第116話『巡る業』3
で、件の男子生徒の打ちひしがれをそのままに仲良く帰る僕とかしまし娘。
分かたれた部屋で別れる直前、
「………………ごめんなさい……真白お兄ちゃん」
ペコリと一礼して謝罪してくるルシール。
「何が?」
おおよそわかってはいたけど会話を続けるために僕はそんな言を紡いだ。
「………………巻きこんじゃって」
だろうね。
ルシールの髪を撫ぜてやる。
それから、
「気にしなくていいよ」
優しさを口にする。
「ルシールが困っているのを助けるのは案外悪くない」
「………………あう」
髪を撫ぜられたからだろうか?
ルシールは言葉を詰まらせた。
「好きな人がいるんでしょ?」
いけしゃあしゃあと僕。
無論態度にはおくびにも出さないけど。
「………………うん」
コクリと頷くルシール。
肯定。
あっはっは。
悪党だな僕は。
「ならその恋心を大事にしないとね。勢いやその場のノリで押し切られるのもルシールにしてみれば不本意でしょ?」
「………………うん」
コクリと頷くルシール。
「うん」
僕も頷くとクシャクシャと乱暴にルシールの髪を撫ぜる。
そして安心させるように言う。
「困ったら何時でも頼って。別に僕じゃなくて華黒や黛でもいいけど」
「………………ありがとう……お兄ちゃん」
「今回の功績は僕じゃなくて黛に帰されるモノじゃないかな?」
「いやぁ」
黛が照れる。
あんまり褒めてはいないんだけどね。
ま、百も承知だろう。
「じゃあまた明日」
そう言って僕は僕と華黒の部屋の鍵を解放した。
「お姉さん、お姉様、また明日」
「………………お兄ちゃん……お姉ちゃん……また明日」
「はい。それでは」
かしまし娘が言を交し、それから僕と華黒は部屋に入る。
僕と華黒は制服を脱いで部屋着に。
僕は自室で本を読み始める。
栞の挟まれているページからだ。
そこに華黒が顔を出した。
無論ノックは忘れずに。
その辺は一線引いている。
というか引かせている。
「に・い・さ・ん?」
歌う様に僕を呼ぶ華黒。
「なに?」
「コーヒーと紅茶と緑茶がありますけれど」
「緑茶」
そしてまた意識を本に向ける。
「はいはーい」
僕に奉仕できるのが嬉しいのだろう。
華黒は上機嫌だった。
わからない世界だ。
正確にはわかりたくない……ではあるけど。
「なんだかなぁ」
キッチンに消えていく華黒の背中を一瞥して苦笑する。
「幸福者だね僕は」
本人には言わないんだけど。
そして本を読んで時間を潰している内に華黒は緑茶を用意し、それから夕食の準備に取り掛かった。
今日はざるラーメン。
いわゆる一つのつけ麺だ。
ざるに盛られたラーメンを別口のスープに浸けて食する。
そんな料理。
簡単ゆえに即座に出来上がった。
ある程度本を読み進めている内に華黒の夕餉の準備は終わった。
声がかけられる。
応対してダイニングに顔を出す僕。
しっかりとざるラーメンが用意されていた。
「いただきます」
一拍。
華黒と同時に、だ。
そして食事を開始。
ズビビと麺をすする。
「美味しいですか?」
「うん。美味」
「兄さん」
「なに?」
「大好き」
「キリン。あ……終わった」
「誰がしりとりをすると言いました!」
「え? 違うの?」
「私は兄さんのことが大好きです」
「知ってる」
「どうするつもりですか?」
「何を?」
「わかっているはずですよ」
まぁね。
「まぁ知らぬは当人ばかりなり……ってね」
憂鬱な回答だけど他に言い様もない。
少なくとも答えを出すのが僕じゃないのは確かだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます