涼宮ハルヒの再生

またたび

涼宮ハルヒの再生

キョン 「……ここは」


目が覚めると、そこにはいつも通りの部室の風景ではなく、見たこともない広大な砂漠の風景が広がっていた。そしてまず俺が思ったのは……


キョン 「長門!長門、いるか!近くにいるなら返事をしてくれ!」


シーン


ハルヒ 「……あんたって有希のこと、好きなの?」


後ろからハルヒの声が。


キョン 「は、ハルヒ!いたのか」


ハルヒ 「……長門、長門!ってこんな砂漠に来てまず言うのがそれなんて、あんたよっぽど有希のことが好きなのね」


キョン 「ち、ちげぇよ……これは」


みくる 「キョンくーん!!」


後ろから麗しい天使の声がっ!


キョン 「朝比奈さん!良かった、無事でしたか」


ハルヒ 「私にはそんなこと言わなかったけど」


みくる 「良かったです!!本当に良かったです!!目が覚めたら全然知らないところに来てて、不安で不安で……」


朝比奈さんが抱きついてきた。俺は素直に朝比奈さんに再会したことを喜び、ついにやけてしまった。下心なんかないぞっ!絶対に!


ハルヒ 「みくるちゃんも無事だったのね。これであとは古泉くんと有希だけだけど……」


ハルヒも冷静を装ってはいるが、かなり動揺している。体が震えていた。当然だ。目が覚めたら、目の前には広大な砂漠。動揺しない方がおかしい。


古泉 「みなさん、無事でしたか!」


ハルヒ 「古泉くん!」


キョン 「こ、古泉!無事だったか」


古泉 「ええ、おかげさまで。……それにしてもここは一体どこでしょうか? おそらく見たところ砂漠には違いありませんが」


キョン 「おい、古泉。ここは閉鎖空間か?」 ひそひそ


古泉 「いえ。ここは現実世界です、間違いありません。残念ながら僕にもこの状況は把握できてないんですよ。おそらく、頼りになるのは長門さんくらいだと」ひそひそ


ハルヒ 「何二人でこそこそしてるのよっ!」


キョン 「……いやな、ここがどこかについて話していたんだ。まあこんな砂漠なんて滅多にないから予測はつくが。少なくとも日本ではない」


ハルヒ 「……本当に記憶がないのよね。なんで私たちはここにいるのかすら分からない」


キョン 「またハルヒの力のせいか?」ひそひそ


古泉 「決定打はありませんが、おそらくそうでしょう。……まずは長門さんを探しましょう。SOS団のメンバーがここまで揃っているということは、どこかに長門さんもいるはずです」 ひそひそ


キョン 「よし、みんな!長門を探しに行くぞ!」


ハルヒ 「わ、私が団長よっ!だから私が仕切るわ!」


ハルヒ 「SOS団! 長門有希の捜索を始めるわよっ!もし見つけられなきゃ死刑だから!!」


キョン 「……もし見つけられなかったら、普通に死ぬんだが」


みくる 「頑張りますっ!!」


キョン 「……ていうか、古泉。お前の能力で長門を見つけられたりしないのか?」ひそひそ


古泉 「……無理ですね。そもそも僕は閉鎖空間でないと能力は使えないので」ひそひそ


キョン 「そういやそうだったか」


ハルヒ 「キョン!古泉くん!何喋ってるのよ!早くついて来なさい!!」


キョン 「……分かりましたよ、団長」


トコトコ


不思議と嫌じゃなかった。ハルヒの怒鳴り声にイライラしなかった。むしろひどく懐かしく感じて心地いいぐらいだ。なんでだろうな? 昨日だって普通に会ってるのにな。……ってあれ?


