言葉のない日々

@kalinka

第1話

 仕事から遠ざかって日々だらだら過ごしている。特に何もやる気がない。せっかく休職したのだから、これまで読めなかった本に挑戦しようと思ったりもしたが、いざ暇がたくさんできると割と何も手がつかない。

 ただだらだらと過ごす日々。私は無能な人間。入力したままでうまく出力ができていない。次々に頭と身体にため込んでいくだけで、花は咲かない。内側に溜まってそのまま腐っていく感じ。抜け出したい。これまで自分はずっと空虚な努力を続けてきた。動機が歪んでいると、どれだけがんばってもいずれはツケがくる。出発点から洗い直そう。とは言ってもその出発点が明確でなく、どこから空虚な努力が始まったのか自分でもわかりかねている。まあ精神分析なんてものは、自分の過去を自分好みのストーリーで自分に対して語れるようにすることなのだからね。他人がどうこう言おうが関係のないことだ。まずは自分が納得すればよい。過去から現在にかけて、直線的でわかりやすい物語に仕立て上げることができれば私の心身も多少はすっきりするのだろうけれど。

 自分の人生にどこに問題があったのか。過去へ過去へと遡っていく作業はどこか文学的なところがある。いや、文学というものがそもそも動機を探るようなものではないか。心が重い。身体はもっと重い。思考は非生産的にぐるぐる回る。なにも生み出せない。詩なんて遠い過去に置いてきてしまった。いや、もとから詩的感情なんて自分の中に持ち合わせていなかったのに気取ったことをいう。どうにも自分の書く文章も、職場から離脱した原因も、これまでの努力も、嘘くさい。いつも自分にフタをしていてくすぶった感じ。でもフタを開けたところでよけいに壊れるだけ。それはわかる。だから今日も何もしない。過ぎていく。

 私の悩みなどたいしたことではない。世界はすごい勢いで変わっていく。社会は衰退していく。私の中にある空虚な感じは、社会に漂う風潮に影響を受けてのことなのだろうか。私と社会の関係。みんな自由に生きていく。ひと昔前に比べて格段に自由で平等な社会が達成されたはずなのに、社会は老いていく。みんなかしこく優しくなった結果、衰退していく。街は活況なのにどこかいいようのない閉塞感。にぎやかな場所は息苦しい。相手をいたわり気づかい、色々と人のために尽くした結果得られた焦燥感は現代人が手にする宝物。空しくて優しい。奥行きがなくても形は整っている。

 書くことは頭の中にあるごみを捨てること。整理すること。脳裏に沈殿する諦念がずっと私を苦しめる。身体を動かせないように私を縛り付ける。おまえはずっと座っていろと脳裏でささやいてくる。負けじと私は行動を起こす。脳内で不毛なバトルを繰り広げながら、目の前の業務に励むのはつらい。何をやっても作業効率は悪い。

 

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