拝啓、***へ

蒼野もか

中学二年生編

出会い

プロローグ


 ボサボサの黒髪ポニーテールに、青白い肌。明らかに不健康なガリガリの手足。それなのにそこそこ胸の膨らみが一瞬でわかるくらいにはあって。そしてボロ布のように汚れて今にも擦り切れそうな服を着ている。

 そんな少女が、人気のない暗い道をとぼとぼと歩いている。


 その少女、水澤玲は今、汚れた服と、50円しか持っていなかった。

 玲の父親は中学に上がる前に家を出て行き、これまでたった一人で育てて来た母親は一ヶ月前に交通事故で居なくなった。二人が駆け落ちしてできた子供だったから、親戚は誰も引き取るわけもなく、孤児院に引き取られることになった。


 いくら境遇が近いと言ったって、ついこの間まで家族と仲良く過ごしていた子と何の拗れもなく仲良くはできないのが普通の反応で。

 そのせいかその孤児院も馴染めなかった。


 もう誰も彼女に好意を向けてくれる人なんかいなくって、もう生きていることで得られる幸せより、死ぬことで悪意も何も感じられなくなった方が結果的に幸せになれるんじゃないかと考えてしまった。だから、孤児院を抜け出した。


 もうどこにも力が入らなくて、身体は重力に従って地面に打ちつけられた。

 意識が完全に無くなりかける前に、誰かが私に声をかけているのを感じて。まだ心配してくれる人なんているんだな、と思って、少し幸せになった。


 そして意識はブラックアウトする。


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