第18話 見てからいいなさいよ!
沖縄二日目。
俺達は朝早くに起きると、そのまますぐに移動。
離島の一つへと旅立ったのであった。
離島であるからには、船に乗らねばならんのだが……。
「よ、酔った――」
初めて知った事だが。
俺って船で酔うんだね。
「なっさけないぁ。私なんて全然平気なのにー?」
そらそうだろ。
だってお前浮いてるやんけ。
(あー、飛行機は平気だったのになぁ)
「飛行機と船は全然ちがうっしょ。まーもうすぐつくってば」
佐倉の言葉通り。船はすぐに到着した。
(あー。死ぬかと思った……)
「なーに言ってんの。そんな事で人が死ぬかっ」
(そりゃそうだけど……っすまん)
「はぁ? 別にあやまんなくても……。あっ。あぁーそういう」
無神経な事を、言ってしまった。
デリカシーが無いとはよく言われるが。やっぱり俺には人を気遣う神経が足りていないらしい。
佐倉は、呆れたように溜息をついている。
「ばっかじゃないの。私がそんな言葉いちいち気にするわきゃないっしょ」
そうなのかもしれないが。
だからと言って、俺の無神経さが許されるものでもない。
(まぁ、気にしなかったのならいいんだが。一応な。すまん)
「だからっ。あやまんなぼけっ」
佐倉に、蹴りとばされる。
真似事をされたのだった。
「でー? なんだっけ? カヤックだっけ?」
(そうだな。なんか小さな船みたいなヤツな)
まさか、あれでも酔ったりしないだろなぁ……。
俺達は、船から降りて次の目的地に移動を開始していた。
その間にだいぶ酔いもましになってきて、さっきの無神経発言の自己嫌悪も同じくましになってきている。
まぁ無神経さのほうは自己嫌悪したところで、簡単になおらないからタチが悪いんだけど。
無神経というか、本質的に他人にあまり興味を持てないということなのだろうけどなぁ。
「私カヤックとかはじめて! まぁ漕げはしないけど、結構楽しみぃー」
――それでも。
大して興味を持てなくとも。こんな日本の南の果てまで来ているのは。
確かに、そこで嬉しそうに笑っている佐倉のお陰だった。
一人ではまずこんな所まで来ようとは思わない。
もし佐倉がいなければ。
今年も、来年もその次も、ずっと。
俺は一人、部屋に閉じこもって無為な夏を過ごしただろう。
今回来てみて実感した。
こんな場所、俺なんかが一人で来て楽しめるわけがないのだ。
だからといって、だれか友人を作れるような性格を俺はしていない。
「ちょっと、なに? じーっと見て?」
佐倉が、不審な顔で俺を見ている。
どうやら、ぼーっと佐倉を見すぎたらしい。
(あぁいや、なんでもない)
「まーったく。わかってるーって」
(はい? 何が?)
