使い魔として召喚されたみたいだけど、いや、おかしいだろ。だって普通の高校生ですよ
スライム緑タロウ
第1話 召喚獣? つ、使い魔だと?
「盟約に従い汝、我の手足となりて働き賜う。しからば……」
ちょい、
ちょい、ちょい、ちょい、
ちょい待て!
ここは何処だ? なんで俺はこんな薄暗くホコリ臭い場所で魔法陣らしき模様の上に立ってるんだ?
そして、こいつは誰?
見渡すと、10畳程の部屋のあちこちに蝋燭とお香が炊かれている。そして、足元に描かれた魔法陣らしき模様は緑色に発光していた。
「我、汝の糧として魔力を捧げん」
あー。そうか、こりゃ夢か。
あれ? だとするとどこからが夢だったんだ? 唐突に場面転換する直前は……確か、6限目のバレーボールの最中だったと思う。
そう、俺はつい先程まで無駄に広い体育館で怠さMAX男だらけのバレーボールに打ち込んでいた所だった。
始めは「だりぃー」と言っていた友人達も次第に熱が入りだし、盛り上がりを見せていたところ。
それが突然こんな状況に立たされているんだから夢に間違いない。
そうか。これは夢なんだ。
そう思うと一気に冷静になる。
てことは、弁当食った後の5限目の途中から寝落ちしてるか、そもそも登校すらしてなくて未だベッドの中の可能性もあるな。
「……今、ここに誓として真名を明かせ」
あー。じゃあ、数学の小テストの結果も夢かよ。珍しくいい点取れてたのに。
くそ。
「………」
お、目が合った。ん? よく見ると女の子かな? 小柄だし、ローブの胸元は二つ確かな膨らみが見て取れる。
この服だと大きさがイマイチ分からんが。
フードを被った如何にも魔術師です! ってな感じの娘がじっとこちらを見ている。
「えっと……どちら様ですか?」
「へっ!?………」
あ、今、あからさまに動揺した。んでもってめっちゃ怪訝に俺を観察してる。
「あのー」
「………」
あー。うん。無視されると困るんだよな。それにそのジト目もやめて欲しい。
と言っても夢の中の人間に不満を言っても仕方がない。そもそも俺の夢なら悪いのは俺自身なわけだし……まぁ、いいや。
「……あ、名前聞かれてた気がしたな。うん。人に訪ねる前に自分から言わなきゃだよね」
「……」
魔法少女はさらに警戒心を高めたように、訝しげに睨んでくる。
やべっ、これじゃあ受け取りようによっては説教たれてるみたいでいけないな。
一つ咳払いをして
「俺の、いや、我の名は
郷に入っては郷に従えだ。どうせ夢だし、楽しんでやろう。
「あ、あやせ かなめ? 何よそれ。それが名前なの?」
目の前の少女は不意をつかれたようにキョトンとし、目を泳がせた。明らかに困惑している。
一拍置いて、何かを思い出したかのように身探りした後、おもむろに袖口から取り出したアンチョコらしき紙を読んでは魔法陣を確認したり、蝋燭の本数を数えたりしている。
額には珠汗をかいてるし、なんだかこっちが悪いことしたみたいだ。
めっちゃ所在無いんだが?
「えっと、もう、君の名前はいいから、ここは何処なの?」
改めて話しかけるも、それどころじゃないって感じだ。
「おかしいわ。何も間違っていないはずなのに」
無視された。だが、俺はめげないぞ。
「ってか、これ、魔法陣だよね? なんで俺はこんな所にいるの? 何が目的なのかな?」
そう。それこそがこの状況で確認すべきポイントなのだ。
「あー! もう! その話し方、まるで普通の人間じゃないっ! あ、そうか、私を騙そうとしてるのね! ふんっ! そんなんで騙されるもんですか」
ずびしっ! と音が聞こえてきそうなポーズで指を刺してくる。まるで鬼の首を取ったよう。
と、その拍子に被ってたフードが脱げる。
「あ……思ってたより可愛い」
「!!!」
思わず口走ってしまったが、それ程に可愛らしい顔だった。各パーツの配置が整っていて、目はつり目がち……というか猫目だが、それでいてキツすぎず、鼻筋もすっと通っているし、何より色白で肌が綺麗だ。
俺は犬より猫派だしな。
めっちゃ取り乱してるけど、それも可愛いな。
「ちょっと、いきなり何言ってんのよ! そりゃぁ可愛いとか男の人に言われたら嬉しいけど、でも、貴方のその姿、仮初なんでしょ! いい加減、観念して正体を現しなさい!」
きっと悪魔系の精霊だわ。とかなんとか呟いている。
訂正。いくら可愛くても訳のわからんことばかりで少し引くわ。
このままじゃ埒が明かない。
取り敢えずイニシアチブを取ろう。これ程までに夢と自覚している夢は今まで見たことがないんだ。
年下ではあるが、夢なんだ。この娘と仲良くなってあんなことやこんなことに発展したって何も悪くないと思います。
「ちょっと、なに鼻の下伸ばしてんのよ」
お、これはいかんいかん。誠に遺憾だ。
笑みを堪えようとすると鼻の下が伸びるのか。今後やらないように心の肝心書にメモメモ。
まぁ、でもいい感じの流れじゃないか?
「こ、こほん。いつまでもこんなせまっ苦しい所にいるのもなんだ。カフェでも行きませんか?」
キリッとして、手を差し伸べて近づく。
「ぎゃああああ! な、なっ!」
おいおい、そんなに怯えなくても。
自慢になるものでもないが、俺は無理やりとか、そういうのはしないぞ。
そっち系のジャンルの動画も演技だと分かっていても目を逸らしたくなる。はっきり言って苦手だ。
だから、あくまでも紳士に。
怖がらないように微笑んで、相手の目線に合わせて若干屈む。差し伸べた手も引っ込めてすこーしだけ近づく。
「ぎ、ぎゃーーー! やっぱり何か間違えてたんだわ。あー、どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしたら……」
「そんなに全力で拒否らなくても……」
尋常ではない怯え方だ。
ガタガタしとる。
なんかやらかした? ねぇ、俺何かやらかした?
そんな思いが聞こえた訳では無いのに俺の疑問に答えるかのごとく。
「うそよ。未契約なのに……召喚獣、いえ、使い魔が魔法陣から出られるなんて」
「は? 召喚獣がなんだって?」
足元を確認すると、確かに一歩足が出ていた。
いつの間にか緑色の発光は消えていて───。
そして、次の瞬間。
バチコーン!!!
俺は思い切り顔面レシーブを決めていた。
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