第67話 奇麗な女性がいると視線が気になって作業に集中できないけど、誰もお前の事なんか見ていないから気にするな
フレデリカの所に行くようになってから数日がたった。頼まれるのはいつも何かの材料を集めてくること。ボーウィッドのアイアンブラッド、ギーのデリシアの時と比べられないほど簡単な仕事。指示された物を持って来ればいいだけだしな。
しかもその材料も別に難しいものはない。時々魔物の素材を要求されたが、その魔物もワーム同様苦戦するような相手ではなかった。
そう、前の二つに比べれば格段に楽。肉体的には、な。だが、精神的にはきつい、マジできつい。
フレデリカとセリスは顔つき合わせりゃ互いの悪口ばっか。流石の俺も毎日毎日そんな姿を見せられりゃ、フレデリカに対する淫らな思いもなくなるってもんだ。セリスの俺自身への当たりはないが、それでもやっぱりきつい。
なんつーか女子の喧嘩って陰湿でねちっこくて……聞いているだけで胃が痛くなってくるんだよな。
と、いうわけで今日は心の平穏を求めてアイアンブラッドに来ています。あぁ、セリスは小屋に待機させてんよ。フローラルツリーに行く前にちょっと様子を見に来た程度だしな。
「さて、あんまり時間もないことだから、兄弟の所にはよらずに向かうか」
俺は兄弟が教えてくれた家へと足を運んだ。ちゃんとあいつら準備の方進め……。
「こらー!ゴブ衛門!それはまだできてないんだからつまみ食いすんなー!」
「え〜。これでも十分美味しいんだな〜」
「ゴブ郎!必要ないもの買いすぎ!ってか椅子とか机とか買って来てないのか!?」
「そんな重いもの持ってくるのはだるいでやんす。それにこれは必要なくはないでやんす!セリス様の隠し撮りブロマイドがあれば拙者達のやる気も上がるってもんでやんすよ!ゴブ太のもゴブ衛門のもあるでやんすよ」
「本当?ありがとうね〜」
「あ、ありが……ってそうじゃないよ!店をやるのに必要なものが全然足りないって言ってんだよ!……まぁ、でもブロマイドは預かっておこう」
うんうん、全然進んでねぇわこれ。つーかセリスのブロマイドってなんだよ?そんなん売ってんのかよ。誰が買うっていうんだよ。あっ、三バカか。
「おいおい……いつになったら酒場ができるんだよ」
「おっ、クロ吉」
「クロ吉でやんすー」
「やっほ〜」
俺に気がついた三バカが俺に声をかける。俺は手をあげて応えながら店内を見回した。
うーん、とりあえず内装はそこまで変わった様子はない。台所には巨大な魔導冷蔵庫と魔導コンロが置かれているが、客が酒を飲むだろう場所はまだ手がつけられていない。ボーウィッドに借り受けた平屋のままだな。
「今は何の準備をしている所なんだ?」
「三人で色々分担しているんだ!それぞれ得意料理が違うからね」
ゴブ太が何かの料理の試作を作りながら俺に答える。得意料理?まぁ、そうか。ゴブ太も全部の料理ができるってわけじゃねぇか。
「一応酒場って事だけど、定番のメニューだけじゃなくて、色々な料理を提供しようと思ってるんだ」
「そうなんだな〜。僕はスイーツな担当〜。女性にも人気が出る店にしないとね〜」
「ゴブ衛門はなぜか甘味を作るのが上手いでやんすからね」
そうなのか。ゴブ衛門は食べるの専門だと思っていたが、意外な特技があんだな。それにしても女性にも人気が出る店にするとか、こいつらゴブリンのくせに色々考えてんだな、ゴブリンのくせに。
「そういうゴブ郎はお酒を混ぜたりするのが上手だよね〜」
「ふっふっふ……拙者、カクテルに関しては自信があるでありますからね」
おぉ!ゴブ郎は酒担当か!俺は蜂蜜酒以外にも甘い酒が好きだから、そういうの作ってもらえるとマジで嬉しい。
