第32話 幽霊少女の追憶5 中編
旅番組や情報番組でたまに見かける。
なんか、あれだ、うん。イイ感じの温泉宿。旅館? そういうの。
今、優人と楓ちゃんと、そこにいる!
「一回こういうとこ泊まってみたかったんだよね~!」
テンション上がるじゃんかっ。
優人も楓ちゃんも一緒だしね~。
そんなわけで部屋まで移動。どうやら楓ちゃんは一部屋しか予約していないらしい。
「あのさぁ。まずくないか? 男女だよ? 男女で一部屋だよ?」
なんか優人がぐだぐだ言ってる。
べっつにいいじゃん。一部屋で。
どーせヘタレの優人じゃなんもできないっしょー。
「優人さんは凪音ちゃんがいる前で私にアレなことやソレなことをする人っすか? 鬼畜ですか?」
「するかっ!」
「そんな度胸が優人にあるわけないよねー」
ムリムリ。
優人って油断すると偶におじーちゃんみたいだし。
いくら幽霊とは言っても、可愛い女子高生とずっと一緒にいるのに。もうちょっとこう……なんかないの! とか。たまーに、すこ~しだけ思わなくもないし。
「折角友達と旅行来たんですし。夜に恋バナとかトランプとかしたいっす!」
「お前どんだけ拗らせてたんだ? 学生の頃そんなに友達いなかったの?」
そんなに楓ちゃんって友達いなかったの……?
意外。
いや、色々あって今のちょっと変な楓ちゃんになったのかな?
なら、納得?
「楓ちゃんって、変わってるとは思ってたけど。色々あったんだねぇ」
思わず、楓ちゃんの頭をスカスカと撫でる。
ま、何も感じないだろうけど。
「佐倉も小山の事を励ましてるぞ」
「う~。具体的には?」
「頭撫でてる」
「楓ちゃん結婚して欲しいっす!」
結婚っ。 楓ちゃんとかー。うーん、楓ちゃんは好きだけどー。
「あははっ。いーやっ」
うん、だめー。
結婚ね。だめだね。うん。
「楓ちゃんのことは好きだけどー。お友達でって感じかな」
「ほらっ小山。佐倉が友達にはなりたいってよ」
「あぁ……凪音ちゃんまじ天使」
天使って……。この前の優人の女神といい、流行ってんのそういうの?
ま、悪い気はしないけどねっ。
「くふふっ! 楓ちゃんと優人は、やっぱ気が合うんじゃない?」
「……こういう合い方しても嬉しかねーよ」
もう付き合っちゃいなよ~!
……マジで。
ていうか、はよ付き合え。
そうじゃないと私の肩の荷がおりねーでしょーが。
私の細い肩に、あんまり荷物乗せとかないでよね。
「まーわかったよ。部屋は一部屋でもういいとして。この後どうするんだ?」
「チェックインは済ませましたしー。下の温泉街に降りて遊んできませんか? 私、ああいった所で遊んだことないんっすよ」
温泉街!
なんか、響きは知ってる。あれだ、温泉まんじゅうとか温泉たまごだ。
食べてみたいっ。
「私も行ってみたーい。温泉まんじゅうとか売ってるんでしょ?」
「佐倉も行ってみたいってさ。んじゃ、取りあえず行ってみようか」
「はいっす!」
「やったー!」
優人はもっとテンション上げ……いや、優人はこれくらいでいいか。
テンション高い優人とか不気味だし。
私が上げとくから、苦笑いしてついて来ればいいよ。優人は!
きっと、楓ちゃんも。その役割を果たしてくれるよ?
