(4)メリークリスマス

『お便り紹介』京丁椎さんより

よっしゃ~!すみこうぴさんの文字ラジオきた~!

僕はねぇ……恋愛をして無くて悔いが残ってるんですよ。

正確には『出来なかった』なんですけどね。

え?すみこうぴさんはピアノを弾けるんですか?

僕は練習したけどダメでした。楽器全般にダメ。

ピアノは西田敏行さんと同じくらいダメでした。


静かにー! 余り騒がないでーー。

ほんまブ男なんですけど、私は惚れやすかったんですね。ただそれだけですよ。

あはは。ピアノは小学校4年の時にYMOのワールドツアーを見て感激して、それから僕も音楽をやりたいと思て習いに行きました。感化されやすいんです。


『お便り紹介』春木 直樹さん

これは甘い酸っぱい恋愛の予感!!


うん。今思えば甘酸っぱいというより、ただ酸っぱいだけですね。



 ここからのBGMはこれです↓

 https://www.youtube.com/watch?v=6RpZtNEVex4


 そやから、その日から市内の本屋や楽器やを巡って「Merry Christmas Mr. Lawrence」の楽譜を探し回りました。やっと見つけた僕はその日から合い間を見つけて少しずつ練習をします。3年ほどやってなかったんで指が動き難かったけど、「まぁ、クリスマスに間に合えばええかぁ」と思て気長にやってました。


 僕の行ってた高校は、部活動の重複登録が可能やったんで、中学の時からやってた陸上競技部に加えて、藤本っちゃんが入ってた演劇部にも入りました。勿論、藤本っちゃんが目的ですが、


「僕は小学生の頃アトリエ教室に通ってて、その時演劇をしたんですが、高校生と一緒にやってたんですよ。それがここの演劇部やったんで、そんな縁もあって、大道具、小道具でも音響でも照明でもええからやらせて下さい」


 と顧問の先生や先輩に言うて入れて貰いました。


 それと同時に、勉強に厳しかった高校でしたから、家でなかなか練習出来へんし、合唱部の助っ人として合唱部にも登録して、昼休みになると音楽室のピアノであの曲を練習してました。


 それからというもの毎日陸上競技部の練習が終わると、演劇部の部室に行き、藤本っちゃんと同じ時間、同じ空間を過ごします。僕が作った電気で動く小道具や光る大道具が評判で、演劇部での居場所も出来てきました。

 それと同時に藤本っちゃんとも仲良くなり、教室に居る時も演劇部の部室に居る時も、まぁ回りからみるとイチャイチャしてる様に見られてたみたいです。


 そんなある日、芝居で使う背景を二人で塗り終えた後、絵の具を洗面所で洗ってた時に藤本っちゃんが嬉しそうな声で話し掛けてきます。


「なぁ、知ってる? 私らって付き合うてるんちゃうかぁって噂、流れてるんやで」

「ええ、そうなん」


 めっちゃ嬉しかったけど、普通を装って僕は話しました。


「藤本っちゃんは、そんな噂立つのいやかぁ」

「いややないねんけど、ちょっと恥ずかしいわぁ」

「ほんなら、バレん様にしとこかぁ」

「そやねぇ。それおもろいねぇ」


 そんな話しをしてから逆に意識してしもて、わざと取ってた距離が自然と遠くなって行きました。


 そして月日が経ち、秋の体育大会が終わった後の打ち上げの時に3年のイケメンの先輩が藤本っちゃんに声を掛けてたの見ました。所謂、ナンパですね。そのイケメンの先輩は僕もよう知ってて、格好ええ上に話も面白く勉強も出来ます。サッカー部のキャプテンもしてて女の子のファンも居たと思います。

 それからと言うもの、僕と藤本っちゃんの距離はどんどん離れ、藤本っちゃんはいつもそのイケメン先輩と一緒に帰り出します。


 僕はまだ幼かったんでしょう。そんな事をしてる藤本っちゃんに腹が立ってきて、そうなるといつも仲良くしてた教室や演劇部の部室でも、ちょっとずつ衝突する様になってきて、終いには周りに「犬猿の仲」とまで言われる程仲が悪くなりました。


 そして、藤本っちゃんとの関係は自然消滅していきます。僕はめっちゃ後悔したけど、若かった僕にはどうしたらええか分かりませんでした。



 あのピアノ曲は完成してました。


 2学期の終業式後の音楽室。今日はクリスマス・イブ。


 僕は一人であの曲を弾いて、その後、泣いて帰りました。

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