ボクはキミを傷つけない
望月 葉琉
第1話 中学
「ねぇキミ、今日も一人?」
中学三年の修学旅行。彼は唐突にあたしに話しかけてきた。別のクラスの樋口くん。接点はない。だけど、あたしでも名前を知ってるくらい、友達の多いリア充ってやつだ。向こうはこっちを知らないはず。なんであたしなんかに声掛けてきたんだろう。
「今日【も】ってどういう意味?」
「だっていつも一人じゃん」
「いつもっていつ?」
「体育祭とか、文化祭とか。……もしかしていじめられてるの?」
そう問われた瞬間、あたしの顔は朱に染まる。いや、自分じゃ顔色なんか見えないからホントのところはわかんないけど、これは絶対赤くなっているに違いない。思わず腕でバッと、顔の下半分を隠す。なんなのこの人? そんなこと、面と向かって訊いてくるなんて。いくらなんでも失礼じゃない?
「……だったら何?」
仰る通り、あたしはクラスでハブられてる。今だって、ホントなら班行動の時間帯だけど、クジであたしと同じグループに当たった班員たちは、あたしを置いてどこかへ行った。しょうがないから、集合場所であるバスの辺りで、ウロウロしてたら見つけた仔猫たちと遊んでいたところ。そんなこと、彼には説明しないけど。
あたしの問いには彼は答えない。ため息だけを一つ吐く。後ろを向いたので、あっちに行ってくれるかな、と期待して、あたしも視線をそちらへ上げる。数人同じ制服の生徒が見えるから、多分彼と同じグループの人たち。だけど彼がそちらへ戻ることはなく、飛び出した言葉はあたしの予想だにしない内容だった。
「悪い! ボク、別行動!」
「ハァ!? 樋口、お前何言ってんだよ!」
班員たちはブーブー文句を言っている。だけど彼は、そんなことはまるで気にしていないといった様子で、あたしの腕を無理やり引いて立ち上がらせた。
「行こう!」
「何すんの!?」
「中学の修旅は一回しかないんだよ? このままずっとここにいるなんて勿体ないじゃん。今からボクたち同じ班ね」
「ちょっと!」
これが、あたしたちの出会いだった。
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