復讐ノ鐘ヲ鳴ラセ
柊なつこ
第1話プロローグ
――人間は等しく平等である
一体誰が言った言葉だろう......。
「オラァッ! 女みたいな顔しやがって。お前の顔見てるとイライラするんだよ!」
「ッう! 痛いッ...」
断言できる。人間は平等ではない。身長、体重、容姿、学力、才能、etc......上げていけばきりが無い。幾ら頑張っても圧倒的な才能には決して勝ることは無い。
幾ら磨いても女神のような絶対的な美貌より美しくなることは出来ない。人間生まれたときから優劣が決まる。強者のみがこの世界で生きていくことが出来る。敗者は強者に踏みにじられ虐げられて生きていくしかないのだ。
「今度から女の格好で学校来いよ。俺達が可愛がってやるからよ! はははは!!」
「うぅ...」
残念なことに僕。綾乃葉あやのようは敗者側の人間であり、今日も勝者側の人間に虐げられているのである。
「おい。誰かにばれたらまた面倒くさいことになるしよ、そろそろ帰らねぇか?」
「そうだな。モック寄ろうぜ」
「いいなそれ...おい。明日もこの時間に来いよ? 来なかったら――分かってんだろうな?」
ドスの利いた声で僕を脅す。
「...分かりました」
歯を食いしばりながら搾り出すように答える。
「じゃあな女男!」
「っつ!!」
最後に倒れていた僕の腹目掛けて思いっきり蹴り上げた。反応に満足したのか側に置いてあったリュックを手に取ると僕なんてまるで居なかったかの様に目もくれずそのまま他愛の無い話をしながら帰っていく。
今日も大きな怪我無くてよかった。あんまり大きな傷を付けると家族にばれた時に面倒くさいんだよな。
「けほけほ...はぁ。......帰らなきゃ」
只今の時刻は午後四時を少し過ぎた頃。赤く光る夕日に鬱陶しさを覚えながらあいつらばれないよう木の陰に隠していた手提げの鞄を手に取ると全身の痛みに耐えながら帰路に就く。
「...早く。終わらないかなぁ」
いじめられるようになったのは高校生になってからだ。いじめられていた親友を助けたら次の日から目標ターゲットが親友から僕に代わっていた。
初めは少し絡まれるだけだったが日を追う毎にいじめはエスカレートしていき、今では全生徒の学級階級スクールカースト最低位。日々の理不尽な暴力に耐える日々である。
親や先生に虐めの事を告白しようかと思ったが色々考えた上、断念した。何故なら――
「「「「お帰りなさいませ若。本日もお勤めご苦労様です!!!!」」」」
彼らや学校の先生達がどうなってしまうか分からないからである。
「ただいま」
分かった人はいると思うが改めて。僕の家はジャパニーズマフィア。俗に言うヤクザである。
無駄に広い武家屋敷のような家に五十人の怖い顔をした大人たちが玄関の前で手を膝につきお隣さんに聞こえるほどの大きな声で迎えてくれた。
普通の人なら腰を抜かすかもしれないが物心付いた時にこんな感じだったので僕は何とも思わない。
「若。組長がお待ちです」
「うん。分かった、直ぐ着替えてくるからお父さんにもうちょっと待ってってねって言っといて」
「分かりました...また喧嘩ですか?」
「まぁ...ちょっとね.....」
毎日と言って良いほど暴力を受けている僕。だからいつ鏡を見ても身体中痣だらけだ。当然家族に隠しとおせるはずは無くお父さん。綾乃組組長。綾乃龍之介に問いただされてしまった。
ここで僕が『いじめられている』っと告白しても良かったのだが、その場合は明日、先生諸共クラスの何人かはいなくなっていることは確実。
当然クラスである意味有名な僕が疑われ、残り二年間は灰色の高校生活を過ごさなくてはならない。今さら青春をしたいなんて贅沢な事は言わないがせめて普通の高校生活を送りたいのだ。まぁ、いじめられている時点で普通とは言いがたいが...。
そんなこんながあって僕が咄嗟に言った答えが『喧嘩をしていてこうなった』だ。家がヤクザと言う事もあってそれを聞いた父は笑って何も言ってはこなかった。でもそろそろこの言い訳も限界かな。他の言い訳も考えないと...。
急ぎ足で自分の部屋に入り、普段着に着替えるとお父さんがいるであろう執務室へと向う。
「お父さん。僕です」
「おう、ようやく来たか。入って来い」
「はい」
ゆっくりと襖を開き。座布団の上で胡坐をかきながら着流しの右手を袖に通さず懐からだして顎を撫でているお父さんがいる。
「...また喧嘩かい」
「はい」
爪先から上に視線を移しながら見ると、一度ため息をつくき向いにもう一つ敷かれていた座布団に顎で指しす。何の話をするのだろうと疑問を覚えつつ僕は恐る恐る座布団に座った。
「喧嘩するんはいいが...お前は雪那ゆきなにそっくりだから自分の嫁が殴られたみたいで複雑な気分になるな」
雪那ゆきなと言うのは僕の母の名前だ。いつものほほんとしており見ているとこっちまで眠たくなる性格をしている。しかし、時々怒った時はお父さんでも止められない。
そんな母と姉妹と言われても納得がいく程僕と母の顔立ちは似ている、と言うか同じだ。時々家族にも間違われる時がある。お父さんなんかは初めていじめもとい喧嘩がばれた時、母と僕を間違えて。
鬼のような顔で『この傷誰にやられた...組のもんか? 町のチンピラか?』と見た事が無いほど怒り狂い、幹部を招集しあわや他の組と抗争になる所だった。要するにお父さんはお母さんの事を溺愛しているのだ。
