キズ
石野二番
第1話
僕は洗面台の前に立っている。右手にはカミソリ。さっきからずっとその刃を肌に当てたり離したりしている。どんな風に切れば、イメージ通りの傷痕になるだろうかと思案しながら。
この自傷癖とも、もう十年以上の付き合いだ。始まったきっかけはもう覚えていないけど、理由は一貫して変わらない。僕は、痛みがほしいわけでも、血が流れる様が見たいわけでもなく、ただ傷痕がほしいのだ。
昔はもっと切りたいという衝動は激しかった。切りたい切りたい。切ろう切ろう。一度頭の中に芽生えたそれは葛藤することはできても到底耐え切れるものではなかった。
肌に当てられたカミソリの刃がゆっくりと引かれていく。同時に痛みが走る。それでもカミソリを動かす手は止まらない。痛みに負けて刃が肌から離れそうになる。それでも手に力を込めて逆に押し付ける。流れる血が洗面台に落ちていく。ポタポタと。ボタボタと。
カミソリを置いて視線を上げる。鏡には、右の頬を血で真っ赤にした自分の顔があった。
キズ 石野二番 @ishino2nd
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