キョン 「……そういや古泉」ひそひそ


古泉 「なんでしょうか?」ひそひそ


キョン 「お前……ここまでの記憶、覚えてるか?」 ひそひそ


古泉 「残念ながら。いつの間にか砂漠の真ん中にいたもので」ひそひそ


キョン 「じゃあ昨日のことは覚えてるか? もしくは一昨日のことでもいい。最近で覚えてることあるか?」ひそひそ


古泉 「そりゃあもちろん覚えてますよ。昨日は涼宮さんとみなさんで……ってあれ? それはちょっと前の話でしたっけ。じゃあ一昨日は……」ひそひそ


キョン 「思い出せないだろ?」ひそひそ


古泉 「……ええ。自分でも驚きですが」 ひそひそ


違和感は常にあった。他にも……


キョン 「ハルヒ!」


ハルヒ 「……何よ、キョン」


キョン 「お前今日はポニーテールじゃないのか?」


ハルヒ 「はっ?」


俺の記憶ではハルヒはいつもポニーテールのはずだ。……はずか?なんか自信がなくなってきた。


みくる 「キョンくん、涼宮さんはいつもポニーテールではありませんよ?」


キョン 「……そうだったか?」


古泉 「ええ。涼宮さんはどちらかと言うとショートボブと言うんでしょうか。少なくともポニーテールではありません、つまりは今の髪型がいつも通りの涼宮さんの髪型です」


ハルヒ 「……あんた、意味分かんないわね。なんか変なものでも食った?」


キョン 「あいにく砂漠の真ん中じゃ、食べたくても食べ物がない」


ハルヒ 「じゃあ暑さにやられたのね」


確かに言われてみると、ハルヒのその髪型に違和感は感じない。毎日この髪型を見ていた気もしなくない。だが、不思議とポニーテール姿のハルヒの方が心に残ってるのだ。ただの俺の趣向だろうか?


キョン 「そういえば朝比奈さん」ひそひそ


みくる 「……なんでしょう、キョンくん」ひそひそ


キョン 「未来との連絡は取れたんですか? もう確認はしたんでしょ?」ひそひそ


みくる 「……はい、未来との交信はもう試しました。でも」ひそひそ


キョン 「でも?」ひそひそ


みくる 「反応がないんです。というよりそもそもここ自体、時間軸がおかしいのかもしれません」ひそひそ


キョン 「……どういうことです?」ひそひそ


みくる 「とても難しい話なので説明はできませんが、要するに、未来のみなさんに助けを求めることは不可能だということです」ひそひそ


キョン 「……なるほど。じゃあ古泉、お前は機関と連絡は取れないのか?」ひそひそ


ハルヒ 「さっきから何喋ってんのよ!」


キョン 「げっ」


みくる 「ここは私に任せてください」ひそひそ


キョン 「感謝します」ひそひそ


古泉 「残念ながら、機関とも連絡が取れない、というよりそもそも携帯がないのですよ」ひそひそ


キョン 「言われてみると、確かに俺も携帯を持っていない」ひそひそ


古泉 「今機関がどこで何をしてるのか、さっぱり分かりません。機関に頼るのは得策ではないかと」ひそひそ


キョン 「……分かった」


話が一段落して、ふとハルヒの方を見てみると、案の定、朝比奈さんがまるで小動物のようにいじめられていた。ハルヒはいつもよりさらに朝比奈さんの体をあちこち触っている。で、朝比奈さんはもちろん嫌がっているものの、どうするすべもなく、抵抗していない。いつもの風景だ。いつもより、より一層ハルヒの嫌がらせのレベルが高まっている気もするが。やれやれ、何故いつもしていることなのに、そこまで躍起になって朝比奈さんをいじめるのか。いつだってできるだろ、そんな今しかできないみたいに……。でも、不思議と、その光景はひどく懐かしく感じるのだ。


