魔法使いは死んだ。
カオス
第1話
そこは戦場だった。
赤黒く燃えた兵士たちが力尽きている。そのもの達は地面を覆い、折り重なっていた。呻いているのは、今まさに命尽きようとする戦士たちである。空は赤く焼けていた。焦げた腐臭が空気を支配している。
そんな丘に一人、年場もいかない少女だけが身の丈以上ある杖に縋り付くように片膝を立てていた。
腰まである白銀の髪は、血に染まり乾いている。ローブは元々黒かったのかどうかすら分からない。さらに所々破けていた。その破けた布から見える白い肌は土に汚れ、炎に焼かれ剣で斬られ血が滲んでいる。
この地獄の中でただ一人だけ『生』を叫ぶ者。両目を燃やし歯をくいしばり彼女は叫ぶ。
「この身朽ちても、私は願う。この地獄に救済を。もう私は誰一人殺したくない!」
最後の力を振り絞り心の内から吠える。
金色の瞳は天を睨み、程なくして崩れ落ちた。
彼女の名はマリオン、精霊に愛されしもの。
魔術師たちが喉から手が出る程願っても届かない領域に届いた数少ない人間。
味方からは稀代の魔法使いと呼ばれ、敵国からは殺戮の魔女と恐れられた者であった。
その嘆きに、精霊たちは震える。
ひとしきり震えた後、魔法使いにとって一番大事なものと引き換えに力を貸す事に決めた。
雪のような白い光が赤い丘にゆっくりと降り注いだ。
その光に包まれた丘は、文字通り生まれ変わった。傷ついた者たちの傷は癒え、停戦の伝令が来るまで敵仲間共々安眠に身を委ねている。記憶が混濁し意識がはっきりしない者が多数で混乱があったものの死傷者はぐっと減った。遺体がなく行方不明になったものも数少ない。
帰還者たちは、その丘を『奇跡の丘』と呼んだ。そして今も降り注ぐ光にあやかりその出来事は『白銀の奇跡』と名付けられる。
帰還者の中に奇跡の代行者は、居なかった。
これは、赤い丘で銀髪の少女が吠えてから二年後。
魔法を使う力を引き換えに願いを叶えた、元魔法使いのおはなし。
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