Calling

夕凪 春

Ⅰ.怜亜と有希

「有希、おっはよ~!」

「あ、怜亜。おはよ」


浅海怜亜あさみれいあ麻生有希あそうゆきは同じ高校に通う二年生。

この二人は中学時代からのクラスメイトだ。趣味などの共通点がことごとく合致し、どちらから言うまでもなく自然と友達になった。

もちろん意見などが合わずに喧嘩になることもあったものの、その都度どちらかが謝り仲直りをしてきた。

二人にとってお互いは何をするにも一緒に過ごしてきた、掛け替えのない親友なのだ。


「昨日はごめんね。途中で眠くなっちゃって。あれ以上は限界だったの」

「あ、やっぱり寝てたんだ!大分時間も遅かったしね~。逆に付き合ってもらってありがと」

「それで例の彼の事、何とかなりそ?」

「ええっ!?」


唐突な有希の質問に、動揺を見せまいと怜亜は続ける。もっとも、その視線は定まってはいないが。


「え、あ……いやあ……。う、うん、頑張るつもり」

「出た、怜亜の『頑張るつもり』。絶対頑張らないやつだそれ。まあ、あたしのほうからも根回ししておくからさ?」


有希はウィンクをして怜亜への後押しを約束してみせた。


「本当!?ゆっきー、助かるよぉ~」


彼女は彼女で恋愛経験では先輩となる余裕がそうさせるのだろうか、ことそれに関しては怜亜のお助け役を買って出る機会が多い。


「お、二人ともいたいたよ!ちゃおっす!」

「くんくん……楽しそうな話をしていたにおいを感知中」

「マジで、マジでか?現場はここか?」


騒がしく怜亜達に近寄っていくのは美奈みなあずさ

高校に入ってから仲良くなった二人も友人だ。

同じクラスになったこの四人は何かと行動を共にしている、いわゆる仲良しグループなのだ。

全員揃って帰宅部で、帰りもよほどの事がなければ一緒。休日や長期休暇も連絡を取り合い遊びに行く仲だ。


「そ、そんなことないよ?ね、ゆっきー!」

「どうだったかな。うーん、そうだったかも?うーん、どうだったかなぁ?」

「ちょ、ちょっとぉ~!」

「むむむ、隠し事はよくないぜ!このおいちゃんに、ドドーンと相談してみないか?さあ来な、この胸にドドド・ドーンとな!」


美奈は大げさに胸をどんと叩いてみせた。彼女はこの四人の中では一番男らしい性格をしており、頼れる兄貴のような存在だ。


「ぶっ。なにそれウケる!どどど、ど~ん!」

「ミナ、またへんなドラマに影響されている……」



そうして授業開始のチャイムが鳴る。

開始十分もしないうちに、早くも眠りの世界に行ってしまったのが美奈と梓。

この二人はいつもこうで、上手く教師の視界から逃れるすべを心得ている。

成績はというと美奈は言うまでもないもので、梓だけは何故か毎回良い結果を残している。


「まーった寝てるし~ぷぷぷ」


それを見て笑う怜亜は容赦なく教師から指される。


「では浅見さん。ここ答えて」

「はい。えっと……あ、ダメだ~!わかりません!」

「わからないを自信満々に言わないでください。それでは……」


「はい」

「では、麻生さん」

「……となるわけで、つまり正解は~~~です」

「素晴らしい回答です。さすがね、皆も麻生さんを見習うように」


怜亜の代わりに設問に答えた有希は、派手めの外見とは違って学年上位をキープしている。

このギャップにはどのクラスメイトも最初は驚くものだ。

一方の怜亜は可も不可もないと言った風で、いわゆる平凡な成績を収めている。


「有希、ノート!ノート!」

「あたしはノートって名前じゃありません。だから貸しません」

「えー、意地悪しないでよぉ~!」


彼女も文句こそは言いつつも結局は貸してしまうのだが。


+++


「有希、インフルだったみたい。しばらくは学校、来られないって連絡あった」

「絶対安静がひつような案件」

「おおい、マジかぁ……」


いつもとは違う放課後、閑散とし始めた教室には三つの影が並ぶ。


「今日は怜亜の誕生日だってのになあ。さすがに有希抜きってわけにもいかないよな……」

「それはいちりある。でもレアの……」

「二人とも落ち込みすぎだよ~。私のなんていつでもいいって!」

「じゃあ、皆揃ったら改めてやるってのは!いっそ盛大に教室でも貸切にするか!」

「それはナイスなアイデア」


梓の目がキラリと光る。すかさず親指を立てると上下にぶんぶんと振って賞賛した。

彼女は少し癖のある喋り方で掴みどころのない性格をしている。四人の間ではマスコットのような感じだ。


「いやいや、盛大すぎるよ~!?ていうか、そこまでされると逆に恥ずかしいというか……?もう高校生なんだし!」

「まあ、それは冗談だけどさ!とりあえず今日はクレープで前祝いをしよう!」


クレープという言葉の持つ魔力によって、二人の表情が一瞬で明るくなる。

甘いものには人を笑顔にする力が宿る、というのもあながち間違いではないようだ。


「……じゅ、じゅるり」

「やった!私苺とチョコのやつにする!むっふふふふ~!」

「いいぞいいぞ、特別に一人二個までなら許そうではないか」

「……っ!はい、ミナせんせー。ソレハ、オゴリ、ナノデショウカ」

「ぷくくっ、やめろ!なんでそこだけ片言なんだよ!とにかく、有希には悪いけど今日は今日で楽しもう!」



もしも一人で帰ることになっていたら、どれほど悲しかっただろう。

当然親友がいないのは寂しかったけれども、この二人が傍にいてくれて本当に良かったと怜亜は心から感謝をした。

これからもまだ見ぬ沢山の出来事が待っている。それはこの四人でなら絶対に楽しいに違いないのだ。

二人と別れた後の帰り道、怜亜は期待に胸を躍らせながら家路に着いた。

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