私がいなくてもね。
温泉街を、優人と楓ちゃんと歩く。いや、私は浮いてるけど。
「おー! これが温泉街っ。なんか、古臭い! ノスタルジックっていうのかな? 逆に写真映えしそうな感じだわー」
なんつーか、新鮮? 私の住んでる街と空気が違う。
こういう感じは、結構好きかもー。
「古臭いって……お前。まぁ実際古いんだろうけどな」
「あははっ。凪音ちゃん古臭いって言ってるんっすか?」
うふっ。こうやって、私の言葉を優人が楓ちゃんに伝える。
「ノスタルジックだってよ」
「あー、そうかも知れないっすね」
楽しそうに、楓ちゃんが笑う。
この会話の方法は、やっぱなんか面白い。
そんで。
こうしてれば、自然と優人と楓ちゃんの会話も増える。
ふっふ。どんどん仲良くなるがいい。
どんどん、どんどん会話させてやるぞっ。優人!
「だっーもうっ。うるっせーぞ! 両側からステレオで喋んなっ。俺は通訳もするからそんな一気には答えられないっつーの! ていうか変な物ばっか見つけ出すなっ」
いけね。
ちょーしに乗り過ぎた。
だって、私も楽しいんだもんっ。
でも、その後で食べた温泉まんじゅうは。普通におまんじゅうだった。
口の中もそもそ……。
部屋に戻って、お茶と一緒に食べたら。ちょっと美味しかった。
温泉街から部屋に戻ってきて、優人が温泉街の射的で取った景品の整理をしている。
いやほんとにガラクタみたいなのばっかだね。
「しっかし、優人さんって射的得意なんっすね」
「だって、優人すごい頻繁にゲーセン通って射的してたもん」
私と優人の、初めての出会いの場所。
そういえば、あれから優人はゲーセンに行かない。
きっと、私に気を使って行かないんだろうなぁ。
地縛ってた所は、確かに私も行きにくい。
「佐倉に会ったのもゲーセンの射的やってる最中だったからな」
「は~。二人の馴れ初めってわけっすね」
なれ、そめ?
「馴れ初めって、恋人とかに使うんじゃないの?」
「普通はそうだな。小山、馴れ初めっていうのは恋人同士とかに使うもんだぞ」
優人の言葉に、楓ちゃんがキョトンとした顔で答えた。
「え? 違うんっすか? お二人はお付き合いしてるんじゃ?」
「え?」
え? えぇ!?
み、見えちゃうっ? 私と優人恋人に見えちゃってるカナ!?
ちょ、困る!! こまる~! だって楓ちゃんには優人の彼女になってもらわなきゃだし。私はあくまで疑似であって。つーか、私達が付き合っていると思ってたのに温泉旅行誘うあたりやっぱ楓ちゃんどっか変で……。
「どっからそういう発想になるんだよ。なぁ、佐倉?」
「えっ!?」
えっと、あっと。うん。あれね。恋人じゃないよね! 疑似だよね!
「あ、あぁ。そうだよねっ。別に付き合ってないし。憑りついてはいるけどねっ」
でも疑似とはいえ彼女で。っていやだからそれ楓ちゃんに言ったらアカンでしょ。
「うぇ~? でも、だって。てっきり秘密を話すって……憑りつかれてて、付き合ってるのかなって……」
「俺が女子高生と付き合える様な奴に見えるか? しかも佐倉みたいなタイプと」
勘のいい楓ちゃんには、私と優人はそうみえてるのかぁ……。いや見えないけどね私、幽霊だから。
っていうか私みたいなタイプって、どんなタイプよ。
「凪音ちゃんの事、私見えないですもん……」
「あー。えっと、ギャルっぽいっていうか。今時の可愛いタイプだよ。んで、知ってると思うけど性格もその、悪くないし」
――かわっ!?
か、かわ、かわいいっ。いまゆうとかわいいっていった!
私の事可愛いってっ。あの優人がっ。
私がバスタオル一枚になろうと水着になろうと浴衣着ようと偶にパンツ見せても可愛いって言わなかったのに!
……いや、パンツ見て可愛いとか言ったらぶっ飛ばすけど。いや、触れないけど。
つーか、まてまて。テンション上がってどうする。
可愛いとか言うべきは楓ちゃんに対してなのにっ。
楓ちゃんと優人を私はくっつけたい。おーけー?
