第107話『生まれ出でた日に祝福を』6


 それからモールでまたウィンドウショッピングを開始して、いくらか店をまわったところで華黒から連絡が入った。


「ケーキが出来たから戻ってきてください」


 と。


 素直に帰宅する僕とルシール。


 今日は僕と華黒の城で僕と華黒とルシールと黛が一堂に会しての夕食となった。


 夕食は焼き肉だ。


 白花ちゃんの誕生日プレゼント。


 和牛セレクション。


「焼くのが一番いいでしょう」


 そんな華黒に反対意見は出なかった。


 そして僕たちは高級和牛を堪能した。


 結果を言うのなら一介の高校生では手の届かないクオリティでした。


 肉のくせして口に入れると溶けるのだ。


 ううむ。


 白坂、恐るべし。


 あ。


 僕もか。


 やっぱり自覚は無いけど。


 とまれかくまれ僕たちは和牛の焼き肉を堪能し、それからデザートとして華黒と黛が焼いてくれたホールケーキを切り分け食べるのだった。


 華黒の技量については心配していないけど黛も大概だったらしい。


 華黒をして、


「器用な手先でしたよ」


 と言わしめるのだった。


「お姉さんとお姉様に喜んでもらえるよう不肖黛さん……全力を尽くしました」


 とのこと。


 実際ケーキは美味しかった。


 苺のショート。


 シンプルであるが故にベストの選択だ。


 白いと云うのも僕に通ずる物がある。


 苺の酸味。


 クリームの甘味。


 スポンジの柔らかさ。


 どれも専門店のソレに劣らぬ仕上がりだ。


「うまうま」


 と華黒と黛に感謝してケーキを頬張る僕。


「美味しかったのなら良かったです」


 華黒が柔和に笑う。


「黛さんとしても光栄です」


 黛がニッコリ笑う。


「………………あう」


 とルシールが悲しそうな顔をする。


 ケーキ作りに参加できないことを嘆いているのだろう。


 それくらいはわかる。


 真っ先にフォローしたのは僕ではなく黛だった。


「大丈夫ですよルシール。来年の今頃はルシールもケーキの一つくらい焼けるようになりますって。黛さんが手ずから教えてあげますよ」


「………………うん……よろしく……黛ちゃん」


 ケーキをパクつきながらルシール。


 そして準備された全てを胃袋に押し込めると僕は、


「御馳走様」


 と犠牲と奉公に感謝した。


「お粗末様でした」


 これは華黒と黛が同時。


 そして二人がダイニングテーブルの上を片付けてキッチンにて皿洗いを開始するのを見届けた後、


「じゃあ僕はお風呂に」


 と風呂の準備をして脱衣所へと消えた。


「兄さん、私と……!」


「却下」


 華黒の懇願ににべもなく僕。


 そもそもにして後輩のいる前でそんなことが出来るはずもない。


 風呂を出た時にはルシールと黛は自身の城へと帰っていた。


 同じアパートの隣の部屋。


 まぁ器用な黛がいればぶきっちょなルシールの心配もいらないだろう。


 後は寝るだけとなった。


 僕はルシールからもらったアロマキャンドルを取り出す。


「そんなものを買ってきたのですか?」


 華黒が、


「意外です」


 と言う。


「ルシールからの誕生日プレゼントだよ」


 苦笑する僕。


「ふうん……」


 何でもなさそうに呟く華黒。


 しかして心中は嫉妬に渦巻いていることだろう。


 長い関係だ。


 それくらいは察せられる。


 本来なら僕と華黒だけで慎ましく誕生日を祝いたいというのが華黒の本音だ。


 妥協はある程度出来るものの愚痴や不満が無いと言えば嘘になるだろう。


 だから僕はアロマキャンドルに火をつけると電気を消し……その乏しい炎の明かりの中で華黒の頭をクシャクシャと撫でた。


「華黒の愛情は十分伝わっているよ」


 華黒は乏しい明かりの中で気持ちよさそうに目を細める。


 ちなみにお互い寝巻を着て一緒の布団に入っている。


 アロマキャンドルの香りを心地よく思いながら……それから華黒が抱きついた腕にムニュウとした心地よさを感じながら……僕はベッドに横になる。


 眠ろうと意識する僕。


 そんな僕の腕に抱きついている華黒が、


「兄さん……誕生日おめでとうございます」


 そう言葉を綴って頬にキスしてきた。


「華黒もね」


 今度は僕が華黒の頬にキスをする。


 恋人同士だ。


 これくらいは許されるだろう。

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