真ん中に大きな泉のようなものを発見した。地面から淵までの高さは一メートル弱くらい。直径は四メートルくらいだろうか。まん丸に近い円形をしている。なんとなく不自然な形状と位置取りなのだが、これも自然の産物なのだろうか。泉がたたえる水はかなりの透明度で照明の光が水底まで照らしている。とても美しく、妖しげで、幻想的だ。

 流れてきていた水はここからのものだったのか。

「すっご~い。綺麗だね~」

 さっきまでへこたれていた歩美がもうはしゃいでいる。だがそれも頷ける程にこの泉は綺麗だ。

「そうね。鉄の斧でも落としたら金の斧と銀の斧を持った女神が現れそうだわ」

「ふふっ、確かにそうですわね。持って来ればよかったかしら」

 香子と狭山さんもテンションが上がっているようだ。

「あたし金の斧がいいな~」

「じゃあ私は銀の斧にするわ」

「あら、私には何も残しておいてくれないんですか? 残念です」

 女子三人は童話のような話に花を咲かせているが、水底まではっきり見えるこの泉の、一体どこに金の斧と銀の斧を持った女神が隠れているというのだろうか。

 泉は周囲の壁とは独立しているため、右からでも左からでも先に進めるようになっている。こういう時無意識に右の道を選んで反時計回りに進んでしまうのは、小さい頃からかけっこやなんかのトラック競技で反時計回りに走り回らされるからであろうか。それともただの人間の習性なのであろうか。

 泉の脇を通り抜けて、急に平坦になった道を進むこと二分。

 俺たちは第二のドアを発見した。



「これか……。先のドアと同じようだな」

 銀の言うように、第二のドアは第一のドアと同様のつくりになっているようだった。しっかりとロックされており、パスワードを入力する装置もある。ただ一つ違っていたのは、そのロックを解除するヒントだ。さっきは数字だったが、今回はひらがなになっている。


 ぎりらてほろらてかわかごむ


 な、なんじゃこりゃ……。

 意味を成してねぇぞ……?

「意味が、わからないですね。祖父は何を考えていたのでしょうか……」

 狭山さんも困惑している。

 みんなが困惑する中、歩美がおもむろに両手を掲げ、マジシャンがハンドパワーでも送るようなポーズをとった。

「ぎりらてほろらてかわかごむ!」

 …………。

「いや、そんな語呂の悪い開けゴマはねぇだろ」

「へへっ、言ってみただけだよ~」

 歩美がおどけて笑う。早くも真剣に考えるのを諦めているようだ。

「まあ水野はおいておくとして、この呪文のような文字列だけじゃさっぱりわからない、というのが正直な感想だな」

 銀もお手上げか。

 となると香子だけが頼みの綱だがどうだろうか。俺が視線を向けると、それに答えるように香子が口を開いた。

「ねぇ、何かの文字を抜いて読んでみるとかはどうかしら」

「なるほど、常套手段っぽいな。それで、何の文字を抜きゃいいんだ?」

「…………」

 俺の質問に香子は沈黙で返す。その口はいちもんに結ばれていて、とても何か言おうとしている人間のそれではない。

「も、もしかして、わからないのか……?」

「……仕方ないじゃないの。ヒントがなさすぎてどうしようもないもの」

 香子は眉間にシワを寄せ、口を尖らせて言った。俗に、逆ギレと言われる行為だ。

 そうかそうか、つまり頼みの綱も断たれたってわけだ。

 どうする。こういうときどうすればいい。

 俺たち五人は沈黙したまま、時間だけが過ぎていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る