第15話 悲鳴

 竜の洞窟に飛び込むと、黄金竜がのたうち回っていた。一本の剣が竜の片目に突き刺さっている。引き裂かれた翼。二人の騎士が竜を相手に戦っている。

「レオン!」

 竜がレオンを叩き潰そうとする。かわすレオン!

 逃げて! いや、やめて! レオン!

 もう一人の騎士が、さらに竜に斬りつける。

 キン!

 何かが飛んで来た。私の足下に落ちる。金色に輝くかけら! 竜の鱗のかけらだ。

 凄い! あの剣士! あれは?! まさか!

 もう一人の騎士はミレーヌ=ゾフィー様だ。

 信じられない。あの美しい人が、果敢に竜に剣を振るう。レオンはバルコニーに登った。竜の目に突き刺さった剣は、既に、抜け落ちている。レオンはもう一方の目も潰す気だ。竜の頭に向けて剣を投げようとしている。竜が息を吸い込むのが見えた。

「ダメーーーーーー!!!!」

 竜が火を!

 ゴオゥ!

 竜がレオンに向って炎を吹きつける。盾でふせぐレオン。

 よかった! 盾が役に立った!

 盾は、洞窟の戦闘に備えて私たちが倉庫から持って来てバルコニーに並べた物だ。

 ロジーナ姫の話を私は思い出した。

「竜は恐らく平野で殺されるでしょう、しかし、万が一という事があります。この洞窟で戦闘が起きた場合に備え、盾をバルコニーに並べるのです。私は万が一に備え、竜の炎を防ぐ盾をバルコニーに並べると書いて送りました」

 竜の洞窟の小部屋の一つにたくさんの剣や盾があった。私は何故、竜の洞窟に武器があるのだろうと思った。セイラさんによると、昔からあったのだという。ファニは洞窟に剣があっても頓着しないのだという。ファニは剣が自分の鱗を貫けないと知っているのだ。

 しかし、盾は洞窟で戦闘が起きた時、竜の炎を避けるのに役に立つ。ロジーナ姫はバルコニーの手摺にずらりと盾を並べさせた。

 今、レオンがその盾を使って竜の炎を避けている。

 しかし、炎を避けるばかりでは竜は倒せない。

 レオンに爪をのばす竜。皇女様がさらに、竜の翼に斬りつける。胴体は鱗に覆われているが、羽根には鱗はない。ロジーナ姫の言った通りだ。竜が尻尾を振り回した。

「あぶない!」

 尻尾に弾かれるミレーヌ様。洞窟の壁に当たって気絶した。私はミレーヌ様に駆け寄ろうとした。

「だめ! 今行ったら巻き込まれる」

 セイラさんが私の腕を掴む。竜が大きく口を開け、レオンを襲う。

「いやーー! やめて!」

 レオンがもう一度、竜の目を狙って剣を投げた。だけど、かわされた。竜がレオンを掴もうとする。竜のかぎ爪をかわすレオン。レオンを叩き潰そうと、竜の尾がレオンめがけて振り下ろされた。転がってよけるレオン。尾はレオンのすぐそばを打つ。さっと、剣を拾うレオン。レオンは竜の背に飛び乗ろうとした。が、竜の尾で弾かれ、壁にぶつかった。倒れるレオン。

「いや、お願い、やめて!」

 私はセイラさんの手を振り切ってレオンに駆け寄っていた。

 レオンが! レオンが、死んでしまう。いや、神様、お願い、レオンを死なせないで!

 頭から血を流し動かないレオン。竜が私達に向って炎を吐こうとした瞬間。

「いやーーーーーーーーーあーーーーーーーーアーーーーーーーーアーーーーーーーアーーーーーーー!!!!!」

 私は超高音の悲鳴を上げていた。長く長く洞窟一杯に響く悲鳴。

 ギャーーーーーーーーーーーーーー!

 竜が!

 バリバリバリバリバリ!!!

 何が起きたのか!

 竜の鱗が、鼻先から首、胴体、尾へと弾け飛んだ。

 黄金の鱗が竜の体から弾けとび、その一枚一枚が砕け散った。

 全身の鱗をはがされてもがき苦しむ竜。真っ白な体をさらしてもだえている。右に左に巨体が転げ回る。

 その時、雄叫びが聞こえた。

 竜に囚われていた人達が、みな、手に手に斧や包丁を持ち、竜に向って行く。ここぞとばかりに打ち据える。

 私はレオンの剣を取り上げた。いや、取り上げようとした。

「だめだ、ギル。その剣は君には使えない」

 レオンが剣を取って飛び起きた。竜に向って走る。振り下ろされる竜の腕を一刀両断に切り落とす。激しく暴れる竜。レオンは竜の腹側に潜り込むや、竜の胸、心臓のあたりに深々と剣を突き立てた。竜が炎を吐きながら首を振り回す。誰かが炎に包まれた。悲鳴が上がる。肉の焼ける匂いが鼻をつく。のたうち回る竜。竜のどす黒い血があたりに飛び散る。

 竜が引きつったように首を伸ばし断末魔の叫びを上げる。どうっと倒れて動かなくなった。残った片目から生気が消える。あたりからわーっという歓声が上がった。

 私も歓声を上げようとした。

 ゲフッ

 喉が! 痛い!

 歓声を上げようとした私は、声の代わりに、真っ赤な血を吐いていた。

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