「まぁ...今はそんな話はどうでもいい。帰ってきて早々呼び出したのは他でもない見合いの事だ」
「お見合いですか...」
「そうだ。佐々木組の娘がお前の写真を見てご執心でな...見合いをしないかと頼み込んできた。組の未来を考えてればこの見合い成功させたいとは思っているんだが......俺はお前の意思を尊重したい。嫌なら嫌でこの話は無かった事にしても良い。でもな、一度も会わずに断っちまうと向こうの面子がたたねぇ。だから断るにしろ取り敢えず一度見合いをしてくれないか?」
お父さんはそう言うと懐から一枚の写真を僕に差し出してくる。そこには太陽の光に照らされた白いワンピースに身を包んだ一人の少女が写っていた。
日本人離れした美貌、栗色の長い髪に薄い青色の瞳、清楚と言う文字を体現したような、そんな美少女だ。これだけ綺麗だと男など引く手あまただろうと疑問を覚えつつ、それよりも僕の何処に惚れたのかが気になる。
「僕の何処がいいのでしょうか?」
「さあな...向こうの組長が言うには一目惚れらしい」
一瞬迷ったが僕は彼女と。...佐々木カルラさんとお見合いすることに決めた。その場で決めたのでお父さんは『もう少し考えても良いんだぞ?』と言ってくれたが僕の決断は変わらない。
特に好きな人なんていないし、それに家の為になるのならと思うと僕に迷いなど無かった。
お父さんは何かを言いたそうな顔をしていたが僕が真剣なのを察したのか机に置いてあった携帯電話を取る。
「分かった。話は終わりだ。雪那達がご飯を作って待っている。先に行っておいてくれ」
「はい。失礼します」
胸になにかモヤモヤした物を残したままお父さんの書斎を後にする。
「眠たい...」
結局その後寝ることが出来ず、目の下に大きな隈を作り登校することになった。
覚束おぼつかない足取りをしながらやっとの思い出学校に付くことができた。
今日はあいつら休んでないかなぁ...。なんて淡い想いを抱きながら教室のドアを開ける。
「「「「「......」」」」」
...居る。窓側の後ろの席に固まってくだらない話をしている男子生徒二人。名前は覚えていない。と言うか忘れた、思い出したくもないしいじめっ子A、Bでいかせてもらおう。僕が来た瞬間、クラスの皆が凍りついた感じがした。例外はいるが明らかに僕を避けている。それもそのはず、下手に僕に関わってABの反感を買ったら次の対象はその関わった生徒になってしまう可能性がある。誰だって進んで次の犠牲者になろうとは思わない。そんなクラスメイトに僕は何も思わないし、変な気を遣わなくて楽なのでむしろそうしてくれた方が助かるのだが一人だけいる例外が...。
「おっはよぉよーくん! 今日も可愛いね」
「...ありがとう」
「無愛想だなぁ...まぁいっか」
クラスの雰囲気を全く察さずに僕に話しかけてくる女子高生。ゆるふわカールの黒髪にモデルのようなプロポーションと顔立ち、おっとりとした垂れ目気味の瞳とは裏腹に活発な美少女。それがこのクラスの例外にして幼馴染である松崎紅葉まつざきもみじであるだ。
「そう言えばさ見た? 女神何とか様の啓示ってやつ」
「見てない」
「あっそっか。そう言えばよー君携帯持ってないんだっけ」
そう言いながらスカートのポケットからスマホを取り出し手馴れた手つきで操作していく。早くどっかに行って欲しい葉は興味なさそうに答えるが全く動じていない。
「これこれ。スクショして置いてよかった」
僕の目の前にスマホの画面を突き出してくる。そこには『心の準備をしなさい8:00』という文字だけが書かれていた。ただのいたずらだろうと思ったがそうではないらしい。
「可笑しいよね。昨日クラスの皆の携帯にこれと全く同じのが届いたんだって」
「そうなんだ」
8:00とは時間の事だろう。ふと黒板の上に建て掛けてある時計を見ると今の時間は7:59。後一分でこの謎のメッセージが指す時間になる。周りを見渡すと心なしかクラスの皆がそわそわしている気がする。
「...後三十秒だね」
「...そう」
あいつらの嫉妬を帯びた視線が段々強くなっていく。僕が紅葉と話しているとあいつらの機嫌が悪くなる。明るい性格で整った容姿を兼ね備える紅葉はクラスどころか学校のマドンナ的存在。
そんな紅葉が普通の男子生徒と話しているのが気に入らないのは分からなくもないがそこまで不機嫌になる事かと疑問である。それはさておきそろそろ紅葉と離れないと毎日の暴力がより強くなりそうだ。
「もみ...じ...」
言いかけたその言葉は頭から抜け落ち、目の前の光景に釘付けになる。驚いているのは僕だけじゃない紅葉やあいつら、クラスの皆だ、腰を抜かしている奴もいる。無理も無いー――
―――突然足元から魔方陣みたいなのが出てきたら誰だって驚くだろう
丁度マンホールとぐらいの大きさをした魔方陣は全員の足元に出現すると次には目を覆いたくなるほどの白い光を発する。
「なんだこれ!」
「怖いよ巧」
「大丈夫だ俺が付いてるから!」
「目が、目がァァァァッ!!!」
たちまち生徒はパニックを起こす。片手で目を覆い壁伝いにドアから外に出ようとする者、床に蹲って震える者、恋人同士で励ましあう者。
彼らが次に目を開けたときにはもうそこは自分達のいた教室ではなかった。
復讐ノ鐘ヲ鳴ラセ 柊なつこ @natukohiiragi
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