ハルヒ 「ちょっと疲れたわね。少し休憩しましょう!」


キョン 「……いや」


ハルヒ 「えっ」


キョン 「今からでも遅くない、元の場所に戻ろう」


ハルヒ 「な、何でよ⁉︎ せっかくここまで歩いてきたのに!!」


キョン 「遭難した時はその場を動かないのが鉄則だろ?それに……」


ハルヒ 「それに?」


キョン 「俺たちはみんなあの場所で目覚めた。あの場所自身に何か意味があるのかもしれん。だから戻っても損はないと思うぞ?」


ハルヒ 「うーーん……」


ハルヒはひどく悩んだ後、


ハルヒ 「分かったわ、戻りましょう。でも、どうやって戻るの?この広大な砂漠で」


キョン 「簡単だ、足跡を辿ればいい」


後ろには自分たちが残してきた足跡があった。


トコトコ


そして長い道の先、目が覚めたあの場所には……


キョン 「長門!!」


ハルヒ 「有希!!」


長門がいた。


キョン 「長門、今までどこに!」


長門 「……言いたいことは分かってる。説明する、だから少し待って」


キョン 「……分かった。ただこの状況についてはちゃんと説明してくれよ。もう俺の頭じゃ限界だ」


長門 「……分かった」


ハルヒ 「有希! 無事で良かったわ!」


長門 「……涼宮ハルヒ」


ハルヒ 「えっ」


長門 「あなたは特殊な能力を持っている。それは世界をも変える力」


古泉 「ちょ、長門さん⁉︎」


長門 「そして私はそんなあなたを監視するために情報統合思念体によって送り込まれた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」


長門 「あなたなりの言葉で言うなら宇宙人」


ハルヒ 「えっ……?」


長門 「そしてそこにいる朝比奈みくるは未来人。私同様、涼宮ハルヒを監視するためこの時代にやってきた」


みくる 「な、長門さん!そ、それは」


キョン 「長門!今はハルヒもいるんだ。なんで言っちまったんだ……」


長門 「大丈夫。意味はある。私を信じて」


キョン 「長門……」


ハルヒ 「ちょっと……ちょっと!!どういうことよ⁉︎ 有希が宇宙人でみくるちゃんが未来人⁉︎ い、意味が分からない」


長門 「……古泉一樹、彼は機関と呼ばれる組織から来た超能力者」


古泉 「……」


古泉 「……もうバレてしまいましたし、僕は長門さんを信じますよ」


長門 「……助かる」


ハルヒ 「……み、みんな。ほ、本気なの? 私が宇宙をも変える力を持っていて、有希が宇宙人、みくるちゃんが未来人、古泉くんが超能力者? じょ、冗談でしょ? わ、私を嵌めようったって引っかからないわよ」


キョン 「俺だって嘘だと思いたいが、本当なんだよ……ハルヒ」


ハルヒ 「……」


古泉 「で、長門さん。これで涼宮さんは自分の能力を知ってしまいましたよ? 世界の崩壊をどう止める気です?」


長門 「……止める必要はない」


古泉 「……なぜ?」


長門 「涼宮ハルヒはもう、世界を改変する力は持っていない」


キョン 「そ、それは本当か⁉︎ 長門!」


古泉 「そ、そんな、バカな!」


そのとき、今まで黙っていた朝比奈さんが口を開いた。


みくる 「……もしかして長門さん」


長門 「……何?」


みくる 「ここは現在ではないんでしょうか?」


長門 「……そう、ここは現在ではない」


ハルヒ 「……どういうことなの、有希」


ハルヒは深刻そうな表情をしていた。おそらくそれはここがどこなのか、現在ではないのか、という話が原因ではない。彼女は本来、そういう不思議が大好きな人間である。だから、俺には分かっていた……。


