第16話「猫耳生やしてて封印されるくらいヤバイ奴っつーと、俺が知ってるの四天王なんだけど」
スケットンとナナシがぎょっとして声の方を見れば、封印石から手のようなものが生えて、バタバタ動いているのが見えた。
しかし何があるのか分からない。
なのでスケットンはぐるっと位置を変えて見てみた。
すると、封印石の砕けた場所から、頭に獣の耳を生やした少女がべえべえ泣いているのが見えた。
「何あの封印石から生えてる猫耳娘。ガチ泣きしてっけど」
「うーん。ここで封印されているとなると、魔王側の人ですかね? 私、戦場跡をまともに突っ切った事がなかったので、初めて見ました」
「猫耳生やしてて封印されるくらいヤバイ奴っつーと、俺が知ってるの四天王なんだけど」
スケットンは腕を組んで言った。彼の言う通り、封印されるのは基本的に
その最たる例は魔王配下の四天王なのだが、二人の目の前で泣き叫んでいるあの少女が
なのでスケットンとナナシは顔を見合わせ、どちらともなく笑う。
「まさかぁ」
「だよなぁ」
ありえませんな、という類の意味を込めて二人は頷く。
その間も猫耳娘は泣き叫んでいた。
「にゃあああああ! 中途半端に封印解けたから魔法も使えないいいいいいい!」
どうやら彼女もナナシと同じ魔法使いのようだ。
猫耳娘の叫びを聞いたスケットンはナナシを見て、
「おい、魔法使いっぽいぞ。話合わせて来いよ」
と言った。ナナシはゆっくりと首を横に振ると、真面目な顔で答える。
「自慢ではないですが私は友達と会話をした事がありません」
確かに自慢でも何でもなかった。ただ悲しい事実を知っただけである。
スケットンは肩をすくめた。
「役に立たねぇ
「投げて打ち返していたら全く続かないような。というかスケットンさん、今ぼっちって言いませんでした?」
「案ずるな、心の迷いだ」
「何の迷いだと」
スケットンの言葉にナナシが半眼になっていると、彼女のフードからブチスラが顔を出した。まるで「助けないの?」と言うかのように身体を揺らしている。
ナナシはブチスラに向かって頷くと、
「ブチスラが助けないのって言ってますよ」
と言った。ナナシは恐らくほぼ完ぺきにブチスラと意思疎通をしている。変な特技が出来たもんだと思いつつ、スケットンは首を横に振った。
「いやどう見ても面倒な案件だろ、アレ。大体俺は封印石の解除の仕方知らねーし。お前はどうよ?」
「私も知りませんけど、割れば良いのでは?」
「封印石ってそんな力技なの?」
確かにアンデッドが齧ったせいで封印石が解けかけているようには見えるけれども。
魔法なのに物理で解けるのかとスケットンが思っていると、猫耳娘がようやく彼らの存在に気が付いた。
「ちょっと! ちょっとそこの……何!? 何かあの、骨! 骨と女の子! 助けてええええええ!」
猫耳娘はスケットン達に手を伸ばしながら助けを求めた。
スケットンはばたばたと手を振る猫耳娘を指差してナナシに言う。
「あいつ俺を見て
「私は女の子扱いですよ、助けて来ます」
「嬉しかったのか」
「嬉しかったです」
ナナシはにこにこ笑って、意気揚々と魔法を唱えようとする。
すると猫耳娘は何を思ったか近くのアンデッドに向かって、
「ねぇアンデッド! そこのあんた達よ、ほら見なさいよ! あっちに美味しそうな肉がいるわ!」
と言った。酷い裏切りである。
思わずナナシの詠唱が止まった。
「お前肉扱いだぞ」
「隣には美味しそうな骨がいるわ! しゃぶれるわよ!」
「スケットンさんは骨扱いですよ。スケルトンの骨って出汁取れるんですか?」
「物欲しそうな目で俺を見るな。ああくそ、何てことしやがるんだあの猫耳娘。アンデッド共がこっちに来るぞ」
スケットンが睨むと、猫耳娘は鼻を鳴らして笑う。
「にゃーっはっはっは! 人間め! あたしの代わりにアンデッドの相手しっかりしなさいよ! その隙にあたしは封印を解き……にゃああああ! よじ登って来ないでえええええ!」
だが猫耳娘はあまりの大声でそう言うものだから、せっかくスケットン達の方を向いていたアンデッドの半数が、再び彼女の方へと向き直る。
それを見てスケットンはしみじみと言った。
「黙ってりゃいいのに、あいつ馬鹿だなぁ」
「ですね。とりあえずまだ死にそうにないので、目の前のアンデッド何とかしましょう」
先ほどまで猫耳娘を助けようと意気揚々としていたナナシの目は死んでいた。
その変化に、スケットンは思わず聞いた。
「腹立ったのか」
「多少」
こくり、としっかりナナシは頷く。
そして魔法の詠唱を開始した。スケットンも向かって来る敵は倒さねばと【竜殺し】を振るい始める。
狙うのは自分達の目の前のアンデッドだけだが、ナナシは何だかんだ言っても気にはなるようで、猫耳娘に近づくアンデッドもまとめて倒している。
なので猫耳娘に対する被害はない。
「にゃあああああ! ごめんなさいいいいいい! たすけてえええええええ!」
だが猫耳娘はその事には気付いていないようだ。
周囲のアンデッドが一層されるまで、彼女の声がオルビド平原に木霊し続けたのだった。
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