第72話『七夕祭り』1
七夕のエピソードです。
※――――――――※
「こうやって、こうやって、こうやって、こう……どうです? 兄さん……」
「うん。大丈夫みたいだね。ありがとう華黒」
「いいええ、大事な大事な大事な私の私の私の兄さんのためですもの」
「まぁ僕が誰のものかはおいておくとして、とりあえず準備完了かな?」
そう言う僕に、
「はい!」
アサガオのような笑顔でそう頷く華黒。
華黒は黒く長い髪を揺らしてにやける。
気持ちは察せないでもなかったからつっこみはしない。
今、僕と華黒はハレの衣装を着ていた。
僕は薄い青の甚平。
華黒はアサガオの意匠をあしらった浴衣。
僕は姿見の前で体を捻って甚平の具合を確かめる。
と、
「………………あの……真白お兄ちゃん……華黒お姉ちゃん……終わった……?」
そう言ってヒョコッとダイニングから顔を出したのは、金髪セミロングの、華黒よりなお白い肌を持って、青い目をした美少女だった。
百墨ルシール。
僕と華黒の従姉妹だ。
ルシールもまた着物を着ていた。アジサイの意匠をあしらった浴衣だ。
「うん。終わったよ。そう言えばルシールの着物も可愛いね」
「………………ふえ……そんなこと……ない……」
「いいえ。可愛いですよ。もっと自分に自信を持ちなさいルシール」
華黒も追従する。
ルシールは顔を真っ赤にして俯いた。
可愛い可愛い。
「それじゃあ行こうか」
「はいな」
「………………はい」
そう言って僕らは玄関にいくとサンダルを履いて外へと出た。
*
今日は七月七日。
少し遠くである雪柳学園大学の七夕祭りだ。
雪柳学園は中等部、高等部、大学のエスカレータ式の学園で、七夕祭りは雪柳学園大学の学園祭にも劣らぬ盛況を見せる一大イベントだ。
僕と華黒とルシールは近場の駅で切符を買って雪柳学園の最寄りの駅まで行く。
雪柳学園だけでなく周辺の地域も巻き込んだお祭りだからその盛り上がり具合には舌を巻く。
目的の駅に向かう電車は混雑していて、僕と華黒とルシールは手をつないでなんとか迷わないように苦慮した。
とはいっても僕の右手は今ある理由により使えないから、僕の左手を華黒の右手が握って、華黒の左手をルシールの右手が握っている状況だ。
そのまま大量の人間が目的の駅へと降りていく中を、僕らも流れに身を任せて同じく降りる。切符を駅員さんに渡して駅を出る。
ここから五分も歩けば雪柳学園だ。
「はぐれてはいけませんから兄さんの腕に抱きつきましょうルシール」
そんな華黒の提案に、
「………………ふえ」
顔を朱に染めるルシール。
華黒は僕の右腕に抱きついた。
それから言う。
「ほら、ルシールも」
「………………いいの? 真白お兄ちゃん……」
「いいよ」
「………………そう」
そう言ってルシールは僕の左腕に抱きついてきた。
さて、どうなったかというと……ものの見事に浮いたね。
片や奇跡の彫像も裸足で逃げ出すような……大和撫子を体現した百墨華黒。
片や幼さの残る顔立ちに金髪と青い目を持った少女。
そんなA級の美少女二人をはべらせて歩いているのだ。
注目を受けない方がおかしい。
周りの注目にうんざりしていると、
「ね~え、君たち」
と声がかかった。
僕達の進路方向をふさぐように三人の青年が立っていた。
耳にピアスをしていたりネックレスや指輪をしていたり、軽薄な服装だったりと悪ぶっているのがありありとわかる男たちだった。
一応丁寧に接してみる。
「僕達に何か用ですか?」
クスクスと中央の男が笑う。
「僕、だって……か~わいい」
「…………」
どうやら僕まで女の子だと勘違いしているようだ。
怯えているのかルシールはギュっと僕の左腕を強く抱きしめる。
男達は悪臭のするような笑顔で僕達に話しかけてくる。
「俺達に付き合わねぇ? なんでもおごっちゃうよ?」
「そっちも三人でこっちも三人。釣り合いがとれると思わねぇ?」
「損はさせないからさぁ」
そう言ってニヤニヤとする男達。
さて……どうする?
僕の右手は使用不能だ。
ここは穏便に済ませたいところだった。
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