回想の消滅

あなたはもう、いなかった。あなたが生まれてから何十回と年を重ねたある日、僕は仕事終わりにあなたへのプレゼントを買うために帰りが遅くなった。あなたは待っていた。僕を待っていたけど、いなくなった。月の無い夜だった。

電話がかかってきた。あなたは僕の前から姿を消して、道路の脇で血を流して転がっていた。そばには自転車が歪んでいた。僕には何が起きたのかわからなかった。泣きながら謝罪されても、どれだけ金を積まれても還るものじゃない。僕は生まれて初めて、あなたのことを本気で怒鳴った。そして泣きすがった。どんなに求めても、あなたは還らなかった。

あなたは死んだのではなかった。ただ眠っているだけだった。消えて無くなってしまったわけではない。いなくなっただけだった。でも、戻らない。その事実だけが僕の胸の奥を掴んで離してくれなかった。きっと僕の帰りを待ちきれなくなって、一人でケーキを買いに行ったのだろう。と聞いても、あなたは答えてくれない。ただ、僕の声が病室の壁に跳ね返って寂しい余韻だけが、幸福という感情と共に僕のもとから去っていった。だけど、わずかだが僕は期待していた。突然「ワッ!!」と声を張り上げて、僕をびっくりさせることを、そのあとあなたを抱きしめることを、期待しなければ平静を保てなかった。

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