キョン 「ハルヒ……」


ハルヒ 「何よ……」


ギュッ


みくる 「キョンくん⁉︎」


ハルヒ 「ってなんで急に抱きつくのよ!離しなさい!」


キョン 「……泣いてもいいんだぞ?」


ハルヒ 「えっ?」


キョン 「それに安心しろ。ここにいるみんなは誰一人としてお前を嫌ってなんてない!」


ハルヒ 「……」


キョン 「おそらくお前はこう感じてるはずだ。周りのみんなが自分が探していた不思議だったことに驚いて喜んでいる一方、それをはるかに凌駕して、『監視』という言葉に深い悲しみを抱いている」


ハルヒ 「……」


キョン 「確かに最初は力を持つお前の監視のために、長門も朝比奈さんも古泉も集まったかもしれん! でも、今は本当にみんなお前のことを大切な友達、仲間だと思ってる! もちろん俺もだ。俺はお前の期待する不思議とやらは持っていないが、お前の不安を取り除くくらいはできる。何故なら……」


キョン 「俺はお前の大切な仲間だからだ!」


ハルヒ 「キョン……」


みくる 「キョンくん……」


ハルヒ 「……それ言ってて恥ずかしくないの?」 ぐすん


キョン 「正直、ちょっと恥ずかしい。だがそんなの百も承知だ」


ハルヒ 「そう……」


ハルヒ 「……ありがとう、キョン」


キョン 「……当たり前のことをしただけだよ」


古泉 「流石夫婦。仲が良いですね」


ハルヒ 「ちょ、古泉くん⁉︎ な、何言ってるのよ⁉︎」


古泉 「……冗談じゃありませんよ? 本当のことです。ようやく思い出したんですよ。長門さん、合ってますよね?」


長門 「……そう、合っている。少し話す、ここについて」


朝比奈さんもまるで何かに気づいたように口を開いた。


みくる 「……ここは未来ですか?」


キョン 「えっ」


長門 「……合っている。ここは未来。そして、場所は地球」


キョン 「そんなことは分かるさ、ただここは何国だ?教えてくれ」


長門 「……日本」


キョン 「日本⁉︎ 日本にこんな大きい砂漠なんてないぞ!!」


長門 「……理由は簡単。ここは100000000年後の地球だから」


キョン 「なっ⁉︎」


長門 「SOS団どころか、人類もとっくに滅んでいる。そして地球は地表のほとんどが砂漠化した……」


キョン 「じゃあ朝比奈さんの言うようにここは未来の世界? じゃあ俺らは時空を超えちまったってことか?」


みくる 「……未来の世界、と言っても私の未来よりも、もっともっと後の未来。だから未来にも、もちろん連絡なんてできないし、時間軸も異常を示していたんですね……」


長門 「……また、時空を超えたという表現は間違ってる。私たちは一度もタイムスリップなどしていない」


古泉 「……ええ、それはなんとなくですが分かります。要するに僕らはもうとっくに死んでいた存在だということですね?」


キョン 「ど、どういうことだ!長門!」


ハルヒ 「……」


長門 「……あなたは確かここで目覚めたのは意味があると言った」


キョン 「……聞いてたのか」


長門 「……意味はある。あなたの足元、砂の中に埋もれている物体、それを取り出せば分かる」


足元を見ると、確かに一つの物体が砂の中に埋もれていた。掘り返してみると


キョン 「……団長」


団長と書かれた、三角錐が出てきた。かなり年季を感じるものだが、驚いたのはそこではない。そこに見覚えのない字が書かれていた。


『SOS団解散。でも永遠に不滅よ! またいつかみんなで会いましょう!』


キョン 「……」


古泉 「思い出しましたか」


キョン 「……ハルヒ、これを見てみろ」


ハルヒ 「えっ?」


ハルヒもそれを見て、同時に無意識だろうが涙を流していた。おそらく俺も涙を流している。


キョン 「そっか、全て思い出したよ」


ハルヒ 「……み、みんな!」


ハルヒはその場に崩れ、大泣きし始めた。俺も、この懐かしさの真意を知り、思わず泣きそうになった。そして長門が喋る。


長門 「涼宮ハルヒ、高校卒業後、能力を無くし普通の大学時期を過ごす。自分の学力より低いところへ進学したが、それは彼と同じところへ行くため」


ハルヒ 「……」