思わず頭を抱えてしまう。
「夜に、部屋でっ、じっくり恋バナしたいんっすよ!」
「この話まだ引っ張る気かよ……。おぃ、佐倉お前もなんか……なんだ、大丈夫か佐倉? 具合悪いのか?」
このボケナス……人の気もしらんと……。
「あーいや、なんでもない。全然なんでもないんだけど。楓ちゃんに伝えて欲しいことがあるの」
「なんだ? 小山に何を伝えればいい?」
「目の前の男を一発引っ叩いておいてって」
楓ちゃん、やっちまって。
「目の前の……なんでだよ!」
とかやってたら。楓ちゃんが察して引っ叩いてくれた。
流石すぎる。
やっぱ楓ちゃん、好き。
その後、私と楓ちゃんで温泉に入ったり。食事を食べたりして。更に温泉に入るらしい。
家族風呂! ミニ温泉みたいで可愛いっ。
そして、水着の楓ちゃん。……でけぇ。なんで私より背が低いのにこんなに胸でっけぇのっ!?
でもまぁ、優人も照れてるし、これはいい感じにアピ~る~……んぁ~……。
「あ~! やっぱ温泉の感覚いいわぁ~」
ダメダ。温泉に入ると物事がかんがられにゃー。
「ちょっと狭いけど、ちゃんと露天なんっすね~!」
「そだな。露天だな」
「……優人さん照れてます?」
はっはっはー、てれろてれろー。もっと意識しろ~。
「こんな狭い所でこんな状況だったら普通照れるだろ……」
「ま、まー、そっすね。私もちょ~っとアレですけど。でも、凪音ちゃんだってこっちのほうがいいっすよね?」
う~ん、楓ちゃんのお陰で皆で温泉はいっちゃったりなんかして。
結構わけわかんない状況だけど。
「あ~ぃ。さいこ~」
最高。でしょー、こりゃ~。
「えへへ~。友達とこうやって遊びにくるのは目標ではあったんっすよねぇ。ちょっと特殊ですけど。優人さんと凪音ちゃんのお陰で叶いましたよっー」
うわ~。なんか楓ちゃんが健気なこといってるぅー。でも。
「私もたのし~」
うひ~。たのしーしきもちー。
「あー。まぁなんだ。俺も楽しいよ。うん。佐倉もたのしいーって言ってる」
これでツマラナイとかぬかしたらー、優人まじ呪いころすぅ~。
「実際二人は、いいコンビに見えるっすよ! 凪音ちゃん目に見えないですけど。これは捗りそうですね、この後の恋バナが!」
あ~。こい、ばな……。恋バナっ。
それは、女子の嗜み。
そして……戦い。
恋バナ!
私には、やらねばならぬことがあるもの。
温泉で脳を溶かしてばかりはいられないっ。
「ふむ。私も、その話は本気で乗らせてもらおうじゃない」
私の、願いの為に。
家族風呂から部屋に戻ったら布団が敷いてあったけど。
私達は、お酒を出して戦闘モードだ。
いや、恋バナモードだ。
楓ちゃんも優人もお酒が入って、私も少し影響を受ける。
でも、これで少しは本音で喋りやすくなる。かも?
「さぁて! 早速聞きたい。楓ちゃんは彼氏いる……わけないよね。好きな人とかいないの? いたことないの?」
先行、私!
まずは楓ちゃんに男の影がないかチェックッ。
「小山は好きな人がいるか、またはいたことがあるか?」
「いないっす! 昔はいたこともあったっす! もうほぼ忘れました!」
知ってた!
うん、まぁ一応確認ね。
「凪音ちゃんは、どうっすか? 彼氏とか絶対いたでしょ!」
「いない! 悲しいかないない! 好きな人はいた! でももう興味ない!」
ぶっちゃけもう顔も声も思い出せない!
