裏の手

 部屋を出た紳士が厳しく問い、監視兵を混乱させる。



「僕は十二人だと聞いている。彼にも確認を取り、間違いなく救出した捕虜の数は十二人だと言った。十一人というのは、君の聞き間違いではないのか?」



 立場を利用して人数の再確認を押し付けることで、監視の目を逸らす。


 親衛隊ヴァリヤーグの少年は隙を衝いて部屋を抜けだし、通路へ出ると、元捕虜の女達が最初に隔離された部屋へと足音を忍ばせて向かった。


 魔女協会ストラガルの紳士によれば、検査を終えて隔離対象でなくなった女達は別部屋に移され、元の部屋には検査を通らなかった件の少女だけが居るそうだ。



 ――ここにも監視の目があるな。



 再検査となった隔離対象者が入れられているのだから、当然、監視兵はそこに着く。部屋に件の少女がいるという証左ではあるが面倒だ。



 ――仕方が無い。



 少年は前髪で目を隠し、歩幅を小さくして、俯き気味におどおどと監視の目に触れる位置へ出る。更に、心に深い傷を負っているかの如く虚ろな表情を作る。



「おいっ!」



 すぐに監視が駆けつけて、大きな声で言った。



「貴様、いつの間に部屋を出た!」



 まだ捕虜の服を着ていることから、再検査の対象者だと思われたのだろう。


 少年はビクリと体を震わせて声を上擦らせた。



「あのっ……、再検査を言い渡されたのですが、部屋がわからなくて……。その――。すみません」



 しゅんと俯いて伏し目がちに、怖々とした調子で語る。


 どう見ても幼気で、不幸な目にあった少女。保身と地位、名誉のために国家へ忠誠を誓った蛮族と同じ身分だなどとは気付きようがない。



「――まったく、誰だよちゃんと誘導しなかったのは。これじゃ俺まで検査対象じゃねえか。……再検査の隔離部屋はすぐそこだ。連れて行ってやる」


「あ……、ありがとうございますっ!」  



 ホッとしたのだろうと相手に悟らせる笑顔と口調で、欺いた。

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