第11話 魔法のペンダント

占い師の女が 両手を広げてミリアに金額を示する。

「 金貨10枚」

「たっ、 高い! そんな、お金ありません」

ミリアが首を振って買うのを拒む。

それを見てダリルはハッとする。


肝心の金を持たせるの忘れていた。 何とかして、お金を渡さないと・・。 眉をひそめて 暫く考えていたが 徐に左の手袋を外すと 自分のポケットの中に手を入れて 術式を書く。


これでミリアに渡した巾着と ポケットが繋がった。 早速金貨を移動する。


***


「買わなければ、 災いから身を守ることができないぞ。 それでも構わないのか?」

「 そんな事を言われても・・」

無い袖は振れない。 でも 買わないと不幸な目に遭う。 どうしたらいいの?

ミリアは渋面する。


「 あの・・もう少し」

値段交渉をしようとした時 もぞもぞと巾着が動くのを感じる。


何が起きたのかと見ると 閉じていた 口が開くとキュルが顔を覗かせる。 その愛らしい姿に 顔がフニャフニャになるが 、今は構っていられない 。


『おとなしくしてなさい 』

押し戻そうとしたが キュルが自分の顔ほどもある 金貨を両手で渡そうとしているのに気付く。

(お金?)


受け取ると 巾着の奥へ戻っていって行く。

どうしてキュルが、お金を持ってるの?

不思議に思っていると キュルが、また金貨を引きずってくる。 一生懸命に運んでる姿が健気で 可愛い。


ミリアは1枚ずつ キュルの努力をテーブルに並べる。

「 なんだ持ってるんじゃないか。 さっさと出せばいいものを。 貴族のくせに ケチケチしなさんな」


きっかり、10枚 金貨を並べる。

すると、女がテーブルに ペンダントを置いて両手で金貨をかき集める。

「 毎度あり。これで お前は災いから身を守ることができる。もし何か困ったことが起きたら このペンダントに願えば、 すべて上手くいくよ」


愛想笑いを浮かべて ペンダントをつかもうとすると 女が自分の手をかぶせで止める。

怪訝に思って視線を向けると女がニヤリと笑う。


「 2個目は売らないよ」

「えっ?」

そう言うと 手を外して店の奥に引っ込んだ。 どうして 態々そんなことを言うのかしら?


小首を傾げながら外に出ると 同時にダリルが 何も言わずにペンダントをひったくる。

「あっ、 返して下さい。 それがないと災いが来ます」

奪い返そうとすると 渡さないと言わんばかりに ダリルが高々と持ち上げる。


「 あんなの嘘に決まってるだろ。 本当に単純だな」

同情するような目で見られて 初めて騙されてたことに気づいて、 がっくりと肩を落とす。

考えてみれば、 私は何も話して無い。

勝手に災いから身を守る話に すり替えられていた。 こうして冷静になれば 私でもわかる。

でも、 あんな風に言われると 気になるものだ。


ダリルは最初から 詐欺だと知っていたのね。

詐欺師が売っている物なんだから 偽物に決まってるのに ダリルが真剣な顔でペンダントを凝視している。


あんな変なモノを 気に入ったのかしら?

私から見れば 金貨10枚の価値があるとは 到底思えない。 こんなモノに大金を払う ダリルの美意識を疑う。


「 気に入ったんですか?」

「 馬鹿か! 二流品だぞ。 否、 三流・・四 流? 兎に角 これはガラクタだ。 エメラルドは粗悪品だし、 チェーンも金ではなく 金メッキだ」


気に入ってもないし、 粗悪品だと知っている。

それなのに どうして?

悪魔にとっては何か特別な価値があるの?

「じゃあ なぜ買ったんですか?」

「・・・」

答える気がないのかと思っていると ダリルがペンダントを 私の首にかけて 一歩後ろに下がって 見栄えを確かめている。


「どうして私にかけるんですか?」

まさか 私へのプレゼント?

「 私は着けたくないからだ」

「なっ!」

だからと言って 私に着けさせる?

とっとと売るなり 捨てるなりすれば良いのに。 「しかし、 このペンダントは 絶望的に趣味が悪い。 好んでつける人間の気が知れないな」


そう言えば エリザベスも見られるのを嫌がっていた。 私も こんなペンダントを身に着けているところを見られたくない。 返そうとペンダントに手をやると ダリルが、びしっと 私の手を叩く。


「誰が外していいと言った」

「 それは・・」

ミリアは痛む手をさする。 プレゼントは嬉しいけれど 正直これはもらうのを避けたい。

どう言えば 穏便に返せるのかと考えていると、 不意にダリルが命令する。


「 何か願え」

「 でも、さっき嘘だと言ってませんでしたか?」

「 女の言葉は嘘だが、 ペンダントの石の中に宿っている魔力は本物だ。 どの程度の魔力があるか知りたい。 だから 何か願え」


本物? この悪趣味なペンダントが、 魔法のペンダントなの? にわかには信じられないが ダリルが嘘をつくわけがない。


じゃあ、本物なの・・。

ペンダントトップを掴むと エメラルドが鈍く光っている。

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