賓客

 検査官と医師が女性であったことは幸いだったが、それにしても屈辱的な経験だった――。獣使いの少女は指定の白いシャツに細腕を通しながら思う。


 ――町を守って、町人に敬遠されて、おまけに隔離対象。なんだかなぁ。


 検査前の服は取り上げられてしまうし。



「私じゃなくても、溜息の一つぐらい吐くわよ」



 ぼやいて部屋に用意されたベッドへ腰掛ける。



「ま、それなりの待遇は用意されてるみたいだけど」



 部屋には質の高い木材で組まれたベッドフレームにボリュームのあるマットが置かれ、真っ白なカバーがシワ一つなくピンと張って敷かれている。更に一見して解るふかふかの毛布も用意されていて、寒冷地であるこの国の気候でも、これなら温かく眠れるだろうと安心させてくれる。


 更に神国のガラス加工技術を示す大きなガラス窓には、機能性が高そうな厚手のカーテンが下げられていた。木材とガラスと白いシーツ、そこへ錆っぽい赤色の毛布とカーテンが主張することなく馴染み全体の高級感を演出している。



「採光も入眠環境もバッチリね」



 救出した捕虜は大部屋に押し込まれるそうだが、この個室に限れば、正直に言って町外れの小屋よりもずっと良い。


 ――小屋はリアムさんが居なくなってからずっと、そのままだからなあ。


 高い木々と断崖に囲まれた小屋は採光に少々の問題を抱えているし、寝室をそのままにしてあるから入眠環境も何も、長いソファで毛布に包まって寝転んでいるだけだ。


 同居人が木の堅い床に直接、毛布も被らずに、それどころか座ったまま寝るのだから、贅沢も言えない。



「シンプルな木製デスクに白紙を綴ったノート。それからペンとガラス瓶入りのインク。ふむふむ……。もういっそ、ここに住んじゃおうかな」



 ――ああ、でも、山のような小説本がないのは、落ち着かないかもなあ。

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