「つーことは今はメニュー作りに勤しんでいるってとこか?」
「そうだな……。一応ゴブ郎は目処がついたから内装の方に取り掛かってもらってんだけど、なかなか進んでなくて」
「拙者一人だけじゃあの量の買い物は無理でやんす!空間魔法は使えないでやんすからね」
そうか。空間魔法は畑仕事に必要ないと思って教えてないんだった。うーん……今から教えてもいいけど、あの魔法陣は地味に難しいからなぁ……。
「ちなみに買う物ってのはなんだ?」
「おしゃれな店にするのは二の次だから、とりあえず机と椅子が複数あれば、なんとかお店っぽくはなると思うんだよね」
「客用のやつか……それはどこで売ってんだ?」
「家具関係はフローラルツリーだよ〜。サラマンダーがそういうのは作ってるんだ〜」
まじか。あいつら可愛いノーム達が作ったやつに火を入れるだけが仕事じゃないのか。ギルギシアンのやつ……そういう大事な事を言えっての。
「ふむ、今俺はフローラルツリーを視察中だからこっちで用意するよ。今日セリスに頼んでここに届けさせるからさ」
「なっ……セリス様が来てくれるのか?」
三人の目の色が変わる。なんか熱狂的なアイドルファンが本人を目の前にしたように目が血走ってやがる。控えめに言って恐ろしい。
だが、これは僥倖。セリスに買い物を任せ、こちらの手伝いに回せばフレデリカとの衝突を避けることができる。
「あぁ。もしあれなら、そのままここを手伝ってもらってもいいぞ?」
「セリス様がオイラ達の手伝いを……」
おうおう、幸せそうな面しやがって。どうぞこちらで引き取ってください。
「……でもやっぱりセリス様のお手を煩わせるわけにはいかない」
「そうだよね〜。それにここは僕達の店なんだからちゃんと僕達で準備をしなくちゃね〜」
ゴブ太が神妙な顔でそう言うと、ゴブ衛門もその言葉に同意するようにうんうんと頷いていた。うっ……なんか下心丸出しでセリスを手伝わせようとした自分が恥ずかしい。こいつら成り行きとはいえ、しっかり店と向き合ってんだな。
「というわけでクロ吉が買ってこいよ」
「なんでだよ!」
今自分達の手でとか偉そうに言ってたじゃねぇか!お前らバカだからわかってないかもしれないけど、俺はゴブリンじゃねぇぞ!
「この酒場の言い出しっぺはクロ吉なんでやんすから、少しは手伝って欲しいでやんす」
「クロ吉は空間魔法使えるでしょ〜」
……いや確かに言い出したのは俺だけどさ。なんか納得いかねぇわ。
「「「それにセリス様とお会いするのはなんか照れくさい」」」
それが本音じゃねぇかよ!!思春期の男子か、お前らは!!好きな女子と面と向かって話せないとか初々しすぎんだろ!!
「はぁ……もうわかったよ。俺が持って来ればいいんだろ」
「よろしくでやんすー」
まぁ、さっさと酒場が出来て欲しいからな。それくらいは手伝ってやるよ。
「それで後どれくらいで開店できそうなんだ?」
「うーん……それはわからないな。メニューもまだまだだし、椅子と机が来てから内装も考えないといけないし……」
この様子だと二、三日ってわけにはいかねぇか。それでも少しずつ進んではいるみたいだし、気長に待つしかねぇな。
「じゃあ俺はそろそろ行くから、また何か買うのが大変なものがあったら言えよ」
「買って来てくれるのか?」
「いや、同情してやる」
「それだけ!?意味ないだろ!!」
甘えるな!店を始めるというのはそれだけ大変な事なんだ!俺はやった事ないけど。
ムキーっと顔を赤くしているゴブ太を無視して俺は小屋へと戻っていった。
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