母の自慢のハンバーグ
ケンジロウ3代目
短編小説 母の自慢のハンバーグ
最近、僕は母の笑顔をよく見かける
何か最近になって嬉しいことがあったのか
母のささいな変化に少し首をかしげていた時もあったが
嬉しいならまぁいっかと思っていた
ある日の午後
母はまた今日も台所で何かしていた
「・・・今日も何作ろうとしてるの?」
「えッ!?」
急に話しかけられ、だいぶビックリした様子の母
「あ、ああ・・・、今日もハンバーグを作ろうと思っててね。」
「また?他のものとか作ればいいのに。」
「あはは・・・、でもどうしてもうまくなりたいの。」
僕の母は、料理が苦手だ
家の食事は僕と父で交代で作っている
最初に母が作ったハンバーグはとてもいびつな形をしていて
ひき肉も半分焼けていなかったりで
僕と父はそれ見て苦笑いしてたっけ
それから母は時間ある時はいつもハンバーグを練習しているのだ
かれこれ3年が経とうとしているのだが
段々上達はしてきていると思う母のハンバーグでも
まだもう少し、といった所だろうか
また今日も母は台所にいた
作るものはもちろん、ハンバーグ
でも今日もまたうまくいっていないようだ
モノが焦げた匂いが部屋を漂っている
「あーッ!また失敗しちゃった~!」
母が悔しそうな表情でフライパンを見つめている
でも母はすぐに笑顔に戻り
「でも途中までは良かった!うんッ!忘れないうちにもう一回!」
行程で気づいた所を次々にノートに書きだして、それをしばらく吟味すると、母は再び挽き肉をこねだした
僕は居間のソファから母を眺めていた
今日は休日
母は今はスーパーに買い物へと出かけている
帰ってきたらまたハンバーグ作りかな
そう思っていると、奥の部屋から父が僕を呼んだ
「
「ん?いいけど、どしたの?」
最近特に何もしていなかったので、父の呼びかけに疑問を抱く
「・・・話が、あるんだ。」
真面目な顔で、父はそう言った
「母さんの事なんだが、実は ――――
「母さんが、病気・・・!?」
「あぁ、そうだ・・・、この前医者にはあと1か月の命と言われた。」
「それって・・・!?」
「あぁ・・・」
父は、それ以上言うことはなかった
この頃笑顔が多かった母のことだから、病気という事実は受け入れがたかった
母は、僕に病気という事実を隠していたのだ
でも、理解はまだできなかった
あんなに元気そうな母だったから
あんなに料理を頑張ってる母だったから
笑顔が多かったのは、僕を心配させないためだろうか
その夜、僕は眠ることができなかった
今日は異例の日で、母が夕ご飯を作るという
メニューはもちろん、ハンバーグ
母は僕が台所で料理を始めようとすると
「やっとハンバーグができるようになったの!だから今日は母さんに作らせて!」
自信ありげな表情で母が言ってきたから、僕は二言返事で台所を譲った
母は、今は台所で鼻歌を唄いながらハンバーグをこねている
僕と父はそんな母を、ただ黙って見つめていた
「出来たよ~!母さん特製のハンバーグ!」
食卓に出てきたのは、形はいびつで大きさもバラバラだけど、とてもおいしそうな3つのハンバーグ
「おぉ・・・確かにこれはうまそうだ・・・!」
父もその出来栄えに驚いているようだ
僕も素直に驚いた
三人とも所定の位置につくと
「じゃあ、いただきます!」
「「いただきます!」」
僕はホカホカのごはんに、一番大きいハンバーグをのせて
ハフハフ言いながら母のハンバーグを頬張った
「「美味しい・・・」」
僕と父は、思わず言葉が漏れてしまった
「・・・ありがと!」
母はとても嬉しそうだった
母も自分が作ったハンバーグを美味し気に頬張っていた
母のハンバーグは本当に美味しくて
これがもう食べられないのかとふと思うと
僕は涙が出そうになった
僕はそれをごまかすかのように、さらにご飯をガツガツ頬張った
父もおそらく同じことを思っていたのだろう
父も同様に、ご飯を頬張っていた
僕はこの日、ハンバーグが好きになった
そしてその翌日の朝
母はこの世を去った
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
あれから年月が経ち、僕は今は2児の父親となった
僕はご飯を作ることが多いので、その時はよく好物のハンバーグを作っている
その時に僕はよく母がメモ書きしていたあのノートを見ながら作るのだが
そのノートの末尾には、こんなことが記されていた
―――○月×日、△曜日
今日はやっと完成したハンバーグを二人に食べてもらった
なんか二人とも泣きそうな表情だったけど
はじめて『美味しい』って、言ってくれた ――――
最後の「た」の文字は、母の涙で滲んでいた
おわり
母の自慢のハンバーグ ケンジロウ3代目 @kenjirou3
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