佐倉は、ふふーんと得意げな顔になった。
「水着。みたいんでしょー? 後でちゃーんと着るから。待ってなって」
Oh……。
アホかこいつ。
(あのなぁ)
「んー?」
はぁっー……。
(ありがとな)
「はぁっ!? せめて見てからいいなさいよ!」
あぁ。
俺、こいつの程々にアホなところ。
結構好きなんだなぁ……。
「すみません。二人乗りを乗りたいんですよ」
「え? あ、あのー。御一人様です、よね?」
「はい。でも、どーしても、絶対に二人乗りに一人で乗りたいんです!」
すごく、とてつもなく恥ずかしいし。気まずいが。
カヤック乗り場にて、係員のお姉さん相手に二人乗りで押し切ってやった。
いいんだ。旅の恥は掻き捨てって言うし。
「あははー。なーんかごめんねー?」
(あー、ま。気にすんな)
笑いながら申し訳ない表情をする、という器用な真似をしている佐倉に適当に手を振って答える。
二人乗りのカヤック。
その前に佐倉が疑似的に乗り込み、後ろに俺が乗った。
漕ぐのは実質俺だけだが。
「んじゃーいくぞー」
現在の形式上、触れられないので実際に声を出す。
ま。
周りに人いないし、構わんだろ。
「おーっし。漕げ漕げー!」
「はいはいっと」
普段見る植物とは明らかに植生の違う森の中。
カヤックを漕いで進んでいく。
すると佐倉が周りを見渡しながら、感心したような声をあげる。
「おぉー。これあれでしょあれ。えーと。マン……マング……」
なぜそこまで出てきて、思い出せないのか。
「マングローブだよ。まぁ、正確にはこの植物の名前そのものではないけどな」
「そうそうマングローブ! いやー、マングースがチラついちゃってさぁ。検索ぱっとできないって不便だわぁ」
「この現代っ子め」
スマホあれば、なんでも調べられちゃうからな。
ふと思ったが、佐倉だってスマホを使っていたからにはSNSの類やらもやっていたはず。
だったら、今はそのアカウントとかはどうなって……。
いや、やめておこう。
これは、多分佐倉にとっては家や学校に行くのと同じ類の話題だ。
例え、どういう現実だろうと。
本人が望まないものを、まだ受け入れがたいものを。
突きつける気には、俺にはなれない。
それが、間違っているのかどうかも。わからないけれど。
カヤックでの川下りを楽しんだ後。
昼飯を簡単にすまして。
今度は海岸に俺達は出てきていた。
次は、シーカヤックというのに挑戦するのだ。
しかし、川下りのほうは俺以外にも客がいたが。
こっちは全然いない。
というか、係員さんも最初のカヤックを貸してくれる時以外いない。
どうやら、大体の人はダイビング体験というのに行ったらしいな。
「うっひゃ~!! 超キレイ! 海青っ。砂白っ。写真とってアップしーてわ!」
「あぁ、そうだなぁ」
確かに、綺麗だ。
写真ではよく見た事があるが。
実際にみると、やはり多少の非現実感がある。
まぁ写真とったりするほどはしゃげはしないが。
「んーとはいってもさぁ? ダイビングじゃなくてよかったの? そっちのほうが人気っぽいけど」
「あー。それなぁ。ダイビングはさぁ。船に乗るんだよ」
「船に。あ……」
そう。また酔う事必至なのだ。
どうせ帰るときにはまた船に乗るのだが。
更に、ここで乗りたくはない。
それに。
「つっても元からこっちの予定なんだよ。だって、ダイビングなら佐倉はいくらでもできるだろ?」
「え? あっ。そうねっ。そうだよねっ」
そう。佐倉はいくらでも危険なしでダイビングできるのだ。
インストラクターなど必要ない。
「でも、それじゃ優人ができないじゃん」
「俺はいいよ。耳痛くなったら嫌だし。船乗ると酔うし」
「この貧弱野郎」
「うっせ!」
事実を言うな。
それは最も人を傷つけるのだぞ。
なんだかんだ言いつつも。
佐倉はまたテンション高めに船に疑似的に乗り込んだ。
先ほどの川と違い、波に若干揺られつつカヤックを漕ぐ。
酔うかと思ったが、意外と大丈夫だった。
小さいと逆に大丈夫だったりするのかな?
「はぁ~。なんか、いいわぁ~」
「……そうだなぁ」
見渡す限り。
殆どが、青い海と、青い空。
途轍もなく開放感があった。
振り返ると、白い砂浜と島が見える。
本当に非現実的な景色で、その中をぷかぷかと小舟で浮かぶ。
なんだか、世界に俺達二人しかいなくなったような錯覚すら覚えた。
「ねぇーゆうと」
「なんだ?」
「私、今すげー気分いいわぁ」
なんという大雑把な感想か。
けれど。
「あー。俺も。すげー気分いいわ……」
正直。同感だった。
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