5-5犯人捕捉
探し始めて二分と経たないうちに、水野さんが声をあげた。
「あった!」
早いな。お手柄じゃないか、水野さん。
「あら、早いじゃないの」
香子も驚いている。
どれどれ、と隣の不知火が水野さんのスマホを覗き込む。
「…………」
しばし固まった後、不知火は渋い顔をしてこちらを向いた。
「どうした、不知火?」
「いや、これ……」
不知火はそう言って、水野さんのスマホの画面を指差す。
どれどれ、……え、嘘だろ?
俺は自分の目を疑った。目をゴシゴシ擦ってもう一度確認する。どうやら俺の目には間違いはなかったようだ。水野さんはとんでもない間違いをしている。
俺と不知火の反応から察したようで、天城さんが頭を抱えたのが視界の端に入った。おそらく、付き合いの長い天城さんにとっては、水野さんあるあるなのだろう。
「あ、あの、水野さん、これは……マグネットの、ドライバー、だね?」
「うん? あれ、違った?」
「違うよ! マグヌスのドライバーだよ! ゴルフのドライバー! 誰がマグネットになってる先端にネジがくっついてくれて便利な工具のドライバーを探せと!」
「へへっ、間違えちゃったよ。ごめんごめん」
ポリポリと頭を掻き、ペロっと舌を出す。うーむ、かわいい人がやるとテヘペロっていうのもいいもんだな……じゃなくて。
「しっかり、してくれ……」
「へへっ、りょ〜かい」
水野さんのその返事に、俺たちは
探し始めてどれくらい経っただろう。対象は未だに見つからない。ふと室内を見渡すと、四人の大学生は真剣な表情で、よそ見もせずに黙々とスマホを操作している。
その様は、現代的といえば現代的だが、俺にはやはりどこか奇妙に感じられる。第三者がうっかりこの部屋を覗いてしまったらどんな表情をするか想像してしまい、一人で勝手に気まずい思いをした。
「見つけたわ」
静まり返った室内に、香子の声が響いた。
「本当かい、風岡さん」
天城さんは少し身を乗り出して香子に尋ねた。
「はい。これです」
香子はそう言って、天城さんの事務机の上に自分のスマホを置いた。みんなでそれを覗き込む。
「確かに、さっきの画像と同じようだな」と不知火。
「この盾のエンブレム! マグヌスのやつだね」と水野さん。
「商品情報に『打撃面に傷アリ』という記載もあるな」と天城さん。
うむ。俺の目にも同じもののように見える。当たりっぽいな。
俺はアカウント情報を見てみた。
えぇとIDは、coosay.uか。……ってこれ! 絶対、内山公正のアカウントじゃねぇか!
「天城さん!」
興奮しすぎて思ったより大きな声が出てしまった。天城さんもビクッとしてこちらに目を向けた。
「な、なんだい……?」
「あ、すみません……。でも、このアカウントIDを見てください」
俺はアカウントIDのところを指差すと、天城さんはそこに目を向けた。
「これは……!」
「ビンゴ、ですよね」
「あぁ、間違いなさそうだね。お手柄だよ、風岡さん」
天城さんはその端正な顔に、くらくらと
不知火と水野さんも確信したようだが、香子はよくわからないという顔をしている。そういえば香子にはまだ、広告研究会のメンバーの名前を教えていなかったな。
「広告研究会の三人なんだけどな。それぞれ足立優太、石塚誠、そして内山公正って名前なんだ」
「え、それじゃ、このアカウントID、コーセイ・ウチヤマってこと……?」
十中八九そうだろうな。
「……ダサ過ぎない?」と香子。
「センスの欠片も感じさせないな」と不知火。
「ほぼ実名登録とか、あたしでもしないよ」と水野さん。
「単にローマ字にしたとかじゃなくて、カッコつけようとして微妙にいじってるあたりがなんとも言えないね……」と天城さん。
みんなここぞとばかりにボロクソ言っている。だが、正直俺も同じ気持ちだ。まともな大学生のセンスとは思えない。まあ、まともな大学生ではないんだけどな。
それはそれとして、
「香子、このアカウント、明らかに内山公正のものだから、他の盗品が出品されてないか調べてみてくれ」
香子に指示を飛ばすと、香子はスマホを机に置いたままの状態で操作し、アカウントの他の出品物一覧を表示した。
それを見て俺たちは息を呑んだ。
ズラズラズラズラと出るわ出るわ。このアカウントの出品はあのリストに載っていた盗品と思われるものだらけだった。それ以外にも出品されていたが、品揃えからしておそらく盗品だと思われる。香子も把握できていなかった団体のものだろう。
「これは、ひどいな……」
不知火が呟いた。
「あぁ、でもこれで本当にこのアカウントが内山公正のものだってことだけじゃなくて、窃盗犯のものでもあるってことが証明された。少なくとも内山は窃盗犯の一人ってことで確定だ」
俺の言葉に、みんなが頷いた。
「香子、とりあえずこの一覧のスクショ撮っといてくれ。アカウント削除で見れなくなる前にな」
「わかったわ」
カシャッ。カシャッ。カシャッ。
みんな無言になってしまったせいで、香子がスクショを撮る音がやけに響いた。
「これで大丈夫ね」
「おう、ありがとう。じゃあこの中から三つ、買い取るものを選びましょうか」
俺が号令をかけると、各自スマホでcoosay.uのアカウントを調べ始めた。
するとすぐに俺たちは、また息を呑むことになった。
「これ、ほとんど全部売れちゃってない……?」
水野さんの言う通り、こいつの出品したものはほぼ完売している。でも二つ、ダイバーズウォッチとゴルフクラブだけはなんとか売れ残ってくれている。しかし、
「二つだけ、か……。これじゃ土橋君の作戦通りに三人を連れ出すのは難しいね」
「はい。でも、やるしかありません。これすらも売れてしまったら、俺たちじゃ手が出せなくなりますから……」
「そうだね。じゃあこの二つを買い取ろう。手続きをするよ?」
天城さんはダイバーズウォッチの買い取りボタンを押した。
確認画面が出た。金額、二万円。支払い方法、代引き。受け渡し方法、直接。希望場所、……。ここで天城さんの手が止まった。
「どこで受け取ろうか?」
天城さんはスッと俺に目を向けた。
「え、あぁ、勝手に池袋を想定してました」
深く考えてはいなかったが、まあ広告研究会の連中も含めて、俺たちが出会ったのは池袋だったしな。
「それじゃ広すぎるわよ」
香子にツッコまれて反省する。確かにその通りだ。どこにするかな。
「うーん、待ち合わせ場所として不自然じゃない場所で、かつ、撮影者が隠れられるか自然に風景に溶け込めるような場所がいいんですよね」
「ねぇねぇ、土橋くん。いけふくろうの石像の前の階段を上った先にある横断歩道の中州みたいなところはどうかな?」
水野さんがいち早く案を出してくれた。
なるほど、あそこならわかりやすいし、人通りもそこそこあって撮影者が溶け込めそうだな。さっきのポンコツぶりが嘘のようだ。汚名返上か。
「それ、ありだな。水野さんグッジョブ」
「へへっ、やった〜」
水野さんは
「じゃあ天城さん、そこにしましょう」
「ん、了解」
天城さんは短く答え、入力した。
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