幽霊のいる秋と交差する想い

第24話 かわいいーっすねぇっ

 ツクツクボーシの鳴き声ももう聞こえない、そんな季節。

 まぁ、要はもう秋なわけだが。

 正直、秋ってどの辺から秋なのかよくわからないんだけれども。

 佐倉とあっちこっち遊びに行ってたら、いつの間にか秋になってしまったのだ。


 そして、遂にこの日がやってきた。


 ずばり、小山に佐倉の事を伝えなくてはならない。


「あー、言いたくねぇ……」

「やっぱ言いたくねーんじゃん」

「そらなぁ」


 幾ら小山が相手でも、憂鬱なものは憂鬱なのだ。


 現在は休日の昼間なのだが、待ち合わせ場所は完全個室完備の居酒屋だった。

 話す内容が内容なので、個室が良いと俺が決めたのだ。


「どもー、お待たせっす」


 軽い挨拶と共に、小山がやってきた。


「いや、さほど待ってないよ」

「ひゃー、恋人っぽーい」


 いや、どこが?

 昼間の居酒屋だぞ?


 俺たちは、居酒屋の個室へと案内されて行った。





「さぁさぁ! 観念して話してもらおーじゃないっすか!」


 テンションたけぇ……。


「わーってるよ。まぁ、その前に飲み物ぐらい注文しようぜ?」

「……またそうやってはぐらかすつもりじゃーないでしょうねぇ?」

「違うよ!」

「ぷぷっ、優人信用されてなーぃ」


 うっせ!



 飲み物や軽い食べ物が来て、俺はようやく本題を話すことにした。


「あー。あれだ。言っちまうとな? 俺は今、幽霊に憑りつかれているんだよ」


 真面目な顔で、小山を見ながら言う。

 小山も、真剣な顔で、返す。


「へ~。で? 落ちはなんっすか?」

「落ちねーよ! 本気。マジなの!」

「ぷぷっ、優人信じてもらえてなーぃ!」


 うっせぇ!


「本気で言ってんすか?」

「本気だ。因みに、憑りついているのは佐倉凪音って名前の、女子高生の幽霊だ。もう、数か月になる」

「数か月……なるほど、確かに」


 小山が考え込むように、顎に手を当てた。


「今も、いらっしゃるんっすか? その佐倉凪音さんは?」

「いるよ。ここにな」


 佐倉を指さす。


「ちょっと、人に指ささないでよ」

(すまん)

「ふーむ。なるほど……。沖縄も一緒に?」

「あぁ、行ったよ」

「楽しかったねぇー」

(そだな)

「あのプレゼント、あれは佐倉さんの選んだものだったわけっすね。合点がいきました」


 あん?

 合点がいった?


「どういう意味だ?」

「あのアクセサリー。私の服やアクセサリーの趣味を考慮した上で、丁度いい感じにしつつ、沖縄っぽさをさり気ない程度に主張するモノになってたっす」


 そんなことしてたの佐倉?


「ふふん! 流石私の見立てっ」


 空中で胸を逸らしてドヤ顔している佐倉。


「そんな事、佐藤さんにできるわけがありません。偶然かなと思っていたんすけど……。そういう事でしたか」

「おい、俺のセンス信じるよりも幽霊が選んだほうが納得いくってか?」

「はい」


 即答しやがった。


「更に、以前の食事の際の服のセンスです。あれ、その佐倉さんの見立てっすね? あれも、佐藤さん本人が選んだとはなんとなく思えません」

「そっちもかよ! ま、まぁその通りだけど……」

「何より、佐藤さんが嘘を言っているとは私には思えませんし。総合的に言えば、信じてもいい話っす」


 どうやら、俺のセンスが壊滅的な部分に信用があったお陰で、佐倉の事も信用してもらえるようだ。

 なんか、嬉しくなーい。


「とは言え、実感が湧きません。その佐倉さんと話せないっすかね?」

「あー、俺が通訳すれば話せるだろうな」

「お願いするっす」


 ふむ、佐倉と小山の通訳ねぇ。


「だってよ?」

「取りあえず、さんづけとかしなくっていいよー」

「さんづけすんなってさ」

「じゃぁ、佐倉ちゃん。佐藤さんは、どんな人っすか?」


 おい、俺がいるのにそれ聞いちゃうの?


