第1話

 ミケランジェロの彫刻は、なるほど綺麗なものだった。ルネサンス期の彫刻家はどうやら人体の美しさを平均値に求めたらしい。何十人、何百人もの顔を重ねてみると、出来上がる顔は不思議なことに美男美女になるというやつだ。人間を平均化して画一化した先に美しさがあるのだと考えていたからこそ、彼らの彫刻はみんな同じような顔なのだろう。男性の顔は三つのパターンしかないと、展示会のガイドブックに書かれていた。そうして考えてみると、漫画やアニメ、美少女ゲームで、俗に「判子絵」と呼ばれる、髪型と瞳の色が違うだけの同じような顔が乱造されるのも、そういった平均の美しさが関係しているのかもしれない。

 と、そこまで思考がいったところで、僕は上野の国立西洋美術館を出て、自転車で秋葉原まで向かうことにした。秋葉原といえば、電気街もとい、アニメ産業の聖地である。つまり、ミケランジェロの彫刻と、いわゆるオタクフィギュアとの違いは何ぞやと、その二つを見比べようとしたわけだ。

ああなんと文化的に充実した週末だろう。東京の大学に進学して心からよかったと、今は胸を張って言える。

 そして、僕はそこで運命の出会いを果たしてしまった。運命といっても、実際のところは穏やかな人生をぶち壊しかねない危険な出会いだったのだが、幸か不幸か、僕自身に多大な影響を与えたという点では、それはまさしく、運命の出会いに違いなかった。

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