黙って私に射抜かれて下さい。

寿タヱ

気づいてから恋

1.責任とって下さい。



「青葉 大夢 (あおば ひろむ)。

俺は今日、死のうと思ってこのビルの屋上にいます。

理由は、特に何も起こらない刺激のない毎日に飽き飽きしてきたからです。

この音声テープを撮ってるのも、なんとなく刺激があるかなと。

よりによって今日は天気がとても良いです。

祝福されてるみたいでちょっと複雑ですが、

そろそろ逝っちゃおうと思います。

......うお、結構高いな」





俺は手に持っている音声テープを足元に置いた。

これを俺が死んだ後に誰かが聞くと思うと、少し胸が高鳴るので多分俺は末期だ。




ゆっくりと死の淵へ歩く。

冷たく、気迫のある風が足元から吹き付ける。

これで怖くない人がいるもんか。





「これ、結構やばいやつじゃね?」






今になって馬鹿馬鹿しいなんて言ってるのも

男らしくないと、思ってしまう馬鹿です俺は。






「よし、逝くか!」






「あ、先約ですね。頑張ってくださーい」





ふと、後ろから声がする。

柔らかくて優しいのに、少し気怠そうな声。


後ろを振り向くとそこにいたのは

女子高生だった。


肩より少し上の長さの黒髪に、

端正な顔立ち。


見た目をスイーツで表すなら、そうだなぁ

マスカットをいっぱい使ったゼリー。

ちなみに俺は、会った人をスイーツで例えるのが自分の中の楽しみである。

ならこの子が、俺の人生最期の例えスイーツだ。







......っと、そんな話をしてる場合じゃなかった。






「すみません、先いいですか?」






その女子高生は、軽々とフェンスを乗り越えてくると、

あっさりと死の淵までやって来た。







「来世で会えるといいですね、私達。

じゃあ、また来世」







と、女子高生は大きく両手を広げた。






「おいおいおいおい、まだ死ぬなって!

色々これから楽しいことあるって!な!」





気付いたら俺は止めてた。

そんな俺を女子高生は、シラけた顔で眺める。






「今死のうとしてる貴方が、私にそう言ったところでなんの説得力も無いです」






うぅ、確かに。





「でも、嬉しいです。

止めてくれる人が最期に居てくれて。

あの、ポケットにたまたま入ってた飴ちゃんあげます。

お礼です、冥土の土産」







......え、縁起でもねぇ。






そんな俺の気持ちを知らないで、

女子高生はゆっくりと重心を前にかけ始める。




おいおい、俺はこの女子高生の

死に際を見てから死ぬのかよ!?

それは御免だ。



俺はキッチリと結んだスーツのネクタイを緩めた。

そして、そのまま彼女の手を後ろに引っ張ると

力付くでフェンスに叩きつけた。




ガチャンと大きな音がした。

女子高生は俯いたままだった。







......え、待って。気絶した?






素直に心配した俺は、彼女の顔を覗き込む。

その瞬間体がグラつく。






「痛っ......うわ!近!」






気付くと俺と女子高生との顔の距離は、ほんの数センチになっていた。

どうやら、ネクタイで引っ張られたらしい。



おまけに俺はその衝撃で、彼女にいわゆる壁ドンならぬ、フェンスドンをしてしまっていた。





「.......下さい」




「.......へ?」




彼女の柔らかい声色が、鼓膜と心臓を振動させる。




「......責任とって下さい。

貴方がこんな事するから、死ねなかった」





「えっと......どうしたら......」





あからさまに挙動不審な俺を、彼女はまっすぐな瞳で見つめる。





「私には生きる理由が必要なので、私は貴方の事を好きになります」





「......へ?」






......女子高生とは一体。






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