優人の声なら多分、来世でもおぼえてそーだけどっ。
「彼氏なし、好きだった人はもう興味ないって」
「ほほぅ……それはそれは……。で。今は、どうなの? 凪音ちゃん」
今――。
「……私は、今の、私は――」
そんなの、わかりきっているけれど。
それは、答えられない。
その、前に。
「答える前に聞きたい。楓ちゃんは、優人の事どう思ってる?」
当然っちゃ当然だけど、優人は伝えたくなさそう。
でもだめ。許さない。
これは、聞かなくてはならないの。
「はぁ~……。あー、その。その質問答える前に、小山が俺の事をどう思っているか聞きたい、って」
楓ちゃんをじっと見つめる。
私の事を見えないはずの楓ちゃんと、目が合った様な気がした。
「私が、優人さんを……っすか。貴重な友達、とかを聞きたいわけじゃないよね? うん。好きっすよ。でも、異性としては好みのタイプじゃないっす」
好みじゃ、ない?
嘘。そんなの嘘。
楓ちゃんは、優人のこと気に入ってるはず。
だって根っから気が合う人か、芯から優しい人を求めて、一人でいたんでしょ?
「じゃぁ、どういう人がタイプ? 優人はどこがダメ?」
「好みのタイプと、俺がそこからどう外れているか言えとさ」
お酒を飲みながら言う優人の言葉を聞いて。
楓ちゃんが見えない私を見つめて、口を開く。
「優人さんに聞いてるかもしれませんけど、私は人の顔色窺うのが凄く得意なの。だから、一緒に居る人がどれくらい私の事を見てるのか。私にはわかる。私のタイプは、私をしっかり見ていてくれる人っす。優人さんは、他に見ている相手がいるでしょう?」
――他の、相手。
「……そっか。やっぱ、私がいたらダメか」
当たり前だ。
恋人ができるのに。
他の恋人がいたらそりゃだめだ。
例え……疑似でも。
「優人さんは、凪音ちゃんが大切で。凪音ちゃんは優人さんが大切で……。そんな人を好きになるほど、私は心が強くないっすよ」
大切、か……。
そう、私は優人が大切。
だから、幸せになって欲しいの。最後までっ。
私には、それができない。
最後までなんて、きっと一緒にはいられない!
だから。
「ねぇ、優人。楓ちゃんに聞いて。私が、消えたら。優人の恋人になってくれる?」
優人の顔が、何故か見れない。
「ふざけんな。そんな事、聞けるわけないだろ」
優人は、初めて私の言葉を伝えるのを拒絶した。
「ふざけてない。大切な事なの。わかるでしょっ」
アナタの為なんだよ?
「わからねーよ。お前自分が何言ってるのかわかってるのか?」
わかってよっ。私は、アナタにずっと……。
私、は?
私の、望み?
私は、私の為に……?
でも、それでも!
「わかりなさいよ! 私は、幽霊なの! あんたは生きてんのよっ。この先、いくらでも幸せになれんのっ」
なってくれなきゃ、イヤ!
私は、優人といて幸せで。もうそれで終わり。そういう存在。
でも、アナタはまだ続きがあるでしょう?
「それで俺が幸せになれると本当に思ってるのか? 大体、そんな奴小山が好きになんてなるわけないだろ」
「なるよ! 優人はいいヤツだもん! 私さえいなければ……」
「黙れっ。それ以上言うな」
だって、私さえ……。
「痴話げんかっすか?」
っ!?
「ちわっ。ち、違うもん!」
「いや、そういうんじゃない、けど」
「でも、そういう会話しか想像できないっすよ? お二人とも、もっともっと自分達のありようと向き合ったほうがいいんじゃないっすか? 私はまだまだ二人の事よく知らない。でも、貴方達には貴女達の積み重ねたものがあるんでしょう?」
私達の、積み重ね……。
優人と私の、重ね合わせたキモチ。
わたし、は。
ゆうとが……。
優人、と……。
「私は、優人と……」
ずっと――!
……だめ。
「ごめん。しばらく私に話しかけないで」
これ以上、だめ。
言ってはいけない。
優人の顔も、見たくない。声も、聞きたくない。
溢れて、しまいそうになる。
だから。
ごめん。
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