本篇9、夕暮れ

蘭の師、彫菊(菊岡和美)が登場する作品。

蘭の師匠である菊岡和美こと彫菊は、何十人もの弟子を抱えている大物刺青師です。50年以上ドイツで生活していますが、日本人の弟子はごくわずかでした。蘭にとっては、就職口が見つからないで困っていた時、救いの手を出してくれた恩人とも言えます。

ちなみに青柳に施術したのも彼でした。青柳が、アマゾンの原住民のもとを訪れたとき、神を大事にしない日本人は信用できないと馬鹿にされてしまったのです。その対策として、青柳は、背に龍の刺青を彫ってもらいました。これにより、第二回目の訪問では、原住民たちに歓迎してもらい、無事に使命も果たすことができました。

刺青といいますと、日本ではどうしても暴力団とかそういう人ばかり連想してしまいます。でも、日本の伝統刺青はヨーロッパで高く評価されており、かなり高度な芸術品とみなされているようです。蘭も、この本文の中で言及していますが、リストカットなどの跡は、非常に見苦しいといわれてしまうものです。それなら、かわいらしい花でも刺青して、それを消せないだろうか?と思うのです。そういう風に考えれば、悪いものではないのかもしれません。

それに、日本国内すべてで刺青は悪いものではなく、沖縄では、大人の女性の印として、ハジチという手に刺青をする習慣があり、アイヌでは唇に刺青をする習慣がありました。そういう文化もあったのですから、悪いことだと決めつけないほうが良いのです。

海外には、刺青をして大人になった証拠としている少数民族はたくさんいます。例えば、中国のトゥルン族は、現在でも顔に蝶の刺青をしています。彼らにとって蝶は愛とか幸福を運んでくる大事な動物なのだそうで、これを身に着けていることが、一番の幸せなのだそうです。日本の花食い鳥と似ていますね。それをお守り代わりに体に描くという発想になっても、そう考えてみれば悪事ではありませんね。

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