長門 「その後、無事彼と結婚を果たし、娘も生まれ、幸せな日々を過ごす。また、あなたに関しては涼宮ハルヒと大体同じ経歴」


俺の方を見て長門はそう言った。


長門 「……朝比奈みくる、高校卒業後、涼宮ハルヒが能力を無くしたのを確認した後、未来に帰る」


みくる 「……」


長門 「……その後無事に未来でも過ごすが、未来人とて永遠の命なんてない。もう今の時点では生きていなかった、はずだった」


ハルヒ 「……なんとなく、私にも分かってきたわ。私のせいなのね、何もかも」


古泉 「……そんなことありませんよ」


長門 「……古泉一樹、高校卒業後、涼宮ハルヒが能力を無くしたのを確認した後、機関へと戻る。しかし機関は一つの大きな目的を無くしたのを原因とし、内戦を始め自然消滅。その後、彼らの前に現れ、改めて二人の親友となる」


古泉 「……そんなこともありましたね」


キョン 「……要するにもう俺らは寿命を全うして死んだってことだろ?長門」


長門 「……合ってる」


少し長門が顔をしかめたように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。


古泉 「……ですが僕たちはこの世に蘇った。100000000年後の未来に、ですがね」


長門 「涼宮ハルヒは高校卒業を機に、能力を無くした。しかし、その後突然、朝比奈みくるや古泉一樹、そして私がいなくなったことにより深い悲しみを背負い、耐えきれず、瞬間的に能力が再発」


ハルヒ 「……なんとなく覚えてるわ。みんな理由も言わないで急にいなくなるもんだから、私、大泣きした」


キョン 「……あのときは、ひどかったよな」


ハルヒ 「……うるさいわね」


キョン 「……まあ、俺も同じくらい悲しかったがな。あと、すまなかった」


ハルヒ 「……何がよ」


キョン 「俺はみんながいなくなった理由を知っていたんだ。だが、ハルヒの能力が再発する場合を考えて、教えなかった」


ハルヒ 「……別にいいわよ、事情はもう十分、分かったから」


キョン 「……ありがとな、ハルヒ」


ハルヒ 「……団長として当然よ」


長門 「そしてその再発により彼女は一つだけ能力を使った。しかもそれはすぐに発動するものではなかった」


ハルヒ 「……それが今回の原因ってことね?」


長門 「……そう。涼宮ハルヒは五人揃っていたあのSOS団の日々を忘れることができなかった。いっそ五人だけの世界を作ってもいいと思っていた」


キョン 「でもあの頃のハルヒはもう十分、大人だ!そんなこと考えない。人様を巻き込んだりなんかしない」


古泉 「その結果が、100000000年後に蘇ることですか」


長門 「……そう。五人だけの世界、涼宮ハルヒは心からそれを欲しがった。しかし、だからと言って他の命を奪うなんてことはしたくなかった。だから誰もがいなくなるまで待つ、時限式の能力にした」


長門 「つまりは、涼宮ハルヒ。あなたは望みを100000000年ごしに叶えたことになる。今はこの五人以外この世界に誰もいない。どうする? 食糧や水は私がすぐに用意できる。このままここで五人で暮らすことも可能」


ハルヒ 「……いや、やめにしましょう。こんな茶番劇は」


キョン 「は、ハルヒ……」


ハルヒ 「私たちはもう死んだ人間。だったらここに居座るのもおかしな話だわ!それに……またみんなと、SOS団のみんなと、出会えた。それだけでもう十分よ」


長門 「……良かった。あなたがそう言ってくれて」


みくる 「……」


古泉 「……」


ハルヒ 「それに私たち以外誰もいない世界なんてつまらないったらありゃしないわ! みんながいるから、それはそれは素敵な世界だけど、それ以上に寂しすぎるわ」


みくる 「……涼宮さん。私が言うのもなんですけど、本当に成長しましたね。私、未来でずっと会いたかったんです。いつも心残りだった」


古泉 「僕も、みなさんとの日々が本当に好きでした。あんなに超能力者として命を賭ける日々を嫌っていたのに、せっかく鎖が切れた後でも、わざわざ二人に会いに行くほど、僕はみなさんに依存してたんでしょう。ありがとうございます、みなさん」


