われはうみのこ

王子

われはうみのこ

 いやー、やっぱり夏は海水浴に限るよね!

 JKとして水着を着られる最後の夏!

 嫌だなぁ、単位落としてないもん。「卒業できれば」なんて縁起でもないこと言わないでよ……っと。

 あー、どうしようかな。とりあえずちょっと聞いてくれる?

『われは海の子』って歌あるじゃん。小学校で歌ったでしょ、音楽の時間に。

『われはうみのこしらなみの』って。

 あれさぁ、教科書に何番までってたか覚えてる?

 一番の歌詞すら覚えてないのに、何番まであるかなんて覚えてるわけないって?

 違う違う、何番までじゃなくて、何番までだよ。まぁ、それも覚えてないよね。

 実はね、私達が使ってた教科書には三番までしか載ってないんだよ。でも本当は七番まであるんだって。日本が戦争に負けて、GHQが四番以降をばさーって削っちゃったんだって。

 でね、七番の歌詞はこうなってる。


 いで大船を乘出のりだして

 我はひろはん海の富。

 いで軍艦に乘組のりくみて

 我はまもらん海のくに


 そりゃあ削られるよねって。

 でもさ、私思うんだけど。

 日本が白旗を振って、四番以降は歌っちゃダメってなって。今の時代の私達はそんなこと全く知らない。

 ところがさ、国を守ろうと海で戦った人達はいたわけじゃん。私達みたいな若い子でも。その人達は小さい時から、この歌を七番まで教わって歌ってきたはずだよね。海の富で国を栄えさせるぞーって。軍艦に乗って国を守るぞーって。

 戦争で命を散らして、自分達が当たり前に歌っていた歌詞が無いことにされて、それが後世に伝わらなくて。時代が経つにつれて戦争への恐れさえ忘れ去られていく。

 もし自分が忘れられていく海の子の一人だったら、無念だなぁ。もしかしたら怒りを感じるかもしれない。「お前達は平和な時代の中で俺達を忘れていくのか」って。

 だから。平成も今年で最後だけど、海に生きて、海で死んでいった海の子達を、忘れないでいたいって思うんだ。それがせめてもの弔いっていうか、供養っていうか。


 え? なんでそんな話するのかって?


 うーん、それは言おうかどうか迷ったんだけど。この夏を無事に終えて、少なくとも今日を無事に終えて、欲を言えば単位も命も落とさず無事に卒業できるよう祈念しつつ、教えてしんぜよう。

 あんまり沖に行っちゃダメだよ。

 「一緒にアツい夏を過ごそうぜ」って意味だと思いたいんだけど、


 沖で、カッコイイ軍服着た男子が、こっちに手招きしてるんだ。

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