16.引きこもっているのです

[2018・9・12]

 あたしたち二人は、焦っていた。

 正確には、あたし一人が焦っていて、それを感じ取ったあのひとが引きずられるようにおろおろしていた。


 あたしは、義務感から『善行』を探し求めていた。

 でも、外は雨。羽衣も光らない。


 外には出られないし、出る意義もわからない。

 でも、もしかしたら……という思いで、雨が上がって晴れた間は外に出て、鬱屈した気分を紛らわすかのようにあちこち動き回り、落ちてるゴミを拾ったり、人助けか何かできないかと、きょろきょろしたりしていた。


 そうしていると、たいてい周囲の人間からは奇異の目で見られて、あのひとに心配をかけてしまう。


 このころになると、あたしは、この、今の地上では『善行』などやりようもないことに気づき始めていた。


 それでも、身体中を、義務感と焦燥感がむしばむ。


 結局、雨の間の暇に任せて、あたしはあのひとのそれなりに汚かった部屋を完全に整理整頓することに成功した。



 そうして、本当にやることがなくなってしまった。


 何かやらなきゃいけない気がするけど、やりたいこともやるべきこともなく、ただじりじりと心が痛めつけられてゆく……。




「伊月」

 あのひとがあたしを呼んだ。


「おいで」

 あのひとは、自分の座っているベッドの隣の場所を、ぽんぽんと叩いて見せた。

 そうやら、ここに座れということらしい。


 あのひとの隣に座る。

 ベッドが音を立てて軋んで、二人の身体がちょっと揺れて、一瞬だけ触れ合った。


 落ち着くような、温かさ。

 そして、あのひとの柔らかい声。


「伊月、お話をしよう」 

 

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