第82話『あけましておめでとうございます』4


 幸か何なのか……僕らの実家の近くにはそこそこ大きな神社がある。


 祭りごとがあれば屋台が立ち並ぶくらいには大きな神社だ。


 ルシールは振袖姿で僕の左手を握っている。


 顔が赤いのは解けていない。


 まぁ憎からず思ってくれるのは嬉しいんだからいいけどさ。


 華黒は白いセーターにジーンズという格好で僕の右腕に抱きついている。


 ときおり、


「うふふ……」


 と断続的に笑うのがとても不気味だ。


 そして僕は、皮ジャンに大きめのジーンズ……それからサングラスをかけていた。


 女と間違われないための出で立ちだ。


 ただでさえ華黒にルシールと超一級の素材が並んでいるのだ。


 僕まで女と間違われたら禿鷹によってたかられることうけあいだ。


 まぁ、華黒曰く、


「似合ってません」


 とのことだけど、男として見られるためならそんな些細なことは気にしてられない。


 神社の入り口に到達する。


 あたりは賑わっていた。


 二日目だというのに大した騒ぎ様である。


 屋台も出ている。


 お、たこ焼きだ。


 後で顔を出そう。


「とりあえずお参りしよっか」


「賛成です」


「………………はい……」


 僕らは人ごみの列に並んで、それから四方山話をしながら着実に前に進んだ。


 そして見える賽銭箱。


 僕と華黒はポケットから、ルシールは巾着から、それぞれ財布を出し、五円を賽銭箱に投げ入れた。


 二拍して一礼。


 そして列から離れる。


「兄さん兄さん兄さん、おみくじをしましょう」


 僕の右腕に抱きついたままピョンピョン跳ねるという器用なことをしながら華黒が言う。


「わかったよ華黒。ほらルシールも」


 お参りの際に離してしまった左手で再び小さなルシールの右手を掴み直す僕。


「………………うん……真白お兄ちゃん」


 頬を朱に染めながら華黒に引っ張られる僕に引っ張られるルシール。


 バイトの巫女さんにお金を払っておみくじをもらう。


 僕は大吉だった。


 けど失せ物は出るらしい。


 さて、何を失うのやら。


 ちなみにルシールも大吉。


 華黒は吉。


「ううう……」


 と呻く華黒。


「凶じゃないだけましじゃん」


「そんな最底辺の慰め方はやめてください」


 しょぼんと華黒が項垂れる。


 華黒のおみくじを見れば勉学もいいし失せ物も出ないし縁談もよろしいらしい。


 ……本当に吉なのかしらん?


 ともあれやるべきことを終えて僕らは屋台巡りといった。


 たこ焼き。


 ポン菓子。


 リンゴ飴。


 焼き鳥。


 イカ焼き。


 わたあめ。


 昼食代わりに散財した。


 ちなみに全部僕持ちだ。


 男が女に奢るもの……なんて常識は反吐が出るほど嫌いだけど華黒とルシールは別枠だ。


「はい、兄さん、あーん」


 食いかけの焼き鳥を僕の口元まで持ってくる華黒。


「あーん、む」


 砂ズリはとても美味しかった。


 ちなみに焼き鳥は全て塩味。


 そんなところでは僕と華黒は波長が合う。


「はい、ルシールも、あーん」


「………………う……あ……あーん……む……」


 とルシールは華黒に焼き鳥を食べさせてもらう。


 そして華黒が、


「これで兄さんと間接キスですね」


 余計なことを言った。


「………………っ!」


 またしても頬を朱に染めるルシール。


 ルシールも大変だ。


 何かあるたびにルシールは赤面している印象がある。


 いや、まぁ……可愛いからいいんだけどね。


「兄さん、何か不埒なことを考えてませんか」


「ルシールが可愛いなって考えてたよ?」


「………………っ………………っ………………」


「新年初可愛いが何で私じゃなくてルシールなんですか!」


「可愛い可愛い」


 そう言って華黒の頭を撫でてやる。


「うー、私二番目……」


 むっつりふくれる華黒。


「じゃあ新年最初の事をしよう」


「はい?」


 僕はほけっとした華黒の隙をついて、華黒に新年初接吻をした。


 新しき年の始めの初春の今日降る雪のいや重け吉事。


 なんてね。

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