「そだなー。優人はー、童貞でヘタレで貧弱で卑屈でー」


 あ、心おれそう。


「んでねー。イイ奴。すごく」


 んんッ! えーっと。

 え、なに。これ俺が言うの?


「何っすか佐藤さん、変な顔して」

「あー。は~……。えっと、童貞でヘタレで貧弱で卑屈で、すごくイイ奴なんだって」

「なるほど、本当にいるみたいっすね。そこに」


 あーそれで信じるんだー……。


「そんで、佐藤さんって……童貞なんっすね」


 ほっとけ!




 それから、小山は佐倉に。

 どういう生活送っているのかとか。

 沖縄で何してきたのかとか。

 あれこれと聞くもんだから、俺が大変だった。


 通訳は、精神力を激しく消耗するのだ……。


「なーるほどっすね。触れていれば喋らなくても通じ合えると。職場まで一緒に居たとは思わなかったっす」

「まぁ、なんとなく佐倉を一人にしておきたくないからな」

「可愛くて人に見せらんないですもんねー?」

「覚えてやがったのか……」


 佐倉は、斜め上のあたりで照れている。おい、ペットの話ってお前は忘れてない?


「いやー、面白い関係っすねー! 色々納得もいきましたし。こんな事を話してくれた佐藤さんは、間違いなく私のお友達っすね!」

「まぁ、そうかもな」


 小山以外には絶対話すことはないだろうから。


「じゃ! プライベートは優人さんって呼んでもいいっすかね!」

「あー、好きに呼べばいいよ」

「じゃ! 三人で遊びにいってもいいっすよね!」

「あー、好きにすればいい……はぁ!?」


 なんだって?


「遊びかー。いいけど、会話が優人経由ってめんどーい」


 そうだな。いや、そういう問題じゃなく。


「遊び? って何する気だ?」

「そうっすねー。もうすぐ秋だし、温泉とか行きましょーよ! 友達と露天風呂とか入ってみたかったんすよっ」

「お前、佐倉と入っても会話も見る事もできんだろ」

「あははっ! やっぱ小山ちゃんおもしろーい!」


 おもしろいかもしれんが、めんどい!


「そこは、男湯から優人さん経由してください」

「めんどくせぇ……」

「いいじゃん、行こうよ優人。私も温泉はいりた~い」


 くっ。二対一……結論が出てしまった。


「わかったよ、行くよ……」

「ほんとっすか? やったーっ」


 子供かっ。


「マジで高級温泉旅館!? やったー!」


 佐倉は勝手に高級を条件につけるんじゃありません!








 こうして、佐倉と小山の不思議な顔合わせは終わった。

 いや、顔は合わせてねーけどさ。


「優人さん」

「ん? なんだ?」

「呼ばなくてもいいっすけど、せめて覚える事くらいはしてくださいね。私の名前」


 ……名前あやふやなのバレてたか。


「うっわ、優人さいてー」

(すんません)


 これは、俺が悪いわな。


「私は、小山楓。か、え、で。っすよ? 覚えました?」

「……覚えたよ。友達の名前は、流石に忘れない」

「そうしてくださいっす。じゃーまたね、佐倉ちゃん!」


 そういって、俺。ではない俺周辺の空間に手をふる小山。


「ばいばーい! 楓ちゃん!」


 早速名前呼びかい。


「ばいばーい楓ちゃん。だってよ」

「うふっ。凪音ちゃんかわいいーっすねぇっ」


 お前もかい!


 ったく。

 なんかこの二人が出会ったことで、俺はより色々めんどい立場になったような……。


 でも、佐倉がこうして俺以外とも交流できるなら。

 それはいい事だと、そう思った。


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