第七章
7-1事件解決
二月七日水曜日。
俺たちが解散してから一週間が過ぎた。
あれから俺たちが集まって何かしたとかはなく、俺はまた大学生というモラトリアムをなんとなくやり過ごしていた。
相変わらずお茶漬けばかり食べているし、たまに池袋をふらふらと歩き回ったりはするが、大概寝るかスマホをいじるかして時間を浪費している。変わり映えしない毎日の中で変わったことといえば、スエードシューズが足に馴染んだことくらいだろうか。
今は本棚の肥やしとなっていた詰将棋の本と格闘中だが、なんとも言えない味気なさを感じている。またあんな風にワクワクするような楽しい時間が過ごしたいもんだが、どうやらこの本の中には俺の求める物はなさそうだ。
「はぁ……、つまらん……」
俺は開いたままの本を顔に乗せ
ピコン。
枕元に置いたスマホが鳴った。
どうせ公式アカウントの広告メッセージだろうと思いつつも画面を確認すると、メッセージの送り主は香子だった。……んあ⁉︎
「香子⁉︎」
まさに
『内山たちが逮捕されたらしいわ』
マジか⁉︎
俺は心が震えるのを感じた。
『桂介の指摘した通り、セロテープから採取された指紋が現場に残されていた指紋と一致したらしいわ。指紋は内山のものだったそうよ』
なんと! まさか、本当に出るとは。しかも内山のだったのか。
『すっご〜い! やったね〜!』と水野さん。
『やったな』と不知火。
『マジかよ⁉︎ 協力してやった甲斐があるってもんだぜ!』と見城。
『ホントに⁉︎ よかった。これでお金も返ってくるかな』と小川さん。
あぁ、よかった。本当によかった。
そして小川さんの言った女子ラクロス部の部費はおそらく返ってくるだろう。あいつらの家は金持ちらしいからな。罪を軽くしてもらうために返せる限り返すだろう。
『ちなみに、事件を起こした理由とかは私たちの推理通りだったみたいだけど、結局わからなかった音楽部に盗みに入ったのに楽器を盗らなかった理由についても供述したらしいわ。自分たちじゃ音楽部の部室にあったような楽器を持って歩いていたら似合わなすぎて目立つと考えたから、だそうよ』
そんなアホな……。ある意味今回最大の謎だった楽器が盗られなかった理由がまさかそんなんだったとは。確かにあいつらには似合わないけど……。
『実は私のところに一昨日警察が来てね。広告研究会について根掘り葉掘り聞かれたんだ。それで広告研究会を解体した理由として、奴らが行っていたミスコン参加者へのセクハラ、というか強制わいせつについて話して、こちらで把握していた被害者の女の子全員を仲介したんだ。だからたぶんそっちについても合わせて
天城さんからも衝撃的な報告がされた。
そうか、あいつらの罪は全て白日の下に晒されることになったのか。連続窃盗だけなら
それはそれとして、
『そんじゃあさ、犯人逮捕を祝って飯でも行かね?』
俺はかねてより考えていたことをみんなに聞いてみた。
『すまん、俺はパスだ。今朝から熱があって寝てんだよ。しばらくは安静にしてねぇとな』
見城め……、こんな時に風邪なんかひいてる場合じゃないだろう……。
『私もパスで……。お布団から出たくないので』
ははっ、小川さんは予想通りの反応だな……。こんな反応を示すだろうと予想がつくくらいには、俺の中での小川さんの印象は変わってしまった。
最初はまともそうな人だと思ったんだけどな。まさかここまでめんどくさがりだったとはなぁ……。
『すまないが、私もしばらくは新歓関連の仕事で忙しいから付き合えないな。申し訳ない』
天城さんも無理か……。まあ、忙しいお方だもんな……。
うーむ、三連敗だ。
『そうですか、残念です』
肩を落とす俺の目に次のメッセージが飛び込んできた。
『フラれてばかりだな、土橋。俺は
不知火……!
『私も行くわ』
『あたしも行く〜』
香子、水野さん……!
今度は三連勝だ。
『よっしゃ、そうこなくっちゃな』
俺は不知火、香子、水野さんの三人を招待して四人だけのトークグループを作って、さらにメッセージを送った。
『いつ行くよ?』
『俺はいつでも大丈夫だ』
『私もいつでも行けるわ』
いつでもいいが一番困るんだよ! って全国のお母さんたちの気持ちが少しだけわかったような気がする……。
『じゃあ、今日は? お昼一緒に食べよ〜』
お昼か……確かにそろそろ昼飯時だ。水野さんの案に乗ってみるか。
『いいね! 俺は賛成!』
『あぁ、構わん』
『いいわよ』
満場一致。ってそりゃそうか。二人はいつでもいいって言ったんだからな。
『じゃあ目白駅前に十三時集合で』
俺のメッセージに三人が既読をつけたのを確認して俺はスマホを閉じた。
俺は黙々と出かける準備をしつつも、気を抜くと踊り出してしまいそうなくらいワクワクしていた。
そこでようやく俺は気づいた。天城さんもいるのにフランクな言葉で誘いをかけたのは、俺が本当に誘おうとしていたのはあの三人だったからだということに。
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