あーちゃんといーくん

鳥見風夫

そして誰も、いなくなった

 ある時、ある真っ暗な狭い空間の中に、あーちゃんという少女がいました。彼女は独りぼっちでした。しかし、彼女には話し相手がいました。その話し相手は、いーくんと名乗りました。

 ある時、いーくんはあーちゃんに話しました。


 「ねぇ、あーちゃん。ここの外には、出てはいけないよ」

 「どうして私は外に出ちゃいけないの?」

 「この外は、真っ暗で、危険がいっぱいなんだ」

 「へぇ、分かったよ、いーくん」


 あーちゃんはいーくんの言うことを守って、ずっと、その狭い空間にいました。だけど、彼女は寂しくはありませんでした。いーくんが話し相手になってくれたからでした。


 「ねぇ、どうして外は危険がいっぱいなの?」

 「この外には、あーちゃんが知らないものがあるからさ」

 「へぇ、そうなんだ」


 ずっとずっと、あーちゃんはいーくんと話し続けましたが、ある時、いーくんが言いました。


 「あーちゃん、ちょっと外に出てくるよ」

 「でも、外は危険がいっぱいだって」

 「大丈夫、僕は大丈夫だから」


 いーくんは小さな子をあやすように語り掛けました。


 「何をしに行くの?」

 「油が切れちゃったんだ。だから持ってくる」

 「そうなんだ」


 いーくんは外に出ていきました。あーちゃんは本当に、独りぼっちになってしまいました。


 「外って、どうなっているのかな?」


 あーちゃんは、外に興味を持ってしまいました。

 そして、目の前にはいーくんが出ていった扉があります。


 「出て、みたいな」


 それは、あーちゃんが持った、初めての意思です。あーちゃんは、扉に手をかけました。

 外は、あーちゃんが思い描いた景色と、まったく違いました。

 外はとっても明るかったのです。

 あーちゃんは、外に足を踏み出しました。




 いーくんが戻ると、扉は空きっぱなしになっていました。


 「あーちゃん!」


 そこに、あーちゃんはいませんでした。

 周りには、なにもありません。

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