艶歌集

壬生 葵

俳句2句「音」

日が落ちて ようやく聞こゆ 蝉の声


 毎年記録を更新される最高気温、熱中症で大人も子供も体調不穏、誰も彼もが「無理するな」と口を揃えていた夏のことである。

 感覚も麻痺して比較的涼しく感じるようになった気温三十度の夕方、窓辺で涼みながら草叢や木陰に潜む彼らの声に耳を傾ける。

 そこで私はようやく気付く。

「あれ? 昼間は鳴いていたか?」と。



鈴虫の ひとり木霊す 恋の歌


 いつもは連なる愛の歌。

 今は何故か独唱が続く。

 その歌声は何だかとても寂しそう。

 孤独に歌う彼を想う。

 周りが続々と結ばれていく中、パートナーが見つからない疎外感と敗北感を噛み締めているのだろうか。

 今まで必死に女性を口説いてきたものの、断られ続けたのだろうか。

 彼はそれでもなお歌い続ける。

 勝手な想像で憐れむ人間様のことなど露ほども気にしないだろう。

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