黒薔薇との接吻

Mirei

第1話

一番あなたにとって辛い.暗い.先の見えない不安で孤独で。そんなあなたを包む深い深い闇に私は気づくことができなかった。いや、気づいていながら笑顔でないあなたを見るのが怖くて逃げていただけかもしれない。なんとなく聞いてはいけないものだと思っていたかもしれない。どちらにしても私は、平穏に見えたこの日常を掻き乱したくなくて、またそれを恐れ.避けていたのだろう。触れてはいけない"タブー"に触れた瞬間、あなたは今までに見たこともないような深く哀しい.そして儚い、今にも消えそうな表情で濁った.塩気の強い慈悲のしずくを産み落とした。そんなあなたの表情は、まるで広いこの世界にたった独り取り残されたかのような、この上なく怯えた少女のものだった。

あぁ、私はなんて最低なんだ。人として、あなたの恋人として。もう終わってしまった。最愛のあなたを深い闇の世界へ閉じ込めてしまった。私はあなたのために何もしてあげることができなかった。ましてやあなたを追い詰めてしまった。一番傷つけたくない私にとって「大切」という言葉では表しきれないような"あなた"という守るべき存在を無意識に、いや深く考えもせず簡単に傷つけてしまった。私の心は、後悔と自責の念で満ち満ちた。ただ、その場に居て座り込む以外、すべきことも何もかも判断できなくなっていた。

我に帰った時、私の手の中にあなたのあたたかいか細い手が握られていた。その手は小刻みに弱く震え、恐怖に怯えていた。異常な程にあたたかいその手からはあなたの痛く苦しい感情、そして16年というまだ歩み始めたばかりの人生にはあまりにも重く壮大な、垢のように蓄積されこびりついた心の毒を感じた。その手から全てを感じ悟ったとき、私は泣いてしまった。静かに泣いた。

あなたはいつも独りだったのだ。心の中ではいつもいつでも独りだったのだ。あなたは優しくて大人だから、気遣って誰にもそれを吐き出さなかった。私はただひたすらに、華奢でか弱い震えたあなたの身体を強く強く抱き締めた。しばらくそうしていた後、あなたは全てを話してくれた。考えたくもない辛く残酷な心の内を全て私にさらけ出してくれた。全てを吐き出したあなたの顔は、いつもの冷静な表情へと戻ったが、邪悪な心の毒が薄められたような透明感のある、とても美しいものだった。私は見とれてしまった。そしてそのまま私は彼女の舌と自分の舌とを絡め、二人が互いに溶け込むような感覚を感じたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黒薔薇との接吻 Mirei @mi-re-i

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