2-3小休止
俺がずっと持たされていたサンドイッチがついに日の目を見る時が来た。洞窟の中だからお日様はいないけどな。
大富豪のサンドイッチはというと、たまごサンド、ベーコンレタストマトサンド、ツナサンドと意外にも実に庶民的だった。材料も普通にスーパーで買ってるんだそうだ。意外オブザイヤーをあげたい気分だ。そんな賞ないけどな。
「意外ですかね。高価で美味しいものはたまに食べるからその美味しさが理解できるのであって、普段から贅沢をしていても理解が及ばず虚しいだけ。大事なことは高価で美味しいものをいかにたくさん食べるかではなくて、いろいろな食材を味わえる喜びを知ることであるというのが狭山家の教えなんです」
はぁ~、食育までしっかりしていらっしゃる。真の育ちの良さというものを見せつけられてしまった庶民代表の俺は、「そうなんですか」とうっすらと微笑みを浮かべるだけで精一杯だった。
しかしその精一杯の行動すらも香子に一蹴されてしまう。
「何ヘラヘラしてるのよ、気持ち悪いわね」
香子は片眉を吊り上げて不審者でも見るような目付きになっている。
何はともあれ大富豪の庶民的なサンドイッチはとてもおいしかった。
たまごサンドには潰したゆでたまごとマヨネーズを
ベーコンレタストマトサンドはこんがりと焼かれたベーコンがいい味を出しているし、レタスのシャキシャキとした食感がよく残っている。甘めのトマトとマヨネーズの酸味はちょうどよくバランスをとって全体の味をまとめている。
ツナサンドは、……特に普段食べてるのと大差ない。うむ、普通だ。
サンドイッチは一個ずつラップで包まれていて手を汚さずに食べることができるようになっていたのは、細かいところだがありがたい気遣いだった。
洞窟の中でのランチタイムは初めての経験だが、俺はそんなに嫌いじゃないということがわかった。猛烈な暑さに身を削られるような外の世界とは違ってここは涼しい。何より騒がしいセミがいないというのが大きい。あいつらが鳴き声を張り上げる中にいると、自分が高温の油で揚げられているような錯覚に
「ごちそうさまでした~」と歩美。
「美味しかったわね」と香子。
「あぁ、うまかった」と銀。
「お粗末様でした」と狭山さん。
洞窟ランチは終わり、みんなは談笑にふける。俺はその輪に加われないでいた。さっき俺は何か大事なことに気づいたような気がして、ずっと引っかかっているのだ。
思い出せ、俺は何を考えていた。大富豪の庶民的なサンドイッチ、外の猛烈な暑さとここの涼しさ、蝉の大合唱、どこかで落ちる水の音……ん? 音……?
「そうか! 音だ!」
そう言って俺はやにわに立ち上がった。みんなが
俺はこの謎を解く鍵を見つけてしまったかもしれないのだから。
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