骨勇者スケットンの受難

石動なつめ

骨勇者スケットンの受難

プロローグ

 かみさま、どうか。


 どうか。


 もしももう一度、俺が俺として生きる事が出来たら。


 その時は、今度は一度くらい、誰かのために生きてみようと思います。







 スケットンの父親は優秀な文官だった。仕事の事でもプライベートの事でも、相談されれば親身になって、身分を問わずに力になろうとした人だ。

 スケットンの母親は立派な騎士だった。困っている人がいれば、迷いもせずに手を差し伸べ、助けようとする人だ。

 子供心にもスケットンには自慢の両親だった。スケットンも将来は両親のような人になりたいと思っていた。


 けれどスケットンの両親は、彼がアカデミーに入学した直後に死んだ。

 両親の才覚と人気を妬んだ上司と友人に裏切られて殺されたのだ。

 彼らは素知らぬ顔で両親の死を悼んだ。涙を流すフリをして陰で笑った。


 やがて両親の存在が過去形になり、人々の中から忘れ去られた頃。

 両親のようになるのだと励んでいたスケットンは両親の死の真相を知る。

 復讐をする気にもならなかった。信じていたものがサラサラと崩れ、気力も湧かなかったからだ。


 そしてスケットンは両親のように生きる事を止めた。


 進んで人助けはしない。それが他人の当たり前になって、要求されたら鬱陶しいからだ。

 友人を作るのも止めた。信用すると裏切られて、ショックを受けるのは御免だからだ。

 他人からも魔物からも殺されないように腕を磨いていたら、いつか『歴代最強の勇者』と呼ばれるようになった。

 強さなんて何てことはない。他者に執着する事をやめたら、相手に加減する必要もなくなったからだ。


 勇者と呼ばれるようになってからは、手のひらを返したように皆がちやほやしてくれて、悪い気はしなかった。

 自分を利用する気が見え見えの連中のおべっかを、スケットンは鼻で笑って受け入れた。

 適当に餌を与えて、必要以上に深入りしなければ、それなりに上手くやれた。


 寂しくはない。でも、何故かとても虚しかった。

 だからそれを埋めるようにスケットンは豪遊した。

 美女をはべらせギャンブルに興じ、酒とご馳走で毎晩宴会、そして金が尽きたら敵を倒しに行く。その繰り返しが彼の行動の全てだ。

 国のお偉い方は手を焼いたが、それでもスケットンの強さがあれば平和が保てると敢えて目を瞑った。

 そんなスケットンを見かねた自称友人は、


「スケットン、いい加減にしないと、誰かに刺されるぞ」


 と苦言をしたが、


「ヘーキヘーキ。俺ってば強いしー」


 と、スケットンはまるで取り合わない。やがて注意をしてくれる自称友人もいなくなった。

 だがスケットンは別に構わないと思っていた。必要なかったからだ。

 何故なら自分は強い。スケットンは自分でそう言いきれるほど強さに自信があった。

 そして他人を信じなければ裏切りを心配する必要もないし、信じていなければ手加減せずにぶっ飛ばせる。

 この強さがあれば何も問題ないのだと、そう信じて疑わなかった。


 だがある日、お手頃な洞窟を冒険中に、スケットンは美女に刺されてあっけなく死んだ。


「あんたが悪いのよ! あたしの事を捨てたから!」


 美女はそう叫んでいた。だがスケットンは美女に見覚えがない。単に覚えていなかっただけだ。

 どんなに強かろうが関係ない。その強さを振るう前に、ナイフで心臓をひとつき。

 助けてくれる仲間も、最低だと罵ってくれる仲間もスケットンにはいない。いるのは鬼の形相をした美女だけだ。

 スケットンは自分が口説いて、あげく名前も顔も忘れた美女に刺されて、22年というその短い生涯に幕を下ろした。


――――はずだった。

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