6-2作戦開始
さて、水野さんは本部――水野さんの自宅――待機で来ないので、これで全員集まったことになったな。
俺は最終確認をすることにした。特に見城には具体的に何をするか言ってなかったしな。
「じゃあみなさん、一旦俺の話を聞いてください。作戦の最終確認をします」
俺の言葉に全員が顔を引き締めてこちらを見た。五人の大学生が
「香子、見城、小川さんの三人にはこれから犯人に接触してもらいます。俺、不知火、天城さんの三人は撮影係です。接触係と撮影係は二人一組で動きますが、香子は不知火と、見城は俺と、小川さんは天城さんと組んでもらいます。よろしくな、見城」
「へっ。お前とじゃ今更よろしくもクソもないけどな」
ははっ、まあ、それもそうだな。
「よろしくね、小川さん」
天城さんはまた殺人的なかわいさの笑顔を小川さんに送る。小川さんが返事もろくにできずにうっとりとしているように見えるのは気のせいではないだろう。まあ天城さんの美しさは男女関係なく威力抜群なんだろうな。
香子と不知火は互いに目を合わせ、それで意思を疎通したようだ。
「それでですね。接触係にはグループ通話をしながら犯人に接触してもらうので、とりあえず見城と小川さんはトークグループに参加してください」
俺は見城を、香子は小川さんをトークグループに招待した。二人が参加したことを確認し、次に進もうとすると見城がもっともな質問をしてきた。
「ん? この水野歩美って誰?」
「あぁ、本部待機してる人だ。俺やお前と同じ経営学科の一年生だ」
「へぇ。本部待機って?」
「静かな本部で待機して、グループ通話の内容を録音してもらう手筈になってる。警察に証拠として提出するんだから余計なことしゃべるなよ」
「お、おう……」
警察という言葉が出た途端に見城は顔を引きつらせた。
「なんだよ見城。やましいことでもあんのか?」
「いや、ねぇけど、やっぱり緊張はするよな」
そりゃ、まあそうか。
「普通にしてりゃ問題ねぇよ」
「あ、あぁ……」
勝手に緊張してる見城はおいておくとして話を進めよう。
「で、接触係の三人は注意点が二つ。一つ、イヤホンのマイク部分を不自然にならない程度に、でもできるだけ犯人に近づけること。二つ、できるだけ犯人の指紋が消えないようにするために、受け取ったものをベタベタ触らないこと。以上。なんか質問あるか?」
…………ない、ようだな。
「天城さんのペアは受け渡し場所が一番近いので、到着したら水野さんに準備が整っているか確認をとってください」
「うん、心得た」
天城さんは拳を握りしめて言った。気合い充分って感じだな。
「俺と見城のペアは逆に一番遠いので、俺たちが到着したらグループ通話をかけますから、接触係の三人は必ず通話モードにしてください。あ、天城さんは水野さんに連絡した時に、水野さんも通話モードにするように念を押しておいてください」
「うん、任せてくれ」と天城さん。
「わかったわ」と香子。
「お、おう……」と見城。
「はぁ、緊張してきた……」と小川さん。
見城と小川さんは表情が固くなっている。いつも通りの香子と頼もしい返事をしてくれた天城さんとは対照的だ。
「はい、じゃあそういうことで解散しましょうか。取り引きが終わったらペアごとに大学に向かって、学食で集合ってことで」
俺の号令にみんな気を引き締めた顔で頷いて解散した。俺と見城は俺が落札したゴルフクラブを受け取りに深紅堂書店前へ、天城さんと小川さんは天城さんが落札したダイバーズウォッチを受け取りに階段を上った先の横断歩道へ、不知火と香子は水野さんが落札したキーボードを受け取りにト音記号のモニュメントへ向かった。数日前に奴らともめたあの場所を受け渡し場所に選んだのは、水野さんなりの皮肉なのだろうか。……考えすぎだな。
「あ、そういやお前、マイク付きイヤホン持ってるか?」
深紅堂書店までの道すがら、俺は見城に尋ねた。
「ん? おう、持ってるぞ」
見城はダウンジャケットのポケットを
「そりゃよかった。なかったら俺のを貸すつもりだったんだけど、新品を他人に貸すのはなぁ……、とかも思ってな」
「あぁ、買ったばっかのはなぁ。っていうか俺ら会うのは久しぶりだよな」
「え? あぁ、そうか」
メッセージアプリでやりとりはしていたから気づかなかったが、実際に会うのは確かに久しぶりだ。
「前に会ったのいつだ」
見城の問いに、俺は記憶を探りつつ答える。
「うーん、たしか、俺が本借りた時だから……夏休みの時か?」
「あぁ、あん時か。中村たちと飯食いに行ったあれが最後か」
「そうそう。あの時はクッソ暑かったってのに次に会う時にはこんなに寒くなってるとはな」
「へへっ、そうだな。この作戦終わったらまた飯食いに行くか。あいつらにも声かけて」
そう言って笑う見城からは、さっきまでの緊張は感じられなくなっていた。
「緊張、解けたみてぇだな」
「え? あぁ、くだらねぇ話してたら確かに」
「んじゃ、本番もその調子で頼むわ」
「おう! お、着いたぜ」
見城が指差す先に深紅堂書店が見えた。
さて、それじゃあいっちょやりますか。
横断歩道を渡り三角州で足を止める。俺はスマホを出してグループ通話をかけた。
見城、香子、小川さん、水野さんの順にすぐに出た。
『みんな、準備はいいですか?』
俺はそう問いかけてみた。
『おう!』と見城。
『抜かりないわ』と香子。
『はぁ……。大丈夫ですよ……』と小川さん。
『もっちろ〜ん。任せて〜』と水野さん。
小川さんはまた拗ねているようだが、水野さんは元気いっぱいやる気充分の様子で安心した。
『じゃあ俺は切りますんで、水野さんは録音を開始してください。録音が終わったら水野さんも学食に来てくださいね。それじゃあ健闘を祈ります』
俺は通話を切った。
「見城、ほいこれ」
バッグから封筒を取り出し見城に渡した。
「なんだこれ?」
「いや、代金だよ。九千三百円。ブツを確認したら渡してやれ」
「あぁ、なるほど。ってその言い方、ヤバい取り引きみたいだぞ」
見城は半笑いで言ってるがある意味ヤバい取り引きなんだよなぁと思いつつ、俺も半笑いを返した。
「まあなんにせよ俺は深紅堂の二階に移るから、うまくやれよ」
そう言って自分の待機場所である深紅堂へ移動しようとする俺を見城は呼び止めた。
「えっ、おまっ、ズルいぞ!」
「は?」
この期に及んで何を言い出すんだこいつは。
「一人だけあったかいところで待機しようとしやがって」
なんだ、そういうことか。俺は肩をすくめて言った。
「悪いな。ここまで読みきってたんだよ」
俺は
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