第10話 朝帰りでは有りません

マンションにつく。

明菜がカードを翳すと、扉が開く。


「ハイテクだな」


「最近のは全部こうじゃないかな」


明菜が苦笑する。


「何階だ?」


エレベータに乗って、尋ねる。


「101階。まずは20階のスカイロビーに」


うわ、でかいエレベータ。

やたらたくさん乗れるエレベータで20階ヘ。

そこから、20階毎にエレベータが別れている。


「・・・VIP専用って感じだな」


101階行きは、専用エレベータ。

扉の開閉にも、カードを翳す必要があるようだ。


「不便だけどね・・・昇るのも降りるのも、時間がかかるから」


101階。

扉の間隔が広い。

部屋は大きそうだ。


「此処の10101号室で寝泊まりしてるわ」


「凄まじい部屋番号だな」


5桁かよ。


・・・


あれ、俺、ひょっとして思い違いしているのでは。


「なあ、明菜。このマンションって」


「私のマンションよ?100階以下は、人に貸してるわ」


超お金持ちだった。


--


作って貰った夕食は、美味しかった。

素朴な味で、食べ慣れた、懐かしい味。

料理が上手だな。


そうだ、お風呂の前に。


「明菜、此処に越してきた所だよな?」


「ええ。週末とか、『デート』で案内して欲しいわ」


偽装恋人として、デートしない訳にはいかない。

案内には丁度良い。


だが。


「それは構わないが、せっかく高い建物にいるんだ。見渡せる限り、説明しておくよ」


「そうね、お願い」


屋上に上がり、施設や公園等を説明する。

店が閉まっているので、昼間の方が良いかと後悔。


「今更だけど・・・妹さん、置いて出てきたけど、良かったの?」


明菜が尋ねる。


「・・・正直、妹が怖くて、逃げたかったんだ。幻覚なのに死ぬかと思ったよ」


「凄い厨ニ力よね・・・全盛期の私でも、歯が立たないと思うわ」


明菜が頭を振る。


「厨ニ力・・・世界を侵食する力・・・俺も身に付けるべきなのだろうか・・・」


「同レベルになってどうするのよ」


明菜が苦笑する。


「まあ、一過性のものだから、すぐに過ぎ去るわよ。何なら、過ぎ去るまでうちにいても良いわよ」


「それはちょっと魅力的な提案だな・・・」


本気で検討したい。


--


朝。

2人並んで登校していると、鳳が話しかけてくる。


「朝から仲が良いね。朝帰りかい?」


俺は苦笑して答える。


「帰りじゃ無い。登校中だよ」


歩いていても余裕で間に合う時間だが、帰って一眠りする様な時間でもない。


「そういう意味じゃ無いんだけどね。まあ、流石に、付き合って数日でどうこうしないだろうし、冗談だよ」


鳳が笑う。


「鳳さん・・・近くの席の方ですよね。よろしくお願いします」


明菜がぺこりと、頭を下げる。


「よろしく、黒森さん。何か分からない事があったら聞いてね?」


鳳が明菜に微笑む。


「有難う」


明菜も鳳に微笑み返した。


平和な──


「見つけましたよ、お兄様!」


妹がそう叫び、向こうから歩いてくる。

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