第6話 暖かくて暗いそこ

 深夜、私は壁に向かって中指を立てる。もうすでに泣き疲れていた。消えてゆく才能を、私を助けてはくれなかった人々を、うんざりするような自分のこれからの人生を思い浮かべ、なるべく早く死ぬようにしようと決意した。


 何か腹に入れたいと思った。この深夜の空腹は、子供の頃に感じたそれとあまりにも似ている。このまま何も食べずに眠る方が正しいだろうと思った。僅かな明かりとこの部屋の暖かさはとても優しく感じられた。


 小さな音で讃美歌を流しながら、母の胎内はこんな感じだったに違いないと空想する。記憶にない頃のことを思い出そうと努め、そのままただ、眠りにつくのだ。

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