長門 「……私からもお礼はする、ありがとう」


ハルヒ 「みんな。私、みんなのことが大好きだったよ? 本当に、SOS団を作って良かった」


キョン 「……俺も、面倒ごとは嫌だったが、SOS団、嫌いじゃなかったぜ」


長門 「……」


ハルヒ 「ねぇ、有希?」


長門 「……何?」


ハルヒ 「一つだけお願いしていい?」


長門 「……いい」


ハルヒ 「もう一回だけあの部室を再現して欲しいの、もう一回だけあの日常を」


俺は一回瞬きをした。そして目を開くと、そこはいつも通りの部室だった。


ハルヒ 「よし! SOS団! 最後の活動よ!」


・ ・


窓から風が入る。


ペラッ ペラッ


長門が本をめくる。そして……


古泉 「チェスなんてどうですかね?」


キョン 「受けて立とう!」


毎日の日課に感じていた、古泉とのゲーム対決。だが、これすらも遠い記憶の中にしかなかったのだと思うと、懐かしくて泣きそうになる。


みくる 「みなさん、お茶が入りましたよ〜!」


ハルヒ 「みくるちゃん! 私にも一つちょうだい!!」


朝比奈さんは相変わらず忙しそうだ。俺も俺でチェスに忙しい。


キョン 「おい、古泉」


古泉 「なんでしょうか?」


キョン 「ハルヒはな、俺と結婚した後、毎日ポニーテールにしてくれたんだ」


ハルヒ 「ちょっと⁉︎ キョン!!」


キョン 「……すごく可愛かったぞ?」


古泉 「……羨ましい限りです」


風がさらに入ってきて、長門が口を開いた。


長門 「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースは死なない。だから今日をずっと待っていた」


キョン 「……長門」


長門 「みんなが死んだ後も、ずっと宇宙から見ていた。そしてそれはこれからも……。だから私はみんなと一緒には死ねない。頼んだが、許可は下りなかった」


ハルヒ 「……有希。罪悪感とか悲しみとかは感じなくていいのよ?」


長門 「……」


ハルヒ 「私はただ、このSOS団の最高な思い出を、これ以上いじる必要はないと思っただけ。価値はもう十分、思い出にあるのよ!だから私が死んでも、SOS団は不滅よ!!むしろ、このまま無意味に生きてる方がSOS団を汚してしまうかもしれないわね!」


長門 「……」


長門 「……ありがとう、涼宮ハルヒ。私はあなたに会えてよかった」


ハルヒ 「私もよ!じゃあ、みんな!そろそろさよならしましょう!大丈夫よ!生まれ変わったってまたみんなで会えるわ!!」


みくる 「……私もそう思います!」


古泉 「ええ。僕も心からそれを願うばかりです」


キョン 「じゃあ長門。頼む、やってくれ」


長門 「……許可したってこと?」


キョン 「ああ。ありがとな、みんな。俺は意外に好きだったぞ、SOS団!」


みくる 「私もです!」


古泉 「……僕も」


ハルヒ 「もちろんよ!なんて言ったって私が団長なんだからね!」


長門 「……好きだった。大好きだった、SOS団、私も」


微かに長門の目に涙が溜まっていたような気がしたのはきっと気のせいだろう。


ハルヒ 「じゃあみんな、またね!SOS団は今日をもって解散するわ!!」


窓から最後の風が入ってきた……








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