第128話 ソフウィンド of view

 「村に行きたいって奴は、名乗りを上げな」

 ソムニさんの力強い掛け声。

 自然と湧き上がる感声と共に、皆が名乗りを上げた。

 

 「……待ちな、お前ら」

 しかし、当の本人である、ソムニさんが、冷静にそれを止める。

 

 「これは、いつもの軽いノリじゃあないよ。真面目に考えな……。一度村に行けば、生きて帰ってこれないかもしれない。もし、生きて帰ってこれたとしても、病気をもらってきちまうかも知れない。……どちらにしろ、もう、この家には戻れないと思いな」

 ソムニさんの厳しい言葉に、皆は静まり返る。

 しかし、彼女の言うとおりだ。そんな軽いノリで、行くべきではない。

 俺だって……。死ぬ覚悟ぐらいしている。

 

 「私、行きます」

 皆が困惑し、黙りこくる中、カーネがゆっくりと、立ち上がる。

 しっかりとした。覚悟の決まったような、声だった。


 「お、お前!」

 勢い良く立ち上がる、ベル。

 「だまりな!」

 それを一蹴いっしゅうする、ソム二さん。


 ソム二さんはカーネの瞳を鋭い視線で見つめる。

 しかし、カーネの瞳は揺るがなかった。


 「……そうかい。あんたが決めたんなら、私は何も聞かないよ」

 そうは言いながらも、ソムニさんは、依然、厳しい視線でカーネを見つめる。

 行って欲しくはないのだろう。

 

 「……他に行きたい奴は?」

 しばらくして、ソムニさんは名残惜しそうに、カーネから視線を逸らすと、改めて皆を見回す。


 「お姉様が行くなら、私もお供しますわ!……わめくだけの負け犬とは違ってね!」

 ビリアは元気よく立ち上がると、ベルを睨む。


 「……分かった。僕も行く。それなら、文句はないだろ?」

 ベルは頭を掻きながら、渋々と言った風に、答えるが、カーネが行くと言った時点で、決心はついていたように思える。

 

 「じゃ、じゃあ、私も……」「俺も……」と、年少組が続くが、ソムニさんは「残念、時間切れだよ」と、言って、止める。


 それを見て、ベルも、リビアも、少し安心したような顔をしていた。

 二人とも、この事態を危惧していたのかもしれない。


 普段は適当な奴らだが、これでも、それぞれ、男女の年少組リーダー。

 それなりの状況判断と、覚悟はできている。

 しかし、他の年少組は、年相応だ。空気に流され、付いてきては、どう転んでも、不幸にしかならないだろう。

 

 「……お前たちも、いくなら、早く行きな。もたもたしてる分、村が、取り返しのつかない事になるよ」

 ソムニさんは、駄々をこね始める、年少組をなだめながら、呟く。

 

 彼女は俺達をぞんざいに扱っているわけでも、心配していない訳でもない。

 ただ、俺達を、俺達の選んだ道を信じてくれているだけだ。

 だから、理由も聞かない、多くも聞かない、お別れも、言わない。

 それなら、俺達が言うべき言葉も、別れの言葉ではないだろう。

 

 「ありがとうございます!」

 俺が頭を下げると、合わせるように、3人も、ソムニさんに向かって深々と頭を下げた。

 

 「……分かったから、早く行きな」

 背を向け、こちらに顔を見せない、ソムニさん。

 

 「はい。……行ってきます」

 「行ってくるな!」

 「行ってくるね~」

 「行きましょう!お姉さま!」

 

 俺らはそれぞれに、出発の挨拶を口にする。

 

 「「「おう!!元気に行ってこい!!」」」

 残った皆が、元気な、少し震えた様な声で返してくれた。

 

 俺達は、家の扉を潜ると、もう振り返らない。


 これから起こる事は、すべて自分の責任だ。

 何が起こっても、誰も守ってはくれない。

 自分の道は、自分の手で切り拓くしかないのだ。

 

 ……無事でいてくれよ。ロワン。


 4人の駆け出し冒険者達は、それぞれの思いを胸に、村へと向かう。


 自身の決めた道を、自身の責任で突き進む。

 その覚悟を決めた、小さな後ろ姿は、もう、立派な大人の背中だった。

 

===========

 ※後書き。

 

 新作を連載開始した為、当作品の更新頻度は週一程度で、様子見をしたいと思います。

 

 興味があれば、新作の方も覗いてみてください。

 では!

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