第10話 脱出とかわいい竜

崖を登りきった後、しばらく歩き続け遂に外の光が見えた。

 

 「外だ!」

 

 そう言って走り出したハヤトをジェミニが首根っこで掴んで持ち上げた。

 入口から見える隙間から全身を白い甲冑で覆った兵士が迷宮の入口を囲むように立っていた。

 

 「まったく、外に出たら聖騎士達が待ってるとか考えないわけ!?」

 

 怒るジェミニにハヤトは素直に謝り下ろしてもらう。それを見た姫様はクスクスと笑いながら地面に魔法陣の様なものをを書き込んでいく。

 しばらく書き込み続けた姫様が最後の一文字を入れるとその魔方陣が薄い緑色に光りその中心から草のツルのようなものが伸び出てきて姫様はそのツルに紫色のガラス棒の様なものを挟み込んだ。

 ツルは魔法陣にスルスルと戻っていった。

 

 「もうすぐ来ますからね~。」

 

 姫様がそう言うとジェミニはハヤトの事を小脇に抱え迷宮の入口ギリギリまで静かに詰め寄った。

 

 1人だけ何も分からずキョロキョロしているハヤトは入口から微妙に見える隙間から遠方に大きな砂埃が立っているのが見えた。そしてその砂埃は徐々にハヤト達に向けて近づいてきている。

 やがてその砂埃が数匹の走る竜達によって引き起こされているものである事に気づいた。入口の周りを囲むように立っていた聖騎士達が慌ててその砂埃の方に剣を引き抜いて守りを固めようとするがその竜達はなんの容赦もなくボーリングのピンの様に弾き飛ばして聖騎士達は木の葉のように宙を舞っていく。

 

 「え……、来るってもしかしてあれ…?」

 

 ハヤトの少し引きつった顔を見たジェミニはニヤニヤしながら聞き返す。

 

 「どうした?怖いのか?」

 

 「いや……怖くわないけど……。」

 

 そうモゴモゴと返すハヤトに姫様が明るい声で言う。

 

 「大丈夫ですよ。あの子達、とっても可愛くて優しい子達ですから。」

 

 全身をフルプレートで覆った聖騎士達をいとも簡単に弾き飛ばす竜なんてとてもじゃないが可愛くて優しい子達とは思えない。

 

 やがて迷宮の入口から竜達までが10mほどとなったところでジェミニと姫様は走り出した。

 

 入口近くを囲っていた聖騎士達が入口から出てきたハヤト達に気づいたが時すでに遅し、振り向いた瞬間近くまで迫っていた竜達に弾き飛ばされハヤト達は難なく竜の背中に飛び乗った。

 

 

 竜達はかなりのスピードで走り抜けハヤトが振り返った時には迷宮の入口は既に遥か遠くにポツンと佇んでいるだけであった。

 






 

 「そういえばハヤト様の新しい名前を決めなきゃですね。」

 

 走る竜の上で姫様はジェミニに言った。


 「ハヤトはどんなのがいいんだ?」

 

 ジェミニは竜の手網を引きながらハヤトに問いかける。ハヤトは少し考えて口を開いた。

 

 「……シャインってのはどうかな。もといた世界の別の言語で輝くって意味なんだけど。」 

 

 ハヤトの返答に姫様がブツブツと口の中で数回唱えハヤトに向けて言う。

 

 「シャイン……いいと思いますよ。あと…私の事はエリーと呼んでください。私もシャインと呼びますから。」

 

 「わかりました。エリー。………それはそうとジェミニは怒らないんですね。」

 

 ハヤトが上を向きながらジェミニに聞く。

 

 「エリーがいいと言ってるんだ。呼び名くらいじゃ怒りははしない。でも小間使いにするのは許さない。」

 

 相変わらずぶれないジェミニ。

 

 「まだ根に持ってたのか……。」

 

 やれやれと言うようにハヤトは呟きそれを見たジェミニと姫様はクスクスと笑い始めた。

 

 

 

 

 

  

 

 それから2時間ほど走り続けると前方に大きな城壁のある王都が見えてきた。

 姫様は竜達を止めハヤト達、3人は城壁に向けて歩き始めた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る